【豆知識】菩提酛(ぼだいもと)を知っていますか?日本最古の酒母について知りたい!
生酛や山廃酛はもうお馴染みだけど、「菩提酛」とはあまり聞き慣れない言葉かも。室町時代に誕生した最古の酒母といわれる菩提酛について、唎酒師の藤田えり子さんが解説します。
お寺が発祥の菩提酛
日本酒好きでも「菩提酛」について知っている人は少数派かもしれません。「菩提というからにはお寺に関係があるの?」と思った方はさすがです。菩提酛とは菩提山正暦寺という寺院で生まれた酛(酒母)の製法。生酛や速醸酛のルーツといわれています。
室町時代には僧坊酒といって、大寺院でお酒造りが盛んに行われていました。なかでも奈良県の菩提山正暦寺では、酛(酒母)の原型となる菩提酛や三段仕込み、諸白造り(もろはくづくり)などの製法が確立していました。これらは現代の日本酒造りの基礎になったものと考えられ、境内には「日本清酒発祥之地」という碑が建てられています。
菩提酛の作り方
菩提酛が現代の酛と大きく異なるのは、蒸米ではなく生米を使用する点です。生米を水に浸けて3日間放置すると、乳酸発酵した酸っぱい水が上澄みにできる、この“そやし水”を用いて酒母を作ります。そやし水は酸性なので雑菌の繁殖を抑え、酵母菌の増殖を助ける役目をはたします。気温が高い方が発酵が進みやすいため、菩提酛の仕込みは残暑の時期に行われていました。そののち江戸時代に生酛、明治になって速醸酛の製法が生まれると、安定した発酵が難しい菩提酛は次第に使われなくなりました。
奈良県の蔵元による復活
一度は途絶えてしまった菩提酛を復活させようと、1996年に奈良県の酒蔵有志が集まり『奈良県菩提酛による清酒製造研究会』を立ち上げました。調査によって正暦寺近くの岩清水から乳酸菌が見つかり、そやし水作りに適しているとわかりました。これらの研究成果から、生米に岩清水と正暦寺境内で採取した乳酸菌を加えてそやし水を作り、分離した生米を蒸したものと米麹を加えて菩提酛を仕込みます。できあがった菩提酛は研究会に所属する8蔵が持ち帰り、それぞれの蔵で菩提酛を使った清酒として製造販売しています。味わいは乳酸系のヨーグルトのような酸味が感じられ、しっかりとした飲みごたえがあるものが多い傾向ですが、酒蔵ごとの個性によって味に違いが生まれるというからおもしろいですね。
菩提酛清酒祭を1月に開催
まだ顕微鏡が発明されておらず、微生物の存在も知られていない室町時代に、こんなに進んだ発酵技術があったなんて驚きです。正暦寺では毎年1月に菩提酛清酒祭を開催しており、2025年は1月11日(土)に行われます。酒母の仕込みや菩提酛清酒の有料試飲も楽しめて、日本酒の原点を体感できる機会です。ぜひ訪れてみてください!
正暦寺:https://shoryakuji.jp/
ライター・唎酒師 藤田えり子
大阪の日本酒専門店に世界を広げていただき、さまざまな日本酒や酒蔵に出合う。好きな日本酒は秋鹿、王祿ほか
お酒以外の趣味は鉱物集めとアゲハ蝶飼育。