日本酒ブランド[SAKE HUNDRED]が震災30年を未来に繋ぐ。熟成酒「現外」に込めた想い
阪神・淡路大震災を乗り越えた30年熟成のヴィンテージ日本酒「現外」の先行販売を1月17日にスタート。販売元である[株式会社Clear]CEOであり[SAKE HUNDRED]のブランドオーナー生駒龍史さん、醸造パートナー[沢の鶴株式会社]取締役 製造部部長 西向賞雄さん、[神戸大学]学生記者 奥田百合子さんが震災を経て「現外」が誕生したストーリーと、震災を未来に繋ぐ活動についてトークを展開した。
2025年1月17日に阪神・淡路大震災から30年を迎える。
世界中の人々の「心を満たし、人生を彩る」ことをブランドパーパスに掲げる日本酒ブランド[SAKE HUNDRED(サケハンドレッド)]は兵庫県と神戸市の震災30年事業に共感し「神戸ルミナリエ」や、震災に関する出来事を 100年先まで「声」で遺していくプロジェクト「REC KOBE 1995」に協賛。
この30年を未来に繋いでいくための企画を、年間を通して実施していく。そして阪神・淡路大震災を乗り越えた 30年熟成のヴィンテージ日本酒「現外(げんがい)」の先行予約販売を2025年1月17日(金)より開始する。
熟成酒の立ち位置
▲株式会社 Clear 代表取締役 CEO:生駒龍史さん
「”心を満たし、人生を彩る”をブランドパーパスとして、情緒的な価値を作っている」と事業説明をする生駒さん。
熟成酒の歴史を辿ると、約800年前の鎌倉時代では日本酒を熟成させることによって味わいが良くなっていくということが文献や書籍に書かれているという。ヴィンテージの価値があると言われるウイスキーやワインのみならず、日本酒にも熟成による変化があり、劣化ではなく味わいの進化により価値が上がっていくということが当たり前にあった。しかしお酒を造るだけで税金を課す時代があり、熟成文化が廃れていった経緯があった。
最近では「刻(とき)SAKE協会」という社団法人もつくられ、時間軸を用いた高付加価値化の基準をつくる動きも出てきているが、生駒さんは「熟成酒にはもっと可能性がある」と満足いく価格には達していないという。
「熟成酒は元々価値があり、熟成する意味があるにも関わらず、 熟成の価値というのはマーケットにおいては浸透しきれてないというのが現状で、課題だという風に考えています。」と生駒さん。
「現外」の軌跡
▲沢の鶴株式会社 取締役 製造部部長 西向賞雄さん(右)
「現外」の醸造パートナーは神戸市に蔵を構える[沢の鶴株式会社]だ。
30年前の1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災では沢の鶴も7棟あった木造の蔵がすべて倒壊するほどの大きな被害を受けた。
30年前、入社5年目で被災した西向さんは倒壊する蔵や、傾くタンク、配管が折れる水道などの状況を見て「大丈夫かなっていうのが素朴な思いでしたね。」と西向さん。
そんな状況で奇跡的に残ったタンクに醸造途中の酒母が入っていたという。電気が通っていない状況や醸造設備の被災により、次の工程に進むことができず1ヶ月ほど放置状態だったそう。廃棄する選択肢もあったところを仲間が育ててきたお酒を残したいという当時の上司の想いもあり、酒母の段階で搾られ清酒となったが、酸っぱく香味のバランスが取れておらず、とても商品化はできなかった。これが後に「現外」となるお酒だ。
毎年行う品質チェックでも強い酸味に変化がなかったが、20年ほど経つとその酸味が徐々に丸くなってきたという。「お酒の中では麹菌がつくった酵素の成分が溶けているんですけど、熟成期間が長くなることによって、それが澱(おり)として沈んでいくんですよね。酸味がまろやかになって、味も軽くなったんです」と西向さん。
その後、2018年5月に沢の鶴は親交のあった生駒さんに連絡し「味わいを見てほしい」と10種類のお酒をブラインドでテイスティングした。
「僕もこれまでたくさんのお酒を飲んできてますけども、明らかに突出した味わいがあったんですよね。」と生駒さん。
当時、廃棄などの選択肢があった中で、諦めずに“熟成させる”という判断をした沢の鶴。震災を生き抜いた奇跡のタンク、蔵人の想いを加味し酒母の状況で搾ったお酒が、30年の時を経て今ここに誕生した。
