熟成古酒を育てるという日本酒の新たな楽しみ「SAKE WORLD NFT」構想のきっかけに迫る!
2023年12月13日にローンチされた「Sake World NFT」。京都の出版社が日本酒×NFTという新たな事業を始めたきっかけはある熟成古酒との出合いだった。事業責任者と酒蔵さんとの対談からSake World NFTを読み解く!!
2023年12月13日についにローンチされた世界初の日本酒専用NFTマーケットプレイス「Sake World NFT」。京都の出版社が日本酒×NFTという新たな事業を始めたきっかけはある熟成古酒との出合いだった。
事業構想時から質問が多かった、なぜ日本酒なのか?なぜNFTなのか?
Sake World NFT事業責任者羽間と京都・松井酒造 代表取締役社長松井治右衛門さんとの対談からSake World NFTが始まる構想、事業内容を読み解く!
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- 松井酒造株式会社 代表取締役社長 十五代 松井治右衛門さん
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プロフィール京都出町柳に位置する享保 11 年(1726 年)創業の洛中最古の酒蔵。2006年に実家である松井酒造に入社。伏見で酒造りの修業を経て、2018年代表取締役社長に就任。伝統と革新をテーマに「神蔵Kagura」「富士千歳」などを醸造。
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- 株式会社 リーフ・パブリケーションズ 業務統括取締役 副社長 羽間弘善
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プロフィール大阪府出身。東京大学工学部/東京大学法科大学院。2014年より弁護士として上場企業等の大規模争訟案件、 M&A、株主総会対応などに従事。2020年よりリーフ・パブリケーションズのメディア・酒等の全事業を統括。
羽間 「SAKE WORLD NFT」が2023年12月13日にスタートしました。私たち株式会社リーフ・パブリケーションズは、京都の地元情報誌「月刊 Leaf」を27年間発刊しており、京都を盛り上げるため、食に関するイベントを数多く実施してきましたが、その中でも日本酒に関しては特に力を入れてまいりました。しかし、コロナ禍ですべての食イベントが中止や延期となってしまったため、イベント開催以外に日本酒業界にとって直接的な売り上げ拡大や価値の向上につながるような、本質的な応援はできないかと必死で考え、発案したのが「SAKE WORLD NFT」でした。
「SAKE WORLD NFT」の概要は①ユーザー自身が日本酒を熟成・冷凍できる ②それをNFTマーケット内で2次流通できる ③2次流通により価値が上がった分のロイヤリティが酒蔵に入る ④酒蔵にはクラウドファンディング的に使用いただき、新たな酒作りにチャレンジできる環境を提供するといった4つのポイントがあります。
Sake World NFTマーケットプレイスはこちらSake World NFT
INDEX
1. ある一本の熟成古酒が発想のきっかけに
羽間 実はきっかけになったのは松井酒造さんの熟成古酒 「幾歳(いくとせ)」なんです。最初に松井さんにお会いしたのが‥。
松井 何年前ですかね。「アッサンブラージュクラブ(※)」のスタートアップの時ですか。
羽間 その時にご挨拶を。
松井 はい、その日は覚えています。
羽間 それまでは熟成酒というのを飲んだことがなかったのですが、こちらで初めていただいて「あ、おいしい!」と。
松井 ありがとうございます(笑)。
羽間 感動してしまって、日本酒には熟成というすごい可能性があるんだと。それがこの事業の着想を得るきっかけになりました。
松井 それはすごく光栄です。ありがとうございます。
羽間 日本酒の消費が下がっているなか、どうすれば酒蔵さんを応援できるか。自分ならどうしたら買いたくなるかと考えた時に、そうだ熟成酒だと。時間ごと年ごとにどのように味わいが変わり、熟成していくかを自分でみられたらいいのでは。かつ、これがプレゼントであったり、個人間で渡せる環境が整えば、飲む人楽しむ人が増えて、日本酒の流通がもっと増えていくんじゃないか。そうひらめいたのがスタートでした。
(※)アッサンブラージュクラブ/増田德兵衞商店、北川本家、松井酒造の協力により実現した日本酒アッサンブラージュ(ブレンド)企画。現在は限定の飲食店で味わうことができる。
2. マイナス5度の零下熟成で日本酒は深みを増す
松井 せっかくなので一口いかがですか?
