高槻の団地でクラフトサケを造る!たった8坪の小さな酒蔵[足立農醸]の足立洋二さんにインタビュー。
大阪府高槻市の団地の一画をリノベーションして、酒蔵を作ってしまった人がいる。[足立農醸]はスペースこそ小さいものの、見据える未来はとてつもなく大きかった。夢に向かって一直線に突き進む、代表者の足立洋二さんにインタビューした。
2023年に立ち上げたニューフェイスの酒蔵が[足立農醸]。「団地の酒蔵」というキャッチフレーズが印象的だが、それだけじゃない勢いと商品力で早くも目が離せない存在となっている。その理由について迫ってみた。
この方に話を聞きました
- 足立農醸代表 足立洋二さん
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プロフィール1990年大阪市生まれ。高校卒業後アメリカテキサス州へ留学、競泳選手として活躍する。帰国後は三宮の日本酒バー勤務を経て、青森の八戸酒造や兵庫の西山酒造場で蔵人として修業。2023年に足立農醸を立ち上げる。
団地の酒蔵というインパクトを狙って
高槻市の団地内に酒蔵がある?うわさを聞いて訪ねた[足立農醸]は、約8坪の空間に最新鋭の機材を集約させた小さな醸造所だ。併設のカフェからはガラス越しに蒸米から搾りまで酒造りの工程のすベてを見ることができるのもおもしろい。「団地に酒蔵ってインパクトがあるでしょう」迎えてくれたのは代表の足立洋二さん。誰もやったことがないことをやりたかった。この場所は規模もちょうどよく、高槻の水質の良さも決め手の一つだったという。
ここで醸造しているのは主にクラフトサケ。日本酒の製造技術をベースとしてフルーツなどの副原料を用いたお酒のことで、爽やかな味わいで人気を集める新ジャンルだ。使用するフルーツは大阪産にこだわり、旬の時期のみ。店頭での販売のほか、カフェでは自家製のバーフードと一緒にグラスでも楽しめる。
海外の日本酒の悪いイメージを変えたい
―日本酒との出合いはアメリカにおられる時だとか。
足立さん「テキサス州の大学で競泳選手をしていたんです。そうしたら水泳を辞めてからですが、父親が現地で日本食レストランを開業することになり、それがきっかけで僕も日本酒の美味しさを知りました。ぜひアメリカ人に勧めたいと飲み比べなどを企画したら、ちょっとしたブームが起きたんです。それで、もう一段いいサービスをするためには日本酒の知識が必要だと思い、帰国をしました。
―酒造りに携わるようになったいきさつは?
足立さん「三宮の日本酒バーに務めていたのですが、ある時に青森の八戸酒造さんで蔵人体験をさせてもらう機会がありました。一週間だけだったのですが、終わりに醸造責任者の方から『よかったら一緒にやってみないか』と声をかけていただき即決で青森に移住しました。それから3年ほど経ち、30歳を目前にしてこのまま蔵人としてやっていくのかと将来のことを考えるようになりました。当時、新婚旅行でヨーロッパのいろんなワイナリーを訪れたのですが、『日本酒なんて、あんな不味いものを作っているの』と言われたんです。自分が良しとしてやってきたことが、全然向こうでは受け入れられていなかった。その実態を変えなければと自分の使命のように感じたのも理由の一つです」
大阪の農産物を使ったクラフトサケ
―なぜクラフトサケを手がけるようになったのですか?
足立さん「最初、自分が酒造りをするのは、酒造免許の関係で無理だと思い込んでいました。ところがWAKAZEさんの活動を知り、クラフトサケという形であったら新規参入ができる。若手の方々のチャレンジを見て『こういう方法ならできるんじゃないか』と感じ、一気に独立に向けてのページができました」
―[足立農醸]という名前に「農」の一字を入れたのは、どのような思いからですか?
足立さん「ストーリーが見える、農業が見える商品づくりをしたいと思ったんです。クラフトサケに大阪の農家さんの米と果物を使っているのもそうなんですが、農家がしっかりと儲かるようなものづくりをしたい。僕自身も米作りを体験したりいろんな方に話を聞いて、農業は儲からないことが前提でそれでみんなやめていくと知り、それも課題だと感じました」
おすすめのクラフトサケ3種
MIYOI Craft 団地 de マリブ 2,310円(期間限定)(写真左)
「浜田屋酒店とのコラボです。パイナップル、マンゴー、ココナッツミルク、ライムを使用した夏っぽいお酒です。瓶内二次発酵させたスパークリングタイプで冷やしてロックがおすすめ。12%という低アルコールで飲みやすいです。これはココナッツミルクの油がすごくて造るのが大変でした。ほかの酒蔵では絶対やらないと思うけれど(笑)、こういう遊びができるのがクラフトサケっぽいですね」
MIYOI Craft Strawberry 2,970円 (期間限定)(写真中央)
「大阪府箕面市の『富いちご』を贅沢に使用。無農薬・無肥料で自然栽培された富いちごの香りがパッと広がります。ほのかに微発泡で、白麹由来のやさしい酸味とすっきりとした味わいはぜひシャンパングラスで味わってください。これもアルコール度数は10%程度です」
自家製くんせいプレート700円、MIYOI Craft Strawberryグラス(ハーフ/45ml)400円
併設のカフェではクラフトサケに合うフードも楽しめる、ソーセージやうずら卵など手作りのくんせいは日替わり。
MIYOI ORIGIN 3,960円(写真右)
「足立農醸の記念すべき1本目のお酒。オリジンとは由来という意味で、日本のお酒の始まりはキイチゴを発酵させたものという説があり、それをイメージしてもろみとキイチゴを発酵させて造りました。かなり日本酒に近いラインナップです。年毎に変わるヴィンテージラベルにもこだわっていて、イラストレーターさんが僕に似せたちょっとお茶目なカエルを描いてくれました」
海外に酒蔵を、日本酒文化を世界へ
―これからチャレンジしたいことはなんですか?
足立さん「日本酒文化を世界に広めたい。ゴールはヨーロッパに酒蔵を造ることです。まずは2028年までに水がきれいで治安がよいスイスに進出したいと思っています。うちが特別な酒造好適米ではなく飯米を使用するのは、海外でもどこでも酒造りができるようにです。この場所は任せる人を見つけて引き継いでもらいたい。そのためにも酒造りにチャレンジしたい人を受け入れて、オープンにしたいと思っています。海外から来てくれる方に体験してもらうのも活動の一つとしてやってみたいですね」
最初から目指すは世界! 免許の関係で国内では流通不可だが、すでに海外向けの日本酒「MIYOI リミテッドエディション」を今年5月にリリース。中国や台湾、タイ、フィリピン、シンガポールで販売している。着々と目標に向かって突き進む姿にエールを送りたい。
<ライター> 藤田えり子
大阪の日本酒専門店に世界を広げていただき、さまざまな日本酒や酒蔵に出合う。
好きな日本酒は秋鹿、王祿ほか。唎酒師資格保有。
お酒以外の趣味は鉱物集めとアゲハ蝶飼育。