地域の酒

ブレンド酒を通して滋賀酒の魅力を発信!滋賀県31酒蔵のコラボ純米酒の取り組みを聞く

滋賀県では毎年、酒造組合に加盟する県内全酒蔵の日本酒をブレンドした企画商品をリリースしている。スタートから10年目となった2024年は31酒蔵が集まった「ALL SHIGA 31酒蔵コラボ純米酒」を発売。10月を「滋賀酒推進月間」と称して、県をあげて飲食店や自宅で楽しんでもらうための取り組みを進めているのだ。

  • この記事をシェアする

ワインのアッサンブラージュ、ウイスキーのブレンド、またはリキュールやシロップなどをかけ合わせるカクテルなど、お酒を混ぜ合わせて新しい香味を生み出す事例は世界中に存在している。日本酒においても複数原酒のブレンドによる品質安定、または醸造アルコール添加による香り、キレの付与といった作業は存在する。しかし、これまでこうした工程に注目が集まることは多くなかった。

現在、日本酒の新しい可能性を切り拓くための取り組みとして「ブレンド」が一つのキーワードになりつつある。蔵の垣根を超えたブレンドによる新しい価値の創造、消費者好みの味わいを生み出すなど様々なメリットが注目されているのだ。

滋賀県酒造組合では毎年10月、県内酒蔵が醸した日本酒をブレンドを実施したPRを展開。日本酒ブレンド展開の先行事例として、各都道府県からの問い合わせも多いという。
「ALL SHIGA 31酒蔵コラボ純米酒」の取り組み、ブレンドや滋賀酒の魅力、そして今後の展望について取材した。

多賀株式会社 但馬杜氏 東義晃さん(左)
月桂冠、広島酒類研究所での修行を経て2021年より多賀の杜氏として活躍。自身の名前を関した「AZM」ブランドなど様々な取り組みを進める。2024年の事業開発委員長として今回のブレンド酒に携わる。

滋賀県酒造組合 事務局長 土井一成さん(右)
大手ビールメーカー勤務後、2024年より滋賀県酒造組合へ。県内の日本酒普及に向けた取り組みに日々尽力する。

滋賀酒で乾杯してもらうために

▲歴代のブレンド日本酒

―複数酒蔵のブレンドはどのように進められるのでしょうか?

東さん「[株式会社福井弥平商店]の福井さんを中心にした事業開発委員会が県内にあります。2年交代制で8蔵元が集まり作られている委員会なのですが、ブレンド企画についてもこちらを中心に進められています」

―ブレンド企画は今年で何回目となるのでしょうか?

東さん「2014年からスタートしたので、今年で10回目となります。一応10周年という形にはなりますが、あまりそういった話は会議中でも出なかったですね(笑)」

―ブレンド企画が始まったきっかけは?

土井さん「元々『1万人乾杯プロジェクト』として10月1日の日本酒の日に向けた企画を進めていました。県内の飲食店で乾杯のお酒として飲んでもらうことを目的にブレンド酒が生まれたんです」

東さん「最初にブレンド企画を提案した蔵は[笑四季酒造]だと聞いています。今は流通規模も増えてきたので、設備の面から瓶詰めは[喜多酒造]で行っていますが、当初から数年間は[笑四季酒造]で進めていました」

―始めから一般流通を行っていたのですか?

東さん「当初は飲食店向けの業務用として取り扱っていましたが、2020年のコロナ禍でこれまで通りの企画が難しくなりました。そこで300ml瓶へ詰め、県内のコンビニやスーパーで販売する流れに変わっていったんです。今年は720mlでの展開となりましたが、この容量での一般販売は初めての取り組みになります。コロナ禍をきっかけに多くの人が目にするようになり、少しずつ認知度が向上している感覚はあります」

―各ラベルデザインも異なっており面白いですね。

土井さん「いくつかのアイデア候補の中から、委員会メンバーを中心になって決定していきます。毎年各蔵元の好みが出るのですが、今回は一番人気の集まったデザインでまとまりました」

甘辛濃淡チャートに基づいたブレンド

―ブレンド酒はどうやって設計していくのでしょうか?

東さん「当初は単純に全てのお酒を同じ分量でブレンドしていたようです。2020年からは各酒蔵が提供するお酒を滋賀県工業センターで分析し、『甘辛濃淡』の4分類でマッピングするようになりました。事業開発委員のメンバー、会長と副会長、工業センターの方などと意見を交わしながら分量を調整し、最終的な香味を決定しています」


▲2024年のブレンドに使用した滋賀酒の甘辛濃淡度チャート
出展:「滋賀酒」乾杯プロジェクト

―ブレンド作業はどのように行うのでしょうか?

