熟成酒

めくるめく熟成酒・古酒の世界vol. 2 中華とのペアリングディナー

熟成酒・古酒の魅力を定義し、世界に発信している「刻SAKE協会」が主催する、ペアリングディナー。今回のテーマは「中華料理」。熟成酒に目がない、Sake World編集部が中華と熟成酒を実食レビューする。

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熟成酒・古酒の魅力を定義し、世界に発信している「刻SAKE協会」が主催する、ペアリングディナー。今回のテーマは「中華料理」。熟成酒・古酒には、紹興酒に似たフレーバーがよく謳われるからして、よく合う事は想像できるが、もちろんそれだけではない。年月を経て変化した深い味わいの世界に刮目したい。

熟成酒・古酒なくして、語れぬ日本酒

実際に飲むとよくわかる事がある。新酒と比べると、まったく違う香りが広がる。温めると香りが花開するブランデーのような特性もあり、カラメルやナッツ、干しブドウや干し柿など、“芳醇”を謳うのに欠かせない表現が次から次へと湧き立つ様は、洋酒にも勝るとも劣らない美酒の泉だ。きき酒師の教科書にも掲載されている「フレーバーホイール」という日本酒の香りの分類表があるが、大雑把にいえば、約半分は新酒から感じやすい香り、そして約半分は熟成酒・古酒から感じやすい香りであるから、熟成酒を楽しむという事は、日本酒の楽しみが2倍になるという言い方もできるのではないだろうか。逆に、熟成酒・古酒なくしては日本酒の魅力が半減するとも言える。ただし強い個性を持つものもあるので、好き嫌いが分かれるとことでもある。

▲今回お料理を提供してくださるのは、中華界のホープ、五感で楽しむカウンター中華「中華寝台」のソムリエ・シェフ上笹さん。国際薬膳調理師の資格も持ち、隠し味にはただならぬ薬草・野草の気配が。


▲本日のお酒を提供してくださるのは京都「月の桂」醸造元 増田德兵衞商店・十四代目 増田德兵衞氏(写真右)と、秋田「天寿」醸造元 天寿酒造の七代目 大井永吉氏(写真左)。

月の桂といえば、元祖「にごり酒」で有名。清酒の定義である「醪を濾したもの」という型を打ち破り、荒い目で濾した結果、澄んだ清酒でも、醪のままのどぶろくでもなく、荒濾しの「にごり酒」を誕生させた。火入れもせず、瓶詰め後も瓶内で発酵をつづける様は「米のスパークリング」。今では京都産酒造好適米「祝」を使用し、スムースできめの細かいにごり酒となっている。熟成への取り組みも古く、50年以上前の甕熟成酒もあると聞く酒蔵。
天寿酒造は、現在で六代目。米の国秋田の中でも最も良質米の産地である子吉川流域の町に佇み、広大な鳥海山の裾野は上質な水源に恵まれ、また雪深く、秋田流低温長期発酵の酒造りには絶好の地にある。

至極のペアリングがスタート


▲1品目:キャビア 蛤 白エビ 香港麺を使った冷製/日本酒:月の桂 祝米 純米大吟醸 にごり酒

まずはさっぱりしたシャンタンに浸かった麺からスタート。月の桂のにごり酒はスパークリング。アルコール17%で、にごり成分で重たく感じるかと思いきや、スパークリングによるキレと清涼感で爽やかにペアリングが完成している。


▲2品目:寒鰆 からすみ 青葱と青花椒 柚子胡椒のソースで/日本酒:同じく、月の桂 祝米 純米大吟醸 にごり酒

鰆は表面をソテーし、中はレア。台湾胡椒(マーガオ)のレモングラスのような爽やかな香りがプラスされる。発泡しながらも、しっかりと奥にうま味のある日本酒はソースの一部となり、ペアリングが完成している。


