【今さら聞けない教えて!?シリーズ14】上槽~槽搾り(ふなしぼり)について
日本酒を造る工程の中に「上槽」があります。これは醪を搾って、日本酒と酒粕に分ける作業のことで、最も一般的なのは「自動圧搾機」を使って搾る方法。酒袋に醪を入れて吊るし、自然の力で搾る「袋吊り」、そして今回紹介する「槽搾り」という3つの方法で行われています。
発酵を終えた醪を搾り、原酒と酒粕に分ける工程を上槽と言います。
白濁した醪は、そのままでは日本酒と認められません。日本酒と名乗るためには、濾して、アルコール度数を22度未満にする必要があります。 上槽は、 “ 濾す ” という条件をクリアする工程でもあります。今回は、“ 槽(ふね)” と呼ばれる圧搾機で搾る方法についてお話します。
この方が解説します
- 杜氏屋主人・プロデューサー中野恵利さん
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プロフィール1995年、大阪・天神橋筋に日本酒バー「Janapese Refined Sake Bar 杜氏屋」を開店。日本酒評論家、セミナー講師、作詞家としてさまざまな分野で活躍。
● 槽に流儀あり
「明日、槽(ふね)乗りますんで、よかったら来てください!」。そんなご連絡をいただくと、ワクワクします!
“ 槽に乗る ” ということは、醪を搾るということ。“ 槽(ふね)”と言っても、舟形をしているわけではなく、夜店で金魚が泳がされている水槽と言った方がぴったりきますね。長方形の容器で、上部には錘が装着されており、油圧シリンダーで上から圧力をかけて搾る圧搾機です。圧搾槽には、酒袋(現在はナイロン製の物が多いが、綿製品もある)に詰めた醪を並べ、幾層にも積み重ねます。
圧搾槽は、欅や桜、銀杏といった木製のものから、コンクリート、ホーロー、ステンレスと遷移を遂げてきました。今では、ベースである鉄にクロムとニッケルを添加したSUS304 (サスサンマルヨン)という、ステンレスの中でも特に耐食性に優れたオーステナイト系ステンレスを使用した物もあります。
私が今まで一番多く拝見した槽は佐瀬式圧搾機 (株式会社昭和製作所) で、これが槽型圧搾機の主流であると考えます。永田式(永田醸造機械株式会社)、TM式吟醸搾り機 (株式会社東洋商会)など、他社でも同様の仕組みの物が様々なサイズで製造販売されていますが、醸造機械メーカーは決して多く存在しないということは、想像に難くないですよね。
また、ヤヱガキ酒造 (ヤヱガキグループ) が考案・製造したヤエガキ式圧搾機は、大布 と呼ばれるシーツのように大きな袋にポンプで醪を注入し、矢板と呼ばれる板 (材質はアルミやステンレス、木もあり)と交互に積み重ねていくという、佐瀬式とは違った仕組みで搾ります。槽は正四角柱に近い形状で、何段重ねるかは決まっているわけではありませんが、私が拝見したいくつかの現場では30段でした。
この方法は、大布から染み出た液体が矢板をつたって槽へ滴り落ちていくため、槽の中ではなく、槽の上で溢れさせるように搾ることになり、液体は空気に触れるため、敢えて酸化を促しているような搾り方に思えます。
● 圧力を操る
前述の槽搾りは機械の力で圧力をかけていましたが、人の手によって圧力をかける方法もあります。天秤棒(撥ね木)に石の錘をぶら下げ、梃(てこ)の原理を使って人が圧力を調整する圧搾法で、 “天秤搾り” “撥ね木搾り” と呼ばれる圧搾法です。嵯峨遺跡 (京都市右京区) には、1300年代中期以降のものとみられる酒造りの施設の遺構があり、天秤搾り (撥ね木搾り)で上槽を行った跡が見止められ、長い歴史をもつ方法であることが窺い知れます。しかし、あまりに時間がかかる非効率な圧搾法のため、現在、数場の酒蔵でしか行われていません。天秤棒の長さは各蔵で違いますが、上原酒造(滋賀県高島市)は15メートルと格別長く、その容姿は厳めしく、圧巻です。また、同酒造は樫、鋼と、材質の異なる二本の天秤棒を有していますが、最重量1トンにもなる錘はとうとう鋼を曲げてしまい、現在樫のみを使用しているとのことです。
人力で圧力を操る、それが天秤搾り(撥ね木搾り)です。
前回:【今さら聞けない教えて!?シリーズ13】醪の管理について