大吟醸 宵の月
月の輪酒造店 | 岩手県
有限会社 月の輪酒造店
月の輪酒造店は、もともとは「若狭屋」という屋号で麹屋を営んでいた。その名の通り、先祖は若狭(現在の福井県)から南部杜氏発祥の地である岩手県紫波町(しわちょう)へ移ってきたという。1886(明治19)年に横沢家の4代目当主・徳市が酒造業を開始した。
社名と代表銘柄である「月の輪」は、「月の輪形」という史跡が由来となっている。平安時代後期に起こった前九年の役(1051-1062年)で、酒蔵近くの現在の蜂神社のあたりに源頼義・義家父子が率いる大軍が宿営していた。ある月夜のこと、池に源氏の日月の旗が映り、月明かりに照らされて金色に輝いたという。それを勝利の吉兆と信じ、敵軍に攻め入ったところ見事に勝利を収め、その礼として池に「太陽と月」の形の島が造られた。今では、それぞれを「日の輪形」「月の輪形」と呼び、その縁起の良い「月の輪形」にちなんで名付けられたというわけだ。
蔵元の当主自身が杜氏を務める「蔵元杜氏」は今では珍しくない存在だが、その先駆けとなったのが月の輪酒造店2代目・清助だ。そして、杜氏には就かなかったものの県内の酒蔵を回り指導に当たった3代目、やはり蔵元杜氏となった4代目と横沢家では代々、その醸造技術とセンスが受け継がれてきた。そして現在は横沢家8代目当主の裕子(ひろこ)さんが5代目杜氏を務めている。「企業としてではなく、家業として」を蔵の理念に掲げ、親から子へと連綿と「横沢家」の技と味が守り継がれてきた。
酒造りには自蔵の敷地内の井戸から汲み上げた水を使用。酒米は約9割が岩手県産の酒造好適米で、残る1割は全国各地の米を使っている。他の地域の米を使うことで新たな気づきを得るためだという。
紫波町は全国1位のもち米生産量を誇る土地だ。5代目杜氏・裕子さんはその地元の名産を使った純米酒造りにも挑戦。一般的にもち米は酒造りに不向きとされているが、試行錯誤の後に地元産もち米を100%使った純米酒の醸造に成功した。これまでの技をたんに継承するだけでなく、新たな味わいにも挑み続けるのが「家業」を守る秘訣なのかもしれない。