開春 倇
若林酒造 | 島根県
若林酒造有限会社
世界遺産、石見銀山のほど近くにある島根県大田市温泉津町(ゆのつまち)。日本海側の山間に位置するここは、古くから温泉街として知られている。若林酒造はこの地で1869(明治2)年に日本酒造りを開始した。石州瓦の屋根に据えた、年季の入った銅板の看板がその歴史を物語る。現在は5代目蔵元を若林邦宏さんが務めている。酒造りには蔵から4キロメートル離れた山から湧き出る岩清水を使う。米は主に、県内産の「山田錦」や岡山県産の「雄町」に加えて、島根県で開発された「神の舞」や「佐香錦」などの酒造好適米を使用。昔ながらの甑(こしき)や麹箱などの道具を用いた丁寧な仕込みで、米本来の旨みを存分に生かす酒造りを目指している。
また、若林酒造は生酛(きもと)造りも得意としている。生酛造りとは伝統的な酒母の製法で、天然の乳酸菌が使われる。目には見えない微生物との戦いを勝ち抜いた強い酵母によって、コクのある濃醇な味わいを生むそうだ。生酛造りで醸す「開春 倇(おん)」の名は、ある晩3代目蔵元の妻の夢枕にお釈迦様が現れて、「倇」という文字を授けられたことが由来。その出来事以来、若林酒造のお守りの言葉になったという。それから2代を経て2003(平成15)年、長い間使われていなかった木桶を使った酒造りを復活。そこで出来上がった酒を「倇」と名付けた。この言葉は蔵の中や店舗のあちこちに貼られているほか、実は全ての酒瓶にも小さく印字されている。この文字には「喜び、楽しむ」との意味がある。それを受け、この蔵では万人ではなく、自分たちがまず「おいしい!」と感じる日本酒を追求することを信条としているのだそうだ。