東さん「ブレンド酒の製造量から逆算し、各酒蔵に必要量を依頼します。瓶詰めを行う[喜多酒造]にそれらを集めて、一升瓶からタンクに移し替えてブレンドしていくんです。最終的な酒質を確認し、若干の加水調整をした上で完成となります」

―甘辛濃淡チャートでは滋賀県のお酒は全国平均と比べて『濃く辛い』傾向にありますね。

東さん「濃い味付けの食材が多いので、それらに合わせることを想定した酒質になっていると思います」

土井さん「川魚を甘辛く煮たような料理や鮒寿司などを旨味の強いお酒で流すと美味しい。滋賀県の郷土料理と濃醇な酒質がマッチするんです」

「ALL SHIGA 31酒蔵コラボ純米酒」

―2024年のブレンド酒の出来栄えはいかがでしょうか?

東さん「滋賀酒らしさを残しつつも、少し爽やかさのあるタイプに仕上がっています。今年の夏は暑かったこともあり、スッキリした味わいが楽しめるブレンドで進めました」

つきたてのお餅、味噌、しいたけといった強い旨味、そしてカスタードクリームや蜂蜜など複雑な甘みを連想させる香りが同時に楽しめる。濃厚でありながらも爽やかな酸味が引き締める味わいは、初秋の様々な味覚とマッチしそうだ。

県内外に広がる「滋賀酒推進月間」

―「滋賀酒推進月間」の取り組みについて教えてください。

東さん「毎年10月を自宅や飲食店で楽しんでもらう期間にしています。そのためのアイテムの一つとして、ブレンド酒企画がスタートした流れですね。今年は180近くの飲食店が参加してくださり、京都や大阪など滋賀県外にも徐々に広がりつつあります」

土井さん「関西以外からの引き合いもあり、東京や青森でも今年は取り扱ってもらいました。また、滋賀県出身の方が県外での結婚式で使用したいという問い合わせもありましたね」

―当初の「1万人乾杯プロジェクト」から変更があったのでしょうか?

東さん「『1万人乾杯プロジェクト』ではSNSでの写真投稿などをカウントして、その合計で1万人を突破しようという目標がありました。開始から5年経ってようやく達成し、2023年からは『1万人乾杯プロジェクト』を改め『滋賀酒推進月間』としての取り組みを行っています」

ブレンド酒を通して滋賀酒をアピール

―今後の展望について教えてください。

東さん「来年の企画についてはまだ未定ですが、ブレンド酒が滋賀酒の認知度向上に繋がればと思います」

土井さん「滋賀県酒造組合としては滋賀県と姉妹県州協定を結んでいる、アメリカミシガン州(※1)での販売を強化できればと思っています。県としてお茶などの輸出を進める流れもありますので、共にアピールできればいいですね」

「ALL SHIGA 31酒蔵コラボ純米酒」は、県内の蔵元が力を合わせて生まれた特別な銘柄だ。10年という年月をかけて滋賀県の日本酒を全国へアピールし、認知度を着実に向上させてきた。今後も「滋賀酒推進月間」などの取り組みを通して、滋賀酒の魅力が全国、さらには海外へと広がっていくことが期待される。日本酒のブレンドという新たな可能性が広がる中、滋賀県各酒蔵の挑戦はますます注目を集めていくはずだ。


ライター :新井勇貴
滋賀県出身/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師・SAKE DIPLOMA・SAKE検定講師
酒屋、食品メーカー勤務を経てフリーライターに転身。好みの日本酒は米の旨味が味わえるふくよかなタイプ。趣味は飲み歩き、料理、旅行など


関連記事はこちら

約120種類の滋賀酒が登場!「秋の大おさけ日和」が10月13日(日)開催
♯滋賀♯イベント

多賀の日本酒をSake World NFTでの購入はこちら

多賀株式会社

多賀株式会社

創業
1711年(正徳元年)
代表銘柄
多賀
住所
滋賀県犬上郡多賀町中川原102Googlemapで開く
TEL
0749-48-0134
HP
http://sakenotaga.co.jp/

特集記事

1 10
FEATURE
Discover Sake

日本酒を探す

注目の記事

Sake World NFT