▲3品目:上海蟹の紹興酒漬け/日本酒:月の桂 純米大吟醸甕囲「德」

こちら日本酒は20年以上の歳月をかけて甕で常温熟成したものを独自のブレンドで仕上げてある。上海蟹の漬けタレにも使用されており、余韻の長い古酒の味わいが、上海蟹おいしさのあとを引く。隠しスパイスとして、陳皮(みかんの皮)、山椒、そしてブランデーを数種。何重にも押し寄せるうま味とアロマのフルオーケストラ。熟成酒・古酒の複雑な香りに呼応して、口の中では何度もアンコール幕が上がる。


▲4品目:ふぐ白子炭火焼き 金華ハムを使った極上の上湯 菊花のあんかけ/日本酒:天寿 生酛仕込純米酒 鳥海山 (燗)

ぬる燗であわせる。契約栽培農家から仕入れる酒造好適米美山錦を使い醸した後に3年間熟成。クラマスター2022では数々の部門で上位入賞。味わいも懐も深く、マリアージュの幅がひろい。濃厚でクリーミーな白子、さわやかなワサビに、ぬる燗の優しい旨味がミルフィーユして、うま味が倍増。少しだけ熟成がかかったものをぬる燗することで花開く、濃醇な世界観。そして、不思議なことにこの酒は、燗をつけることで余韻がさっと消える。故にしつこくない。するする飲めてしまうという特徴も。


▲5品目:うなぎカリカリ揚げ 五香粉香る甜醤油のソース 和歌山のぶどう山椒の香り/日本酒:天寿 生酛仕込純米酒 鳥海山(ひや)

4品目と同じ酒を、今度はひやで。温度帯で表情がガラッと変わるのが日本酒の面白さ。また違った香りが飛び出し、うなぎとベストフレンド契約を結ぶ。満たされた舌は、秋田の名峰鳥海山へと出かけていった。


▲6品目:山形牛リブロース 火鍋風スープ仕立て 酒醸でさっと炒めた 黄韮 春菊 マコモ茸と一緒に/日本酒:天寿 純米大吟醸 鳥海山

和牛は間違いの無い幸せを運んでくる味覚。あえてスパイス香る火鍋風で、贅沢にイメチェン。そこへ合わせるのは、これまた変化球で、コスパ最強の新酒。一升瓶で3,630円。酸とキレがあり、火鍋のスパイスとよく絡み、和牛の脂はさっと洗い流してくれる。新酒で緩急をつけることで、コースの流れにリズムが生まれる。


▲7品目:フカヒレのステーキ 濃厚な白湯あんかけ トリュフご飯のもっちりおこげと一緒に/日本酒:天寿 2006年醸造 熟成古酒

あたためるとブランデーのように香りの花が開き、多数の香気成分が出現する。無農薬米を60%精米。醸した後にタンク貯蔵。秋田という土地柄、最高でも12度と低温ぎみで貯蔵された17年もの。決して突出した香りや、美味しさがある訳ではないのに、バランスの良いコクと香り、ひと口ごとに押し寄せるうま味によるやさしい味わい。これまで6品も食したのに、気がつくと一瞬で皿は空になる黄金のペアリング。


▲8品目:すっぽんの天津飯/日本酒:月の桂 純米吟醸 柳

やさしいうま味につつまれた天津飯。もはや京料理の気配を感じる。つまり日本酒に合う事は自明の理。米から生まれた酒は、米の品にそっと手を添える事ができる。世界ひろしと言えど、“ご飯もの”に合わせられる酒は、日本酒しか思いつかない。「では、ビールは?」と言う声も聞こえてきそうだが、チャーハンとビールを同時に口の中入れてみて頂きたい。きっとハーモニーは奏でないだろう。


▲デザート:杏仁豆腐 天寿 純米大吟醸 鳥海山を使って炊いた庄内柿のソースを添えて/日本酒:月の桂 祝米 純米大吟醸 にごり酒

天寿を使って炊いて、最後ににごり酒を少し加えたソースはベストマッチ。デザートにまで?と思いきや、デザートにこそ日本酒がよく合うと感じる逸品。

マイスター達からのひとこと

この日は、刻SAKE協会の顧問を務める輿水精一さんも参加。輿水さんといえばサントリーの名誉チーフブレンダーとして、数々の銘酒を世に送り出し、ウイスキー業界ではその名を知らない人はいないというほど有名な方。2023年には文化庁長官表彰もされ、日本酒の熟成についても貢献を評価された。かなりのポテンシャルを感じているという。


