【稲見酒造/葵鶴】兵庫県特A地区の山田錦を使った熟成酒!世界的な評価と今後の可能性について聞く
IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)Kura Master(クラマスター)での受賞と海外から大きな注目を集めている[稲見酒造]。30年以上も前から熟成酒に取り組む、想いや可能性について代表取締役兼杜氏の稲見秀穂さん聞いた。
酒米の王様とも称される山田錦の一大生産地、兵庫県三木市に蔵を構える[稲見酒造]。目の前には、かつて豊臣秀吉が有馬温泉へのルートとして整備した「湯の山街道」が通る。1889年(明治22年)の創業以来、「品質本位」を社是に米の旨味を活かした酒造りを行っており、地元では長年日常酒、そして贈答品として愛されてきた。「IWC」「Kura Master」などを通じて世界的に評価を受けている状況、そして熟成酒の可能性について聞いた。
この方に話を聞きました
- 稲見酒造株式会社 代表取締役 稲見秀穂さん
-
プロフィール米の旨味を活かした酒造りがモットー。長期熟成酒研究会に所属し、日本酒の熟成酒にも取り組む。
INDEX
特A地区で栽培される山田錦を熟成酒に
兵庫県は山田錦の栽培地として全国的に有名である。中でも特A地区の三木市、加東市から生まれる山田錦は一際優れており、歴史的にも数多くの銘酒を造り出してきた。
そんな兵庫県三木市に蔵を構える[稲見酒造]は2016年、ロンドンで毎年開催される世界最大規模のワイン品評会「IWC」古酒部門で入賞。さらに、フランス人による日本酒コンテスト「Kura Master」での受賞など、熟成酒を中心に世界的な評価を受けている。
「多くの銘柄で特A地区の山田錦を使用しているのですが、やっぱり熟成に向く酒米だと感じています。熟成すればするほど、奥行きのある味わいで膨らみが出てくるタイプの酒米ですね」と稲見さんは話す。
優れた酒米から優れた日本酒を生み出している稲見酒造は、30年以上前から「長期熟成酒研究会」に参加するなど、熟成酒に対して積極的に取り組んできた。
関連記事はこちら
- 長期熟成酒研究会 熟成古酒の過去・現在・未来
「熟成酒をスタートさせたきっかけは、酒質の変化をできるだけ均一化させるためでした。どうしても春に出る新酒と、前年のお酒では少し味わいが変わってくる。その変化を抑えるために古酒を貯蔵してブレンドしていたんです。」と稲見さん。
伝統的なワイン造りで行われるアッサンブラージュ(ブレンド)と同じく、味わいのバランスを取るために熟成酒を貯蔵していったと話す稲見さん。当時の熟成酒は一部の百貨店の片隅に並ぶ程度だったが、海外コンテストの受賞を機に風向きが変わったと語る。
「当初はある程度長期的に計画しつつ、受賞を目指そうと思っていたのですが『IWC』も『Kura Master』も出品1年目で受賞できて良かった。『Kura Master』の審査員はワインのソムリエが多く、そうした方々に認められた嬉しさはありますね」と笑顔を見せる。
難しいが価値のある熟成酒
海外における熟成酒の受け取られ方について、稲見さんはこう話す。
「フランスを中心にヨーロッパの人たちの関心が非常に強い。濃い味わいの料理と合うみたいですね。一部の日本酒愛好者層にはすでに認識されていたと思いますが、一般的な日本酒好きにも広がっている感覚があります」。
また国内においても、熟成酒は新たな飲み手の掘り起こしに一役買っているという。
「イベントを通じて、初めて日本酒を飲む若い方がチーズやスイーツと合わせて『美味しい』と言ってくれるんです。『日本酒ってこんなのがあるんだ』と先入観なく楽しんでもらっています」と語る。
[稲見酒造]では瓶、タンク、土壁貯蔵など様々な環境で熟成を進めている。しかし「こうなるであろう」という想像の世界であるため、普通の酒造りのように予測できないのが難しいという。
「一概には言い切れませんが、熟成は長ければ長いほど良いと言い切れない点も奥深いところです」と稲見さん。精米歩合などの設計、熟成環境の温度帯によっても変化するということで、改めて奥深い世界だと気付かされる。
SakeworldNFTに登場する熟成酒
現在、SakeWorldNFTでは以下の4銘柄がラインナップしている
※2024年7月現在
「熟成酒を初めて飲まれる場合、まずは冷やして飲むことをおすすめします。慣れてきたら少しずつ常温やぬる燗を試して欲しい。少し温めると甘みがふっと際立って違う楽しみができるはずです」と稲見さん。
