Sake Trivia

【豆知識】生酛と山廃ってどんな日本酒?伝統を超えて進化する現代の生酛についても知りたい!

「このお酒は“生酛”で美味しいですよ」居酒屋や酒販店でこんなふうに勧められたことはないでしょうか。生酛と山廃の違いや、新たに注目を集める今の生酛について唎酒師の藤田えり子さんが解説します。

生酛と山廃
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「このお酒は“生酛”で美味しいですよ」居酒屋や酒販店でこんなふうに勧められたことはないでしょうか。生酛と山廃の違いや、新たに注目を集める今の生酛について唎酒師の藤田えり子さんが解説します。

江戸時代に生まれたバイオテクノロジーが生酛

生酛とは日本酒の元となる酒母(酛)造りにおいて天然の乳酸菌によって雑菌を防ぐ、江戸時代に確立された伝統製法です。空気中や道具から取り込んだ乳酸菌に乳酸を生成させ、雑菌が増殖できない酸性の環境を整えます。一方、清酒酵母は酸に強いのでどんどんとアルコールを生成していくという仕組み。まだ微生物についての知識がなかった江戸時代に、こんな高度な醸造技術が生まれていたなんて驚かされますね。

現在は主流となっている速醸酛は、清酒酵母と同時に人の手で乳酸を添加します。生酛に比べて酒母造りにかかる日数が大幅に短縮できるうえ(生酛が約20日、速醸酛が約10日)、自然にまかせる生酛よりも安定して造られるという利点があります。

生酛と山廃

「働き方改革」から開発された山廃

生酛と並んでよく使われる言葉が「山廃」です。山廃とは「山おろし廃止酛」の略ですが、では「山おろし」とはなんでしょうか?

話を少し戻して、生酛の製法を見てみましょう。
まず蒸米に米麹と水を加え、浅い木桶(半切り桶)に入れて混ぜ合わせます。それから桶に山をつくって櫂棒ですり潰す、この作業が「山おろし」(酛すり)です。これを数時間おきに3回ほど行ってからタンクに移し、厳密に温度を管理しながら乳酸菌の生育や米麹による糖化を進め、酒母を造ります。

山おろしをして米を細かくすり潰すことによって、米麹による糖化を促し、また雑菌の巣になる空気を抜いて全体を均一にする効果があるといわれます。また、長年使い続けた半切り桶には乳酸菌が棲みついており、その影響もあるそうです。

生酛と山廃

山おろしは一つの桶に2〜3人がかりで、硬い蒸米を力をこめてすり潰す重労働。その苦労を和らげようと、1909年に醸造試験所によって開発されたのが山廃酛です。製法は酒母タンクに米麹と水を合わせた水麹を作っておき、蒸米を加えます。あとは染み出した液を掛け回し、自然に米を溶かしていきます。ただ、発酵には生酛と同じだけの日数がかかるため、翌年の1910年により効率のよい速醸酛が誕生しています。

若い造り手による新時代の生酛がすごい

一般に生酛造りの日本酒は雑味が少なくすっきりした辛口、旨味の奥行きが深いといわれます。生酛に準じた造りの山廃も近い味わいになりますが、もっとしっかりとした印象です。

一時はほとんどが速醸酛となり生酛は途絶えかけますが、2000年頃から若手を中心に伝統製法を見直し、難しい生酛造りに挑戦する酒蔵が増えてきました。それに伴い、これまでのイメージを塗り替えるジューシーなもの、甘酸っぱくフレッシュなものなど、多彩なバリエーションが登場して脚光を浴びています。

今や伝統を超えて新時代を迎えている生酛。これからも続く進化から目が離せません!


ライター・唎酒師 藤田えり子
大阪の日本酒専門店に世界を広げていただき、さまざまな日本酒や酒蔵に出合う。好きな日本酒は秋鹿、王祿ほか。
お酒以外の趣味は鉱物集めとアゲハ蝶飼育。

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