酒蔵に聞く

同い年で同じ誕生日、巡り合う滋賀県の蔵元がコラボ酒を発売! 誕生日に醸す日本酒に込められたメッセージとは?

滋賀県「田中酒造」と「浪乃音酒造」。琵琶湖を挟んだ両蔵元は2024年2月6日で54歳。同じ年に加え、同じ誕生日という縁が。そんな2蔵が2024年4月に限定コラボ酒を発売。それぞれの酒造りとコラボに懸ける想いを聞いた。

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滋賀県の湖東、甲賀の酒蔵「田中酒造(春乃峰)」、湖西、堅田の酒蔵「浪乃音酒造(浪の音)」琵琶湖を挟んだ2蔵が同じ年で同じ誕生日という縁からオリジナルコラボ酒をセット発売する。
誕生日の2月6日に同時に酒を仕込んだコラボ酒造りに密着。コラボに至る経緯やお互いへの想いをインタビュー。

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五代目蔵元 田中重哉さん
プロフィール
1996年に家業に入り、杜氏のもとで修行。平成12年に蔵元杜氏となる。和醸良酒をモットーに奥さんと二人三脚でお酒を仕込む

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十代目蔵元 中井孝さん
プロフィール
1996年に浪乃音酒造入社。3兄弟で長年酒造りに励む。2021年からは十一代目蔵元 中井充也さんも加わり新ブランドも展開する

1. 同じ年、且つ同じ誕生日の蔵元が繋がる縁

出合いは20数年前、酒造組合の会だとか。
記憶は定かではないが知らない間に仲良くなった二人。
同じ滋賀県の蔵元として、切磋琢磨してきた間柄だ。
奇しくも同じ年で同じ誕生日、出合いとコラボのきっかけについて話を聞いた。

「中井さんとは普段お酒の話をしないんです。たまたま同じ誕生日でお互いSNS上でお祝いの言葉を伝えていたら、ふと同じ年ということに気付いて、そこからイベントなどを企画しましたがコロナになって実現できなかったんです。今回のコラボは私の方から声をかけさせていただきました。」と田中さん。

その時中井さんは一発返事だったそう。


「面白いなと思って即答でやろうとなりました。田中さんのこと大好きなんで」と中井さん。

改めて両蔵に対する想いを聞いた。

「蔵の規模や人格、家族への想いも中井さんの方が上、いつも引っ張ってもらっています。何かにつけて目標、想いを伝えるとろこが多い。極力足を引っ張らないように、一緒にできることで浪乃音さんにもいい効果があれば嬉しい。」と田中さん

一方の中井さんも「田中さんにおんぶにだっこ。田中さんは馬力のある人、いつだったか、こんなにできるんだ思ったことがあった。信頼しているし、気取らないから接しやすい。同じ誕生日という縁でどっちが先輩、後輩もないからね」

共に信頼し合う姿が印象的だ。

2. 次世代に向けたメッセージ

今回のコラボには共通するメッセージや想いがあるという。
浪乃音酒造は孝さんの長男でもある十一代目蔵元 中井充也さんが2021年に入り新しいブランド「Te to Te(てとて)」を立ち上げた。一方田中酒造、重哉さんの息子さんは現在大学生で京都の日本酒居酒屋でアルバイトをしている。最近日本酒に興味を持ち始めたとか。
「将来はどうなるかわかりませんよ」という田中さんだが少し嬉しそうだ。

実際に充也さんが酒造りにも加わっている中井さんはコラボに関して
「息子がどんな感じなの?って聞いてくる」と少し嬉しそうだ。
充也さんは福島県で4年間修業後、浪乃音酒造に入社。
2人の酒造りはもちろん、麹菌も違う。細かく言えば汲水、手触りも全く違うという。
「口出しは一切しないです。聞いてきたら別ですけどね」と中井さん。
売り先、売り方、ブランディングも違う。何より“自分の造りたいお酒”への想いを尊重しているという。
若さ溢れる“やってやろうという気合い、熱い想い”は身近で感じており、いい意味で引っ張られることもあるという。
今回のコラボで「まだまだ日本酒には可能性があるということを知ってほしい」と中井さん。

奇しくもお互いが同じタイミングで次の世代を意識する機会が増えた。
「ここ5年がひと踏ん張り、まだまだ親父も頑張れるというとこを見せたい。」と田中さん。
共通するのは“次の世代に向けてバトンタッチ”というメッセージだ。

3. オリジナルコラボ酒造りに密着

1911年創業[田中酒造]のモットーは、「和醸良酒」。美味しいお酒で縁をつなぐという意味だ。仕込みの時期は妻の智子さんと二人三脚で酒造りに励む。
田中さん自身が酒造りをするようになり25年。水も米も地元さん、地元に密着した自分の造りたいお酒を造っている。