通常の日本酒と比較して、熟成酒は香りや味わいが複雑で奥深くなる。ぜひ熟成チーズなど、味の多様なおつまみや料理と合わせて楽しんで欲しい。
葵鶴 山田錦しずく(写真左より)
兵庫県特A地区の山田錦を50%精米して醸される贅沢な純米大吟醸酒。兵庫県産の山田錦、はりまで採取された水を原料に、播磨で醸造された日本酒のみが名乗れる「GIはりま」に認定。米本来の旨味、透明感あふれる上品な香りが楽しめる。
葵鶴 大吟古酒(写真左より2番目)
2022年、2023年のIWCにて2年連続シルバー賞を受賞した1本。ミシュランガイド5つ星店でも取り扱われるなど、世界的に評価を得ている。常温、低温貯蔵と異なる温度帯の熟成を組み合わせ、8年間貯蔵した純米大吟醸古酒。華やかかつ複雑な香りが料理の奥にある風味、味わいを引き出してくれる。
2024年「Kura Master」受賞酒
葵鶴 AOI CLASSIC (写真右)
2024年「Kura Master」にて古酒部門金賞を受賞した1本。兵庫県特A地区の山田錦を使用した純米大吟醸を20年熟成させた長期熟成酒。チーズやドライフルーツ、ビターチョコレートなどと合わせることで素晴らしい相乗効果、マリアージュを生み出す。
葵鶴 純米大吟醸 酒壺(写真左)
2024年「Kura Master」にて純米大吟醸酒部門プラチナ賞を受賞した一本。兵庫県特A地区の山田錦を贅沢に磨くことで表現するまろやかな旨味と、キレのある酸味が特徴。「シーフード」「チキン」「牡蠣」「チーズ」など、海外の料理ともマッチする。豊潤で華やかな香りが楽しめる。
NFTで日本酒の新しい世界を作ってほしい
※稲見酒造の土壁貯蔵。
「蔵の中での熟成は低くても2〜5度、基本的には20度前後の常温で行ってきました。これまで経験のない(Sake World NFTによる)マイナス5度という環境で熟成することは面白いと感じます」。
日本酒の熟成は温度が高いほど進行が早くなる。そのためマイナス5度という低温度帯で、どのように熟成が進むのか興味深いと話す。
「熟成期間に正解はないのですが、味わいのピークだと感じる状態で長期間保管できる点はメリットになるはずです」。
また、NFTというデジタル技術との組み合わせについても「日本酒の新しい世界を作ってもらえればと思います。世界に発信できるよう楽しみにしています」と期待を寄せる。
奥深い熟成酒をシンプルに伝える
※タンク貯蔵
「熟成酒の世界は本当に奥深いです。その分、難しいと感じられることも事実でしょう。そういった部分を新しい飲み手の方に、シンプルに楽しんでもらえるようになればと考えています」と稲見さん。
味の複雑な熟成酒であっても、キリッと冷やせば味と香りが引き締まり親しみやすくなる。こうした飲み方の提案も、熟成酒をより幅広い層へ訴求する上で重要となるだろう。
また、海外市場に対しても「コンテストでの受賞もあり注目度は上がっていますが、まだまだ一般的に普及しているとは言い切れない。多くの方は日本酒に対して『どんなものなんだ?』と身構えている状況です」と続ける。
「特定名称酒についても、もう少し分かりやすくして欲しいという意見も寄せられています。興味を強く持ってもらっているので、伝え方を工夫すればより広がるかもしれませんね」。
日本酒は人が造るものではあるが、その製造過程には酵母や麹菌といった様々な微生物が関わる。熟成酒にはそうした自然の力に加え「時間」が味わいや香りにさらなる付加価値をつける。
世界的に評価を受ける酒類の多くが長期熟成を求められるように、日本酒熟成に対する評価はこれからも向上していくはずだ。今後の[稲見酒造]の取り組み、熟成酒の動向に期待したい。
ライター :新井勇貴
滋賀県出身/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師・SAKE DIPLOMA・SAKE検定講師
酒屋、食品メーカー勤務を経てフリーライターに転身。好みの日本酒は米の旨味が味わえるふくよかなタイプ。趣味は飲み歩き、料理、旅行など
稲見酒造
- 創業
- 1889年
- 代表銘柄
- 葵鶴
- 住所
- 兵庫県三木市芝町2-29Googlemapで開く
- TEL
- 0794-82-0065
- 営業時間
- 9:00〜17:00
- 定休日
- 日曜、祝日、第2・4・5土曜休