羽間 すごい‥、とても深みがあるというか。特徴的だと思うのは、やっぱり香り。色々なタイプの熟成酒を飲ませていただく機会が増えたんですが、常温熟成や加温熟成させたものは、私のような初心者だと香りがムッとくるような気がして。そこが好きという人もいらっしゃいますが、私はどちらかというと生酒の香りが好きなタイプで、それがある程度残りながらほのかに香る感じ。それでいてぐっと味に深みが出ているという点にインパクトを感じます。
松井 狙い通りです(笑)。日本酒の熟成って色々なパターンがあって、1回火入れをして15度ぐらいの静かな部屋で熟成させるというのが一般的で、その方法だと穀物系のお酒なので、中国の紹興酒に近くなります。僕はそれもおいしいお酒だと思うんですけど、どうしても日本酒らしさを残したいという気持ちがありました。幸い色々と実験をする機会に恵まれており、生のままのお酒を零下熟成できるマイナス5度の部屋でずっと寝かせてみて、8年間熟成させたのがこの「幾歳」です。日本酒らしさを残したまま熟成が進んでいる面白いタイプの日本酒に仕上がったので、ぜひ皆さんに味わっていただこうと、ここ(松井酒造店舗)でのテイスティングだけですが提供しています。
羽間 マイナス5度の部屋で熟成させるということでしたが、その温度に設定される理由はなんですか?
松井 日本酒の生酒の場合は、基本的にそれぐらいの温度で置いておけば過度の熟成は進まない、ゆっくりと進んでいくというようなイメージです。我々のような無濾過生原酒を主戦場としている酒蔵は、低温環境を保つのが大切。いろんな実験の結果、マイナス5度ですとそれほどオフフレーバーもつかずにいい状態が長持ちすることがわかったので、長期保存用の冷蔵室はそれぐらいの温度にしています。
羽間 「SAKE WORLD NFT」でお預かりした日本酒を保管する氷温庫もマイナス5度に設定しています。言葉が悪いですが、完全に松井さんの真似ですね(笑)。ただ、さまざまな酒蔵さんを訪れ、日本酒による温度管理の大切さや酒造りにおけるこだわりなどについて話を聞き取り組んでいます。
3. これまでの歳月を思いつつ飲むのも熟成古酒の楽しみ
羽間「SAKE WORLD NFT」では最大25年まで保管できますが、25年後の熟成したお酒はどのような味わいになると思われますか?
松井 我々もまだ最大8年なので、未来のことを言うと恥をかくかもしれないですけど(笑)カドが取れて丸いお酒になっているだろうし、やっぱりお召し上がりになる方、機械ではなくて人間が飲むので、それまでの25年間に思いを馳せながら飲まれるでしょう。そうするとやっぱり味わいも特別に感じると思います。僕たちが造っている無濾過生原酒って、時間と競争するお酒なんです。もう1ヶ月以内でお召し上がりいただこうかとか。そういうお酒に5年・10年・25年先があるとすると、今度は時間が味方についてくれるような気がして楽しいし、いろんな可能性が出てくるんじゃないかと思います。
羽間 松井さんのお酒もSake World NFTで味わってみたいですね。
松井 そうですね、純米酒とか純米大吟醸など、うちのお酒は香りがフルーティーなものが結構ありますので、それが時間を経てどういう形になっていくのか我々も見たい。そういうお酒を出したいと思っています。
羽間 宣伝みたいになりすみません(笑)
4. ロイヤリティ収入が酒蔵の支援になる
羽間 改めまして、松井酒造さんのご紹介をお願いいたします。
松井 我々は1726年に兵庫県北部の香住という町で創業いたしました。江戸の後期に京都に出て、最初は河原町竹屋町でお酒造りをしていたんですけど、大正時代に市電が通ることになり道路の拡幅工事にともなって、大正時代にこの場所に移ってきました。さらに今から40年ぐらい前に、京阪電鉄が出町柳まで延伸して地下化することになり、大きな地下工事があると井戸水が出なくなったり水質が変わるかもしれないと。ちょうど日本酒の売り上げが落ちてきていた時期で、私の祖父の代でここでのお酒造りっていうのは一旦閉じていました。
その後、私が東京の大学を出たタイミングでうちの父、今の会長が松井酒造をここで復活させるから帰ってこいと。当時の私は日本酒のことは全然わからなかったので、こちらへ戻ってから伏見で修業させていただきました。それで蔵が復活したのが、今から14年前になります。
羽間 「SAKE WORLD NFT」の事業について聞かれた時、どのように思われましたか?