▲刻SAKE協会顧問/サントリースピリッツ株式会社名誉チーフブレンダー輿水精一さん

「いわゆる新酒も魅力的だが、香りも味も複雑な熟成古酒は魅力的です。きっと世界の飲み手から見たときも、日本酒の幅を広げ、日本酒のイメージを拡張してくれる特別な世界観をもっていると思う。特に食にあわせる上では、すごいポテンシャルを持っていると感じる。ウイスキーの世界でも、チョコレートを合わせたり特定の食材とは引き合うが、日本酒はもっと食材を“引き寄せる”感覚。いわゆるマリアージュの世界が存在すると思う。これは日本酒の特徴のひとつである“うま味”の効果でもある。もうひとつの特徴が酸味。もちろんウイスキーにも酸味はあるが、日本酒やワインにあるような酸味は食材とマッチングするときに、仲を取り持ってくれる重要な要素だ」と輿水さん。


▲刻SAKE協会常務理事の上野さん(長期熟成日本酒BAR「酒茶論」、「熟と燗」オーナー)

「実は、中華料理店の立ち上げの際に、日本酒のラインナップの相談を受けることもあります。もちろん紹興酒も重要ですが、日本人が好むような繊細な中華の味には、日本酒の熟成酒の方が合わせやすく、特に強弱がつけやすい。中華料理といっても地域によって様々な料理があり、もちろん味も一辺倒ではない。新酒は和のスパイスをよく受け止める。対して熟成酒は世界の多様なスパイスも受け止められる」と上野さん。

最近、頻繁に聞くようになった「日本酒のペアリング」

実は、何にでも無難に合ってしまうオールマイティーな酒質が功罪となり、これまでの美食の世界で、わざわざ日本酒を合わせるという習慣が根づきにくかったのかもしれない。しかし、世はグルメ大航海時代。緻密な味の設計や、繊細な味、微細な風味の違いが世界を魅了している中で、食中酒のスーパースターがきっと日本酒なのだ。香りは繊細で、比較的おだやか。食材の風味を損ないにくく、ほのかな甘みと酸味は食材を引き寄せる。そして何より世界で最も「うま味」を内包する日本酒が担える幅は相当大きい。右肩上がりの輸出高を見れば、それに世界が気づきはじめていると言える。
さらに、大昔は吟醸酒が無かったし、失われつつあった熟成酒・古酒文化も復活した。ここ数十年でみれば、生酛づくり、失われた酒米も復興し、扁平精米やサーマルコントロールなどの醸造に関する周辺技術も高まった。黄麹を使った甘酸っぱいものや、シャンパン酵母を使った香りの華やかなもの。シェリー樽で寝かせエレガントな木香を纏ったものまである。まさに日本酒のポテンシャルは今が歴史上最高といって過言ではない。

日本酒における食品衛生ラベル上の原材料は「米、米麹、水」。たった3つのファクターかと思いきや、実は米の品種、酵母、精米歩合、麹歩合、生か火入れか、濾過方法、貯蔵温度、熟成年数と、日本酒の変数因子は無数にある。火入れからの冷却速度によっては加温による短期熟成がかかるという見解まで存在する。熟成には、常温熟成の後に低温熟成を行うなど、いくつかの温度帯を組み合わせたものまである。

まさに「変幻自在で縦横無尽」。どの軸を取り味わいをプロットするべきか。日本酒全容の解明の道のりはまだまだ長く、未来は無限に広がっている。

一般社団法人 刻(とき)SAKE協会 https://tokisake.or.jp

■中華寝台 Chinese bed
〒150-0043 渋谷区道玄坂2-23-13 Deli Tower 2F
03-3476-6120
http://www.shibuya-bed.jp

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