料理家「真野遥さん」が新たに発信する発酵・酒屋・角打ちの魅力
料理家「真野遥さん」が新たに発信する
発酵食&酒屋・角打ちの魅力
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- 料理家・真野遥さん
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プロフィール日本酒に合う発酵食の提案を中心に、レシピ開発やコラムの執筆、料理教室の主宰(一時休止中)など幅広く活動中。2023年に東京から京都へ移住。著書に『手軽においしく発酵食のレシピ』(成美堂出版)、『いつものお酒を100倍おいしくする最強おつまみ事典』(西東社)がある。
叡山電鉄元田中駅から徒歩3分、英語塾脇の路地を左に入った町家の玄関先で小さな酒屋を始めた真野遥さん。オープン日は2023年6月24日、いわゆる角打ちで全種類の日本酒が飲めて、気に入ったものは購入が可能。発酵食のおつまみとのペアリングが楽しめ、ほかにも真野さんが厳選した醤油や味噌などの調味料、鹿肉を販売している。
カウンターを兼ねた酒棚と角打ちの丸テーブルは、クリエイティブユニット「SIBO」に依頼したお気にいり。お酒の提供は「今宵堂」のかわいいお猪口でと、真野さんの好きなものが小さな空間にぎゅっと詰まっている。
日本酒が全ての始まり
発酵食をテーマに多方面で活躍する真野さん。そもそも発酵に興味を持つきっかけは日本酒だったとか。フードコーディネーターを目指していた頃、日本酒のPR活動をしている人物との出会いから、酒蔵の取材や酒の会の料理を担当するようになり、「日本酒と料理は合わせ方によって、お互いにぐっと美味しくなるんだと実感しました」。ビールの後味をスッキリ切る感じに対して、日本酒は美味しさを引き立てる。その違いをおもしろく思った。
10年前くらいのことで、全国的に酒造りのレベルが上がり、さまざまなタイプの日本酒が作られるようになった時期。「飲むたびにこんな味わいがあるんだ、と発見がたくさん。そうしたタイミングだったのも大きかったです」。
これまでに訪問した酒蔵は約70蔵。酒蔵の取材を始めた頃、発酵中のタンクを覗いて元はお米だったもろみから果物のような香りがする不思議や、絶妙なバランスで発酵をコントロールする技術にふれ、目には見えない発酵の作用に神秘を感じた。
「最初に甘酒を作ってみたら失敗したのが悔しくて。ますます発酵について知りたくなり、
ちょっとの間ですが、東京農業大学醸造科に研究生として通ったこともありました」。
いまや味噌や漬物など日本の伝統食にとどまらず、世界の発酵食にも興味を広げている。最近はラオス料理「小松亭タマサート」の小松聖児さんに教わって、パデーク(魚醤の一種)や肉のなれずしを作ったり。「これはお店では出せないので、noteなどでレシピを紹介していこうと考えています」。
日本酒を美味しくする発酵おつまみとのペアリング
※日本酒は45mlの価格
仙禽オーガニックナチュール 400円×発酵ウフマヨ 500円
米と麹、水だけで醸した完全無添加の日本酒。蔵付き酵母で精米歩合90%の生酛造り、しかも木桶仕込みという昔の製法を再現している。「ラベルがワイン風なのでフレンチっぽいものを」と発酵ウフマヨとのペアリング。クラフトサケブルワリー「稲とアガベ」の酒粕入りトリュフの香りが贅沢なマヨネーズソースを添えたゆで卵。
辰泉 純米酒 300円×ニシンの山椒漬け 500円
会津若松の地酒「辰泉」に合わせたのは、同じく会津若松の郷土食、ニシンの山椒漬け。山椒の香りがきいた甘辛いニシンはおかずにもお酒のアテにも。「これは地域あわせですね。ニシンの山椒漬けは『酒菜 天味』さんに作ってもらっています。『辰泉』は地元に根ざしたお酒で蔵元もとてもいい方。ぬる燗で飲んでも美味しいですよ」。
花巴 水酛純米 無濾過生原酒 350円×ふなずし飯のチーズケーキ 500円
チーズケーキは東京のパティシエとの共同開発。「生地にふなずしの飯を練り込んであり、コーヒーより日本酒に合うスイーツです。『花巴』とは酸と甘さの方向性が近い、発酵同士あわせですね」。生米を水に浸して乳酸発酵させた水酛造りは室町時代の製法を再現したもの。チーズやヨーグルトのような香りでほんのり甘酸っぱい。
ほかにもこんなお酒がおすすめ
岩清水 GOWARINGO 生原酒 500円
生産量が少なく、扱いは名古屋から西ではここだけ、全国でも10軒のみという希少酒。搾る過程から保管、流通までマイナス5℃以下の温度管理を徹底している。「麹割合5割、リンゴ酸の出る酵母を使用した、フレッシュで雑味のない味わいです」
丹澤山 純米酒 麗峰 90ml600円
60℃以上の熱燗がおすすめで食中酒にぴったり。「ていねいに熟成されているお酒ですが、いわゆる熟成香というのはそんなにありません。私が熱燗に目覚めたお酒で、飲み疲れせず体にすっと馴染む味わいです」
スパークリングホップサケ SOUR ver. 330ml1,430円
「ぷくぷく醸造」は福島県が拠点のファントムブリュワリー(施設を持たない醸造所)。京都では手に入るのはここだけ。「ホップ入りのお酒で、ホップジャパンというクラフトビール醸造所で作られたお酒です。アルコール8%でゴクゴクいけると好評です」。
真野さんの目指す先
京都での毎日は刺激がいっぱいと真野さん。京都の魅力は自然と都会の距離感のちょうどよさで、東京にいた頃とは暮らしが一変したそう。「大原で畑を始めたり、琵琶湖での漁師体験や野草料理をしたり。よりシンプルに素材と向き合うようになりました。また、地元の方に伝統食のレシピを教わるなど、これまで教える側だったのが学びなおしをしています」。
この店はいわばスタート地点。ゆくゆくはもっと広い場所で、ワークショップのできる空間を併設したいとのこと。今の場所では手始めに柴漬けや梅仕事の仕込み会、冬には味噌作りを予定している。ほかにも「蔵元を招いての会や飲食店とのコラボ、レコードのコレクションを生かして、音楽を聴きながらの日本酒の会もやってみたいです」。
この小さな酒屋からどんな大きな人の輪が広がるか、これからが楽しみだ。