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北陸新幹線で行く福井県の酒蔵見学!各蔵の日本酒を巡る旅へ

北陸新幹線の延伸でアクセスがグンと良くなった福井県。県内に点在する老舗の酒蔵や景勝地を巡る絶好のチャンスです。今回は福井県の酒蔵を5蔵で名酒を堪能。

福井県酒蔵見学
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北陸新幹線の延伸でアクセスがグンと良くなった福井県。県内に点在する老舗の酒蔵や景勝地を巡る絶好のチャンス。福井には30の酒蔵があり、その土地を知り杜氏の心意気を味わえるのが地酒の魅力。今回は福井県のの地酒を思う存分堪能してみることに。
酒好きライターが福井の酒蔵5蔵を巡ってきた。

■福井の日本酒の特徴!?
ミネラル分豊富な荒島岳や白山連峰からもたらされる清らかな水と、「五百万石」「山田錦」「越の雫」「さかほまれ」「おくほまれ」「九頭竜」「神力」など多くの酒米がつくられている。食事と一緒に楽しむ想定で造られたものが多く、香りが強すぎず、甘い後味が残らないバランスの良さがあげられる。

1.白山連峰の麓、大野の清流に囲まれた[宇野酒造場]

1620年の創業以来品質第一、大量生産・製造をせずに手造りを続けてきた宇野酒造場。20代目当主となる宇野さんは元々薬剤師。継いだ当時の酒造りを取り巻く環境は封建的なものだ。「もっと日本酒そのものを自由に楽しめるようにしたい」と組合長を務め、蔵同士の技術交流やセット販売の実施など、地域の酒蔵を結びつける取り組みも行う。

見学ツアーは福井県内屈指の老舗の酒蔵ならではの伝統と、福井県内で唯一19年連続で金賞(現在は優等賞)を受賞中の、味と香りが楽しめる。

「全国新酒鑑評会 金賞受賞」の大きな看板の脇にある暖簾をくぐると、ずらりと並ぶ酒瓶が出迎えてくれる。見学の蔵へ進む左右の壁は賞状で埋め尽くされており、圧巻。「うちは品質を落とさないのが自慢です。たとえ儲けが出なくてもね」と少しおどけて話してくださるのは、蔵元の宇野 信裕(うの のぶひろ)さん。事務所ではテンポよく日本酒の工程の解説や歴史についてレクチャーしてくれ、400年余りの歴史を持つ蔵ならではの当時の文書なども見ることができる。試飲は10種の中から好きなものが贅沢に楽しめる。

売店に並ぶお酒の案内表記を見ると、辛口+10など、キリッとしたものが多い様子。ところが口に含むと驚きのまろやかさで、喉を通る時に辛みがキリッと締まる。「これが福井の『女っぽい酒』だ」と宇野さん。

同時に実直な酒造りを守りながらアップデート。通常は手間とリスクを考え避けがちな山廃仕込みで酒母をつくり続けてきた。こだわりの原料は、大吟醸を造るのに適した最高級酒造好適米の山田錦。水はお清水(しょうず)と呼ばれる名水100戦に選ばれた水を200m掘って汲み上げ、大野の水脈だからこその味わいを醸し続けている。北陸で一番賞を獲り、末永く愛されているのが納得の酒造りをぜひ堪能あれ。

【住所】福井県大野市本町3-4
【アクセス】「越前大野駅」から徒歩16分
【営業時間】8:30~17:00
【休日】不定休
※蔵見学は要予約(7日前までに電話0779-66-2236もしくはinfo@itinotani.co.jpにて)

2.クセになる個性派日本酒[美川酒造場]

福井県酒蔵見学

1887年に創業し、現在は6代目の蔵元杜氏がほとんどの作業を1人でこなす小規模の酒蔵。大学卒業後に帰福しすぐに入蔵、酒造りを楽しみながら伝統を守っている。「納得のできる酒造りをしたい」と、時間と手間を惜しまず造る酒にファンが集まっている。
伝統醸造道具と製法を守って造るのは、豊かな酸味をもつ独自の酒。クセになる個性派の味わいは体感してみる価値あり。

造る酒は一部で“変態酒”と言われるほど、個性が光る逸品。なかでも、杜氏である美川 欽哉(みかわ きんや)さんイチ押しの「舞美人 SanQ」は、芳醇でうまみ豊かな飲み口ながら、強い酸味が特徴。ツンと来るような過激な尖りはなく「乳酸菌らしいまろみのあるフルーティで上品なサワー感、“沼る”人もいる」というのが納得のクセになる味わい。
伝統的な製法と革新的なうまさのギャップをぜひ現地で楽しんでみて。

広く天井の高い蔵に絶えず湧き出ている井戸水は、九頭竜川由来の足羽川(あすわがわ)の伏流水。酒蔵の横に広がる田んぼでは、酒造りに使う米を自社栽培しており、水、米、人すべてが土地に紐づいたテロワールであることを大事にしている。

