酒蔵に聞く

【竹泉/田治米合名会社】
食事に寄り添う熟成酒の魅力を19代目蔵元、田治米博貴さんに聞く!

1702年(元禄17年)創業の伝統を守り、地元但馬の水と米を使った酒造りを行う[田治米合名会社]。「一粒の米にも無限の力あり」を信条に伝統の技術で丹精に醸す日本酒造り、そして熟成酒の魅力を19代目蔵元の田治米博貴さんに聞いた。

  • この記事をシェアする

赤穂浪士討ち入りと同じ時代に創業した[田治米合名会社]。
銘柄である「竹泉」は円山川上流の「竹の川」の水を用いたことと、先祖の出身地である「和泉の国(現在の大阪府南部)」に由来するという。

「食中」「熟成」「純米」「燗」をコンセプトに酒造りを行い、ほとんどの銘柄は2年以上の熟成を経て出荷される。「当たり前のことを当たり前に」行うブレない酒造りを取材した。

この方に話を聞きました

田治米合名会社 代表社員 社長 田治米博貴さん
プロフィール
埼玉県出身。2006年 田治米合名会社 代表社員 就任。19代目蔵元として元禄時代から続く伝統を守る。

派手なことはせず、当たり前のことを当たり前に

兵庫県北中部にある朝来市に蔵を構える「田治米合名会社」。300年以上も前に酒造りに適した環境を求め、和泉の国より移り住んだことに端を発するという。

酒造りに適した水と米、気候に恵まれた環境は今でも変わらない。高品質な酒米栽培が行われてきた地域では「コウノトリ育む農法」による、無農薬・減農薬での米づくりが行われている。

「うちの酒造りではあまり派手なことはしません。酵母も7号酵母(※1)しか使いませんし、当たり前のことを当たり前にやっているといった感じです」

こう話すのは現在19代目蔵元として活躍する田治米博貴さん。10月から3月の厳しい寒さを活かした伝統的な酒造りを今に伝えている。

「季節物(新酒、夏の生酒、冷やおろし)を除いて、全ての銘柄を2年〜3年は熟成してから出荷します」と話す。その理由については「やっぱり旨いからです。派手なことをせず、旨味があってキレのある酒を自然に造りたいと考えるとその程度の時間が必要なんですね」と続ける。

※1:長野県・宮坂醸造で分離された酵母。戦後日本酒の基調酵母とされ、現在でも最も多く利用されている。

熟成期間を前提にした酒質設計

▲マイナス5度の冷蔵庫に保管されたお酒

2002年を境に熟成酒へ舵を切った[田治米合名会社]。現在に至るまでの過程についてこう話す。「熟成酒は時間がかかるものなので、一気に増やすことができません。そのため毎年120%程度の製造を続け、5年後に1年の熟成酒完成を目指しました。そして10年後には2年の熟成酒が完成したという流れです」

出来上がった日本酒には必要以上の濾過を行わないため、米本来の自然な旨味が味わえる。

また、数年の熟成期間を経て出荷することを想定にした酒質設計を行っていると田治米さんは話す。「一升瓶の封切り時から、日にちが経つほど美味しいお酒を目指して造っています。空気に触れることで起こる酸化によって旨味が増強し、日数が経っても味がぶれない、美味しくなる性格にしています」

出荷までの熟成はタンク、瓶の2パターンで行われている上に、温度も3つに分けて管理しているという。「熟成温度は『マイナス5度』『0〜5度』『常温』の3段階に分けています。常温といっても蔵の中ですので、夏場でも25度程度までしか上がらない環境ですね。出荷時にはそれぞれブレンドすることも、シングルでいく場合もあります」と田治米さん。

一般的に熟成は温度が高いほど進行するといわれるが、マイナス5度という氷温化での熟成についてこう語る。

「常温よりもゆっくりではありますが確実に熟成されます。生酒などは明らかにまろやかになって美味しくなりますね」

日本酒の精米歩合や火入れの有無など、個性に応じた適切な温度管理を行っているのだ。

SakeWorldNFTに登場する日本酒の紹介

現在、SakeWolrdNFTでは以下の3銘柄がラインナップしている。
※2024年7月現在

竹泉 純米大吟醸 幸の鳥 生酛仕込(真ん中)
新フラッグシップとして昨年新発売となった銘柄。2019年より約4年という熟成期間を経て出荷されている。化学合成農薬や化学肥料を使用しない、「コウノトリ育む農法」にて栽培された山田錦を全量使用。江戸時代から続く伝統的な生酛仕込みで醸された美しい酸、透明感のある味わいが特徴の一本。