松井 もともとNFTについては興味があり、これは面白そう、 ぜひ参加させていただきますと。ふたつ返事だったんじゃないでしょうか、うちは(笑)。
羽間 ありがとうございます(笑)。
お酒の二次流通によって価値が上がると酒蔵さんにロイヤリティが入る、この仕組みについてはどのように思われますか?
松井 酒販免許の関係で日本酒の転売は許されないというのが今の考え方ですが、NFTによってそこがクリアできて「さあ、これからどうなっていくのか」という、まさに時代が変わっていくところを目の当たりにしてる。一番いい席でその変化を見せていただいてるというのは楽しいですね。
羽間 ありがとうございます。これまでの酒販免許がなければ日本酒を販売できないという決まり事が、NFTを取り入れる形で個人間取引や二次流通が可能になることについて、酒蔵さんはどう反応されるかなと心配していました。また違う目線になりますが、私は日本酒の価格は他のお酒と比べて安いと思っています。そこへ熟成という付加価値を付けて二次流通でのロイヤリティが生まれることで、酒蔵さんに別の収入軸ができる。それがどこまで酒蔵さんにメリットとして還元できるか、酒蔵さんはどう思うか、事業を組み立てる段階で不安視していたんです。
松井 我々に限らず関西の商売人の美徳って「いいものを安く売れ」と教わって育ってきてる人が多い。最近は日本酒が海外に進出するタイミングで、「どんどん付加価値をつけて高く売った方がいいですよ」とよく言われるんですけど、それって一番苦手で難しいことなんですね。じゃあどうするって時に、瓶を切り子にしようとかベネチアングラスにってなってしまうんですけど。それがNFTを使えば付加価値の付与が自然にできるというのは面白い。こういう変化を怖がらない、変化を楽しめる酒蔵さんはたくさんあるので、そういうところはノリノリで参加してくれるんじゃないかなと思います。
5.「SAKE WORLD NFT」で日本酒は国境を越える
松井 「SAKE WORLD NFT」をどのような方の利用が多い見込みですか?
羽間 ワインが世界の人に飲まれているように、日本酒も同じポテンシャルを持っていると思うので、状況をグローバルにしていくのがポイントだと思います。NFTの形であれば全世界の人に購入してもらえる、グローバル化できるというのもメリットであり、国境を越えて日本酒をアピールする仕組みになればと思います。
松井 どのようなお酒を出品すれば面白いですか?
羽間 その酒蔵さんの特色が出るようなお酒が出てくると面白いです。私たちは「SAKE WORLD NFT」の事業を皆さんに認知、または理解していただき、このシステムに乗せたら面白そうだというお酒を酒蔵さんに造ってもらう。それがこのマーケットの面白いところではないかと思います。引き続き松井酒造さんにもご協力いただければありがたいです。
松井 もちろんです!日本酒に新しい側面を見出していただいてるような気がします。今までの我々が得たフィールドとはまた違うフィールドなので、そこで新しい取り組みができるのは本当に楽しいです。「第二創業」という言葉がありますが、それぐらいインパクトのある事柄になるのではないでしょうか。どんどん日本酒の価値が高まっていくように、より多くの方にお召し上がりいただけるように、私たちも頑張りたいと思います。