
純米吟醸「初穂乃香」
澤田酒造株式会社 | 奈良県
澤田酒造(奈良)
「酒のもと」という意味の「みむろ(実醪)」が由来し、酒の神様を祭る三輪山を仰ぐ香芝市五位堂。西には万葉集にも詠まれている霊峰・二上山がそびえる。[澤田酒造]は、この奈良盆地の西端に位置し、江戸時代末期に創業した。
[澤田酒造]は、初代当主の澤田定四郎が五位堂で紺屋業を営む傍ら、近隣で収穫された米を使って酒造りを始めたのがその始まりである。1899年には3代当主・澤田定十郎が造り酒屋として酒造業が本格化。
その後、4代当主・澤田定司が醸造学を学び、酒質の向上に大きく貢献。そして5代当主澤田定子は、声楽家として活躍する傍ら、現在の代表銘柄「歓喜光」を生み出すなど、代替わりしながらも奈良を代表する酒蔵として成長した。
平成に入り、製造従事者の高齢化により一時期自社での醸造が難しく、主要な製造工程を外部に委託する期間があった。しかし、同業他社の協力のもと、2020年には約30年ぶりに自社醸造が復活するに至る。2023年に現在の当主が7代目となり、日本清酒発祥の地として、奈良酒の伝統を今に伝え続けている。
休造期間によって、当時の酒造りを知る熟練の蔵人がいないものの、小さな酒蔵だからこそできる基本に忠実な酒造りを行っている。醪の些細な変化も見逃さず、厳密な温度管理と均質な発酵を可能にするため、小さな仕込み小仕込みにこだわる。その情熱と繊細さが、日々の酒造りに反映されている。
1975年に誕生した「歓喜光」は、純米酒を中心とする高品位志向銘柄で、吟醸クラスでは麹米、掛米の全量を、純米酒においても麹米に兵庫県産山田錦を使用。奈良酒の伝統を受け継いだ濃醇な味わいとキレのある酸味で、飲む人に歓喜をもたらす味わいとなっている。
また「地産地醸」をスローガンに、香芝産原料のみで醸す正真正銘の地酒にこだわった「香芝マインド」シリーズも。地元農業の振興、伝統技術と文化の継承、世界に向けた日本食文化の発信を目的としており、清酒発祥の地の誇りを胸に、奈良酒の持続可能な製造を未来へと繋げている。
4代目当主で醸造学者だった定司が礎を築いた健康食品事業、そして5代目当主の定子の没後に始まった音楽教室の運営事業も含め、[澤田酒造]は酒、健康、音楽を通じて「人々の喜び醸す」ことを使命とし、長い年月をかけて愛情を注ぎ、酒質の改良への努力を惜しまない。
休造期間があったからこそ、既成概念にとらわれず、伝統と革新のバランスを保ちながら未来へと繋げていく。創業200周年を目前にした[澤田酒造]の酒造りはこれからも続く。