1805年創業[浪乃音酒造]の理念は『古壷新酒(ここしんしゅ)』。俳人・高浜虚子の造語で、『伝統を守りながら新しいことに挑戦する』という意味だそう。
孝さん含め3兄弟で能登杜氏より技術を学び酒造りに励む。
そして3兄弟の背中を見て育った充也さんが孝さんの想いを継承している。

そんな2蔵がコラボする酒造りでは互いの想いや方向性を話し合われたそう。
「誕生日でもある2月6日の留掛(とめがけ)を目指して、酵母を何するか?いつ仕込むのか?など調整が大変だった。なんとか留めれたかな?」と経験豊富な中井さんでも安堵の表情。

お米は山田錦50%磨き、純米大吟醸、酵母1401

浪乃音酒造は以前は酵母1401のお酒がメインだったが、現在、酵母1401は1種類のみという。最初は酵母901や香り系で造ろうと考えていたが、初心に戻り酵母1401を採用した。

「14号は昔使っていたが出来が良くなく合わなかった。中井さんからの提案があってチャレンジしてみようと思った」と田中さん。

「普段はあまりしない掛下げ(※醪の仕込みで、水麹よりも低温の蒸米を投入して、目標の仕込温度にまで下降させる仕込方法)という方法で造っており、浪乃音同様のキレイなお酒を目指しています。」と中井さん。

田中さんは味がしっかりのったお酒、中井さんはシャープできれいな酒にしたいという。

今回のコラボ日本酒は同じ種類のお米、同じ酵母を同じタイミングで醸される。
同じ米や酵母でも、それぞれの蔵の特徴がプラスされれば味わいも違ってくる。

ラベルは2人共通の知人が担当しており、それぞれの銘柄を統一し2本がひとつになるように考えているという。4月14日発売予定で2本セットで販売。

「飲んでみてのお楽しみ。飲み比べを通してそれぞれの良さを楽しんで欲しい。」と田中さん
「おしゃれなお酒になると思いますよ」と中井さん
この言葉から味を想像すると今からワクワクが止まらない。

4. 両蔵こだわりのお酒

[田中酒造]の「春乃峰」は少し甘めで、濃厚な飲み口のお酒。「ずっとここの水と米を使っていますから、それは創業以来、変わってないと思います」と田中さん。

・春乃峰 純米大吟醸酒/契約栽培の甲賀産山田錦を100%使用。飲んだ瞬間広がる甘み、あっさりとした後口が特徴。冷で飲むのがおすすめ。通年販売

・春乃峰 純米吟醸 玉栄55 生酒/地元産玉栄を使用。香り系酵母の華やかさとしっかりとした米の味わいを感じられる生酒。冷で飲むのがおすすめ。通年販売。

・春乃峰 特別純米 無濾過生原酒 楓葉~かえで/新酒しぼりたてを瓶貯蔵でひと夏熟成。酸味の利いた白ワインを思わせる純米酒。冷か燗で飲むのがおすすめ。通年販売

[浪乃音]のこだわりは“上品な甘み” ねっとりとした甘味ではなく、すっきりとキレのある中で甘味。水は、水道水を4回濾過し、酒造りに適した水にしています。酒米は山田錦、雄町、愛山、渡船をメインに使っている。

・浪乃音 純米大吟醸「渡船」生酒
滋賀県で復活した日本古来の酒米「渡船」を使用。やさしい味わいながら米の深みもしっかり。

・浪乃音 ええとこどり純米酒超辛口無濾過生原酒
辛さだけではなく、旨みをしっかり残した味わいが魅力。最後の味のキレが特徴的。

・ええとこどり「純米吟醸 901酵母」生酒
山田錦を50%まで磨き、まろやかな味わいで、後口の余韻が優しく消えていく。

・浪乃音  純米大吟醸「備前雄町」生酒
雄町特有の芳醇で深いコクのある味わいで、麹由来の酸が絶妙に味のバランスを整えている。

4. 完成したコラボ酒と今後の展望

純米大吟醸 生酒
山田錦/精米50%/酵母14号/アルコール度数15%
販売数:限定500セット
予約はこちらから

コラボ酒は4月14日発売予定で、SNS等で詳細を発表する。
試飲会などのイベントも検討中だ。
・田中酒造
https://www.instagram.com/tanaka_syuzo/
・浪乃音酒造
https://www.instagram.com/naminooto_shuzo/

今後のコラボへの想いも聞いた。
「商売だけど、遊びのような感覚。酒の会など、2人で一緒に全国ツアーをしたい。
例えば、それぞれの蔵に行ってお酒を造ることや、両蔵のお酒のアッサンブラージュ(ブレンド)なども面白いね。コラボは1、2年だけではなく、最低でも60歳還暦までやりたい。それまで長生きせなあかんし」と笑顔の中井さん

「まだまだ54歳、次世代には負けない」と豪語する田中さんの言葉も力強い。

日本酒を通したメッセージは次の世代にも継承されるだろう。
想いの詰まったお酒が届くのももうすぐだ。

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