【豆知識】醪(もろみ)= 仕込み = 造り
醪造り(もろみつくり)とは、酒母を大型のタンクに移し、そこに蒸し米(掛米)・米麹・仕込み水を加え、本格的にアルコール発酵を促すことです。今回は「醪= 仕込み = 造りについて」中野恵利さんが解説します。
醪造り(もろみつくり)とは?
酒母を大型のタンクに移し、そこに蒸し米(掛米)・米麹・仕込み水を加え、本格的にアルコール発酵を促すことです。醪の香味は直接的に品質に反映されます。醪を搾って濾したものが原酒、濾さずにそのまま商品としたものが “ どぶろく ” です。
『一麹・二酛・三醪(いちこうじ・にもと・さんつくり)』の “ 三醪 ” とは、この工程のことを指し、“ 造り ” “ 仕込み ” も同意に使われます。また、焼酎や醤油も原料が発酵した状態を醪と呼びます。
この方が解説します
- 杜氏屋主人・プロデューサー中野恵利さん
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プロフィール1995年、大阪・天神橋筋に日本酒バー「Janapese Refined Sake Bar 杜氏屋」を開店。日本酒評論家、セミナー講師、作詞家としてさまざまな分野で活躍。
4日間で三回、三段仕込みがスタンダード
穏やかな発酵を得るため、材料の全てを一度に加えるのではなく、蒸し米(掛米)・米麹・仕込み水は4日かけて三回に分けて加えていく “ 三段仕込み “ が主流の酒造り、その一段一段は独特の用語で表され、改めて、酒造りは伝統産業なのだと認識を強める方も多いのではないでしょうか。
そして、米麹が蒸し米のデンプンを糖に変え、同時に、酵母が糖を分解してアルコールと炭酸ガスを生成するという “ 並行複発酵 ” という日本独自の発酵形態が認められるのもこの工程です。
初添え・踊り・仲添え・留添え
最初(一段目)に材料を加えることを “ 初添え (はつぞえ)と言います。
仕込みタンクに水を張り、そこに米麹を投入、さらに、酒母タンクから酒母を移します。小さな酒蔵では、“ 湯だめ ” “ ため “ などと呼ばれる桶に酒母を汲み取り、肩に担いで仕込みタンクに移動させることが多く、これもまた力仕事です。
2日目は “ 踊り ” と言って、材料を加えることはしません。酵母の増殖を待ち、観察・計測することで、以降の発酵がどのように進むかを予想する重要な判断基準をここで得ます。
3日目(二段目)は “ 仲添え(なかぞえ)” 。材料は初添えの二倍量を加えます。そして4日目(三段目)の “ 留添え(とめぞえ)” では、仲添えの二倍量の材料を加えます。
一段ごとに物量が増えていくため、初添えでは小さめのタンク、仲添え以降は大きなタンクと、タンクの大きさを変える酒蔵が多く見られます。
段階ごとに加える物量が違うのは、一度に全量加えると、酒母の酸度や酵母密度が下がり、雑菌が繁殖する恐れがあるからです。酒母に急激な変化を与えず、ストレスのない状態で環境の変化に対応させることで健やかな発酵が得られると考えられています。
もちろん、酒母・米麹・蒸し米(掛米)・仕込み水の量配分によっても仕上がりは変化します。それぞれの量は、目指す酒質ごとに違い、これを “ 仕込み配合 ” と言います。
また、この工程でも温度管理は重要です。米の旨味を最大限に引き出したい、吟醸香を引き出したい、目指す酒質に仕上げるために、細かな温度管理が為されています。
何段まであるの?
私が知る限り、十段仕込みまででしょうか。
四段目以降に加える物は、米麹、もち米、酵素剤など、酒造家によって様々ですが、三段仕込みの留添えを終えた段階で、糖をアルコールに変える酵母は自らが生み出したアルコールによって死滅させられることを思うと、ただ材料を入れる回数を増やすという単純なことではなさそうですね。
500有余年・・・技術はさかのぼる
三段仕込みは酵母を生かしたまま発酵を進めることが出来るため、醸造酒としては稀な20度以上のアルコールを生成します。この方法は、化学や微生物学のない室町時代の酒造技術書『御酒之日記』に記載されています。たとえ当時の酒が低アルコールであったとしても、日本の酒造技術の高さは素晴らしいものであったと誇れますね。