「沢の鶴さんから教えてもらった言葉で、酒は造るものではなく育てるもの。まさにそのポリシーをそのままやっているわけですね。『 熟成させて育ててみよう』と未来にバトンを渡す意思決定を当時の沢の鶴さんたちはされたということです。ここまでストーリーがあって、特殊な造りがあって、なおかつ味としても優れてるものっていうのは、僕は出会ったことがありません。」と生駒さん。
奇跡の味わい
▲イベントで甘味とのペアリングで提供された「現外」
運ばれてくる中で、広がる芳醇な香り。ドライアプリコット、シナモン、樹皮の香りなど複雑性を感じる。美しいアンバー色はまさに時の流れを身にまとったようだ。
敵だった酸が時が経つにつれ味方になり、甘味、旨味と一体となった満足感は計り知れない。
阪神・淡路大震災を乗り越え、震災以降の厳しい環境下でも日本酒の可能性を信じた「人間の意志」が宿った奇跡の味わいだ。
商品名:現外|GENGAI
製造者:沢の鶴
内容量:500ml
価格:286,000(税込)
先行予約販売期間:2025年1月17日(金)から4月7日(月)まで
通常販売開始日:2025年4月8日(火) ※会員限定で販売
商品発送予定時期:2025年4月 8日(火)より順次発送
購入方法:ブランドサイトより販売
https://jp.sake100.com/products/gengai
「現外」は極めて特殊な商品特性の為、二度と同じものを再現することができない。希少な商品だからこそ、ひとつひとつにシリアルナンバーを付与し、熟成年数と品質保証を付与したメタリックのギャランティーカードとともに届けられる。
生駒さん「『現外』発売当初、震災に触れる商品を私たちのような若いブランドが扱ってよいのかと、逡巡もありました。しかし、震災から時が経った今だからこそ、当事者ではない者が後世に伝えていくことにも意味があるのではないかと考えたのです。このお酒を多くの方々の心に届けることで、お客様の笑顔を生み出すことができるのではないか。この強い想いと『現外』の魅力を確信し、発売を決めました。熟成酒の価値は、歳月が持つ前向きな力を教えてくれることにあります。1 年先、10 年先、30 年先には、さらに明るい未来が待ち受けている、そんな期待を抱かせてくれるのです。ぜひ、先の未来にも想いを馳せながら、この熟成の魔法ともいえる味わいを、存分にお楽しみください。」
これまでの 30 年を未来に繋いでいく
▲神戸大学の学生記者 奥田百合子さん
トークイベントでは『学生記者と学ぶ阪神・淡路大震災の今。次の世代に繋ぐための視点』として展開した。奥田さんは、神戸大学公認の学生報道団体・神戸大学ニュースネット委員会の代表で、阪神・淡路大震災で亡くなられた神戸大生の遺族へのインタビューを複数実施したり、震災当時の状況を伝える企画展を神戸大学キャンパス内で実施したりすることで、学生に向けて「繋ぐ」活動を積極的に行なっている。
今の学生はその過去を知らない世代が中心だ。
奥田さんは遺族の方のインタビューを通して被災した方と震災を知らない若い世代を繋ぐ役割をしていきたいという。「私はまだ21歳で、震災を経験したわけではないので、被災された方や大切な方を亡くされた悲しみを120%で理解できるかというと、そうではないと思うんですけれども、30年は1つの世代が変わる年月だと思っています。例えば取材させていただいたご遺族の方でも、昔の苦しいことを思い出したくないんだけれども、何か震災があったということを記録として残したいという、その葛藤で揺れていらっしゃる方がいると感じています。神戸大生の学生記者として、被災された方々と震災を知らない方々を少しでも結べるような、世代の想いを繋いでいけるような行動、活動ができたらと思っています」と力強く語ってくれた。
阪神・淡路大震災を経験した人もそうでない人も経過する30年。
震災を経験していない奥田さんが繋ぐ想いはきっと次世代に伝わるだろう。
「現外」を通して想いを繋ぐ考えを生駒さんは語る。
「SAKE HUNDREDとしては、 震災そのものを伝えられることはできないんですけど、その一部分を担う人が増えればいいなとは思います。僕らはその震災を通じて生まれたお酒から、その震災の一部を人に伝えることができる。」
お酒の美味しさはもちろん、「現外」が生まれたストーリーをきっかけに震災を繋ぐ役割を担っていくSAKE HUNDRED。生駒さん、西向さん、奥田さんの話を聞き、まろやかになった現外の酸を一口含むと、30年の想いを刻み、また新しい時が動き出すような鼓動を感じた。
文:Sake World編集部