このお酒の購入はこちら

竹泉 純米大吟醸 幸の鳥(左)
化学合成農薬や化学肥料を使用しない、「コウノトリ育む農法」にて栽培された山田錦を全量使用。精米歩合40%と贅沢に磨くことで生まれる柔らかな香り、おだやかな味わいが楽しめる。フランスで開催される「Kura Master」において、純米大吟醸酒部門金賞(2017年、2019年)受賞。

このお酒の購入はこちら

竹泉 純米吟醸 幸の鳥 生酛仕込(右)
「コウノトリ育む農法」で栽培された五百万石を使用した生酛仕込みの純米吟醸酒。蔵に貯蔵している10年熟成ものはきれいな酸と旨味、キャラメルのようなニュアンスが感じられるという。これから先の熟成にも期待できる1本。

このお酒の購入はこちら

熟成環境による変化を楽しみたい

SakeWorldNFTへの出品について「将来的に蔵で貯蔵したものと飲み比べできれば面白いですね。同じラベルであっても熟成環境の違いによる住み分けができるのではと楽しみにしています」と話す田治米さん。熟成酒は全く同じ銘柄であっても、その保管環境で最終的な味わいが変わってくるという。

「同じ冷蔵庫で熟成させたとしても、入口と奥に入っているものでも違います。また瓶なのか、タンクなのかでも変わってきます」

マイナス5度の低温環境で瓶熟成させるSakeWorldNFTと、蔵内でタンク熟成させたものなどの飲み比べも面白いと続ける田治米さん。熟成酒の完成には長い時間を必要とする。熟成環境の違いによってどういった味わいの違い、変化が生まれるのかと今後に期待を寄せた。

熟成酒は食事に合わせて楽しんでほしい

今後についても「ずっと変わっていないのですが、当たり前のことを当たり前にやることですね。うちの4大コンセプトが『食中』『熟成』『純米』『燗』なので、食べて飲んで旨い酒を目指したい」と話す。また、熟成酒は単体ではなく食事と合わせてこそ真価を発揮するという。

「イタリアに行った時に現地の方に『幸の鳥』を冷酒で提供しました。『美味しい』と楽しんでもらえている中、熱燗と生ハムを合わせてもらった瞬間『アメイジング!』と感動してもらいました。日本酒が旨いということだけではなく、自分たちの生ハムがこんなに美味しいんだという気づきもあったようです」

温かいご飯と多くの料理が合うように、食べることを考えた時に「燗酒」は最適な選択肢となる。特に生ハムやチーズといった油分の多い料理などは、油を溶かすことによる新たな風味が楽しめる。

「慣れないうちに熟成酒を楽しむには、やはり『食事』と合わせることがおすすめですね。熟成酒単体で難しいと感じた場合でも、食事と一緒に飲めば『すごいじゃん』となるんです」

自分の身体は自分が口にしたものから出来上がる。悔いのない食生活に寄り添う存在であるために、当たり前のことを当たり前に徹底した酒造りを続けるという。

「だからこそ地元のお米を全量純米で醸し、熟成させて楽しめるものを極めたいですね」とこの先を見つめる田治米さん。地元の水と米を活かし、ブレない酒造りを行う[田治米合名会社]の酒を片手に、日々の晩酌を楽しんでみてはいかがだろうか。

ライター :新井勇貴
滋賀県出身/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師・SAKE DIPLOMA・SAKE検定講師
酒屋、食品メーカー勤務を経てフリーライターに転身。好みの日本酒は米の旨味が味わえるふくよかなタイプ。趣味は飲み歩き、料理、旅行など

田治米合名会社

田治米合名会社

創業
1702年
代表銘柄
竹泉
住所
兵庫県朝来市山東町矢名瀬町545Googlemapで開く
TEL
079-676-2033
HP
http://www.chikusen-1702.com/
営業時間
8:00〜17:00
定休日
日曜、祝日休

特集記事

1 10
FEATURE
Discover Sake

日本酒を探す

注目の記事

Sake World NFT