製造に使用している器具は伝統的なものばかり。貴重な和窯で米を蒸しあげ、大正時代から使用する桜の木の木槽(きぶね)で搾り工程を行う。搾り終わるまでに3日を要する昔ながらの手法ため、なかなかできる蔵元は多くないが、圧力でじわじわと搾る木槽搾りだからこそ、“あらばしり”“中汲み”“責め”の3段階を楽しめる、プレミアムな製法なのだ。


他にも、蔵に住む天然の酵母を育てて無添加の山廃造りを行い酒母造りに2.5ヶ月かけるなど、舞美人ブランドの味わいを醸すための工程と時間は惜しんでいないことがよくわかる。
同時に、新しい取り組みにも積極的。日本酒そのものを広めようと、外国人の方を招いての新商品開発、SNSやブログを用いての情報発信しているのでチェックしてみて。

【住所】福井県福井市小稲津町36-15
【アクセス】「福井駅」から車で12分
【営業時間】10:00~17:00
【休日】水曜
※蔵見学は要予約(2週間前までに電話0776-41-1002もしくはsakemaibijin@gmail.comにて)

3. 270年の歴史を刻む老舗酒蔵[久保田酒造]

白山山系の山々と竹田川に囲まれ、丸岡城との間に位置する地で、270年の歴史を刻む老舗酒蔵の[久保田酒造]。創業は宝暦3年と、270年の歴史を有す。11代目当主となった直邦さんは、地酒とは何か?と自問し、「地元の米と水で醸したものこそ地酒と名乗れるのでは」と、地元の素材にこだわった生産体制を整備する。代表銘柄の「富久駒」は福井の酒の中でも有名どころ。酒蔵見学では、その成り立ちが体感できる。

「第一に麹。麹は酒の命なんです」と話す、当主の久保田 直邦(くぼた なおくに)さんが案内してくれる酒蔵見学は、分かりやすく見ごたえ満載。館内に貼られた写真を使って酒造りの重要なポイントを解説・イメージさせ、配布するパンフレットでは数ページにわたり醸造工程を図解。親切な見学終了する頃には、日本酒の解像度が格段に上がっている。「日本酒に興味を持って好きになって欲しいんです」と日本酒を愛するが故、普及に努めているのだとか。

中でも必見なのが自社開発した麹造りの機械。機械まで作る蔵元はあまり聞かない。麹を造る部屋”麹室”の様子が他の蔵元とは違うシステマティックな出で立ち。先代が酒造りを追求するあまりにつくりあげたものだそう。今では「使う米がどうやってできているのか把握したい」と米作りまで自社で行い、8割以上を蔵の横に広がる水田で栽培する。自ら作った米、この地から湧き出ている地下水、自社開発の機械で安定してつくる麹を使っていることが、自信ある酒を送り出せている所以だ。搾りの工程には伝統的な袋搾り製法を取り入れたものも。元はイベント限定で始めたはずが、町長が気に入り、リクエストによって作り続けているのだとか。「たくさん作れないから儲からないんだけどねえ」と笑いつつ教えてくれた。

試飲すると、同じ銘柄のお酒でも搾り方でこんなにも味が違うのかと、そのまろやかさに驚くこと間違いなし。
試飲には日本酒でつくったリキュールも登場。各地のイベントで試飲ウケの良いものを開発し商品化に至ったとのこと。代々継がれる「日本酒を飲んで好きになって欲しい」との想いを感じた。

【住所】福井県坂井市丸岡町山久保27-45
【アクセス】北陸自動車道丸岡ICから車で5分
【営業時間】8:00~17:00
【休日】不定休
※蔵見学は前日までに要予約

4. バリエーション豊かな味わいの日本酒を作り出す[舟木酒造]

福井県の東部に位置する蔵は、田園地帯に囲まれ、自然豊かな環境で酒造りをしていることがよくわかる立地。酒の品質追求にこだわり、代々酒造りに熱心な蔵元だ。
同時に、あらゆる人に楽しんでもらえるようキュートなカップ酒を作ったり、サービス精神旺盛な酒蔵見学を開催。福井駅からバスやタクシーで気軽に行けるのも、ツーリストには嬉しいポイント。

舟木酒造の酒蔵見学は、より一層お酒を楽しむことができるようになる充実の内容。見学者の知識に応じて、手づくりのポップや資料を使い丁寧にアレンジして話を聞かせてくれる。酒造りを具体的にイメージしてもらえるよう、蔵内では実際の器具や機械を動かして見せてもらえるので、リアルな製造現場をちょっぴり体感できるのが見どころ。デモンストレーションを交えた軽妙な解説の後は、お楽しみの試飲。運が良いと、店頭ではなく蔵の中の試飲スペースに案内してもらえるかも。貯蔵タンクに乗せた木蓋をテーブルに見立て、まるで角打ちのような空間に。蔵の風情を楽しみながらの試飲はより一層味わいが深まる。

飲みやすくすっきりとした酒の基礎となるのは福井の恵み。九頭竜川を源泉とする伏流水を汲み上げ、地元米を中心とした9種の米を厳選してブレンドし、地元を代表する銘柄を醸す。

「製法の肝となるのはこうじづくり」、と語るのは6代目の舟木崇さん。2024年に修業先から戻ったばかりの新当主。「酒の味をどうにかできるのは初めだけで、あとは発酵によって酒がみずから成長するのを見守ります。世話をするうちに親心が出てきますね。」貯蔵タンクの温度調整について解説しながら、酒造りへの想いを語る。

銘柄は種類豊富な品揃え、味わいもバリエーション豊かなラインナップ。これは、酒は食事と楽しんで欲しい、という信念を持って酒造りをしているからとのこと。「平成以降、日本の食文化は豊かになり大きく幅が広がりました。それに伴って種類を増やしています。その分、ひとつひとつを沢山は作っていません。小仕込みで丁寧に仕上げています。」

好きな味を見つけて帰ってほしい、と、試飲はスタンダードな味わいのものからスタート。そこから好みに合わせたオススメを教えてくれる。全銘柄を楽しめる贅沢な試飲が終わると、自分の好みが見つかっているはず。自宅の食卓に連れて帰りたくなるようなものばかりで、少々困ってしまう酒蔵見学になるだろう。

【住所】福井県福井市大和田町46-3-1
【アクセス】京福バス「大和田町」から徒歩7分
「福井駅」から車で14分
【営業時間】9:00~17:00
【休日】日曜、祝日
※蔵見学は要予約(電話0776-54-2323もしくはメールinfo@funaki-sake.comにて)

5. 北陸街道今庄宿、自然中で酒を醸し続ける[北善商店]

雪深い郷、北陸街道今庄宿。四季折々の自然の中、江戸時代からの歴史を持つ建造物に囲まれ酒を醸し続ける北善商店。山に囲まれた場所ながら、平安時代から交通の要とされてきた蔵の周囲には、見どころや旨いものが集まる。

享保元年の創業から300年の歴史を持ち、現在の当主は10代目北村 啓泰(きたむら ひろやす)さん。サラリーマンとしてアルコール業界を学んだのちに帰福し、1から酒造りを習得。以来、いいものを少しずつ、誠実で実直な酒造りを1人で担う。「その土地の材料で、飲みやすくて飽きない酒を作っています。目指しているのは土地の肴に合ういい酒ですね。」何よりご自身が本当にお酒が好きと北村さん。

「地酒は風土が醸しだす」をモットーに、酒造りを続ける北善商店。今庄は近年、ロマンを感じる風景が観光客に人気のエリアで、今も風情ある家並みが揃う。酒蔵見学は、一滴一滴に心を込めた酒造りをおこなってる様を間近で感じる内容。建物のそこかしこには行政指定の『伝統的建造物』のプレートが輝き、蔵そのものも見どころのひとつ。ふと見上げると合掌造りの蔵の天井はすすで黒くなり、江戸時代からの積み重ねを目にすることができる。酒蔵見学はもちろん、地域ぐるみで行う酒造り体験も人気。また蔵からすぐそばにあるゲストハウス「玉村屋」主催で、1日~数日かけて酒造りの工程すべてを体験することができる。(3,000円、要予約)

飲み飽きない旨みを追求した酒を造る。「聖乃御代(ひじりのみよ)」は、京都の高僧から授かった名。

北善商店特有のすっきりときれいな味を醸すため、1つ1つの工程と素材を厳選して酒造りをしている。福井県有数の豪雪地帯である今庄は、囲む山々のけい石岩盤を潜りぬけた清らかな軟水が豊富。吟醸酒向きの純水に近いPh7の良質な水が自慢。米は、酒造りに適した福井の五百万石を厳選して使用している。

試飲を楽しめるのは販売所や蔵の脇にある庭のテーブル。桜が植わっており、良い時期には花や紅葉が楽しめるのだとか。地元の素材であるつるし柿を使ったリキュールなど、今庄でしか出会えない味も揃っており、色々な楽しみ方ができる。「今庄の蕎麦、うちの酒に合うよ」と近隣の名物も加え、町ごと楽しめる見物をぜひ体感してほしい。

【住所】福井県南条郡南越前町今庄81-3
【アクセス】ハピラインふくい「今庄駅」から徒歩3分
【営業時間】9:00~17:00
【休日】不定休
※蔵見学は要予約

6.蔵巡りをしてみて

北陸新幹線延伸の機会にアクセスも良くなった福井県。
観光地やグルメ、お土産はもちろん、酒蔵を訪ねるのは大人の渋いい旅。
同じ福井県でもエリアや蔵によって特徴があり、味わいもさまざま。
蔵の歴史を聞いたり試飲をしたり福井の地酒にどっぷり漬かった2日間だった。
地酒を購入すれば家庭で旅の思い出を振り返れるのも日本酒のひとつの魅力。

ライター 橋尾 日登美
東京生まれの大阪在住。ライターとして、企業取材記事や、ビジネスコラム、暮らしとお酒と食にまつわる記事を執筆中。同時に企業の人事・広報も支援。
ディープな酒場エリアに暮らし、趣味は飲み歩きとピクニック、料理。とにかくすぐ「ビールが飲みたい」と発言するのが特徴。好きな日本酒は『上喜元』、『舞美人SanQ』。

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