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【豆知識】酒母造り(酛立て)について

酒母造り(酛立て)は酵母を増やす工程です。 今回は、速醸系酒母(速醸酛)の製造工程について中野恵利さんが解説します。

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酒母造り(酛立て)は酵母を増やす工程です。
酵母は、空気中や植物の表面をはじめ、この世界の様々な所に棲息している微生物です。パン、ビール、ワイン…… 造るものによって使う種類が異なる酵母、酒造りには清酒酵母が用いられます。今回は、速醸系酒母(速醸酛)の製造工程についてお話しいたします。

この方が解説します

杜氏屋主人・プロデューサー中野恵利さん
プロフィール
1995年、大阪・天神橋筋に日本酒バー「Janapese Refined Sake Bar 杜氏屋」を開店。日本酒評論家、セミナー講師、作詞家としてさまざまな分野で活躍。

● お酒は酵母のおならとおしっこ
清酒酵母は生きていくために米の糖分を食べます。米のデンプンが麹の酵素作用で糖化され、そうして出来た糖分を食べるのです。おなかがいっぱいになった酵母の排泄物がアルコールと炭酸ガス。日本酒は、酵母の生理現象を利用して造っています。

● 水麹・仕込み
米をアルコールに変える酵母を培養する、そのためにまず、酛桶(もとおけ)と呼ばれる小さな桶(タンク)に麹米と水を入れ、よく混ぜます。米麹に含まれる酵素が酒母全体に均一に作用するように、酵素が水に溶け出た状態の水麹を造ります。この水麹に、冷ました蒸し米、醸造用乳酸、酵母を入れ、混ぜ合わせたものが、現在最も採用されている速醸系酒母と呼ばれるもので、完成までの日数は約2週間です。これに対して、自然界(蔵内)に棲息している乳酸を取り込む生酛系酒母は、完成まで約1ヶ月という時間が必要です。速醸系・生酛系の違いは、このシリーズの『元はと言えば酒は酛』をご参照ください。
酛桶(酒母タンク)は開放状態のため、酒造りに有用ではない微生物(雑菌や野生酵母)が入り込むことを防ぐため、酒母造りは酒母室(酛場)と呼ばれる室温約5度に保たれた部屋で造られます。

● 汲み描け
材料を入れて混ぜ合わせ、待っているだけで酒母が出来るわけではありません。材料を投入したらすぐ、タンクの真ん中に汲み掛け器という米粒よりも小さな穴が開いた円筒状の容器を差し込みます。これによって汲み掛け器の中に麹の酵素液が溜まります。溜まった酵素液を柄杓で汲み出し、汲み掛け器の外側の蒸し米に振り掛けます。これよって、酵素を均一に、全体に行き渡らせます。作業は、1時間に1回~2回、一昼夜かけて行います。

● 打瀬(うたせ)・暖気(だき)入れ(いれ)
品温の降下を図り、低温に保つ期間を打瀬と言います。4~5時間おきに櫂を入れ、全体を均します。
次に、暖気樽(だきたる)という湯たんぽのような役割をする樽(素材は樹脂やステンレスが多く、木製のものはほとんど使われていない)をタンクに入れ、品温を上げ、糖化を促します。

● 膨れ・湧付き・湧付き休み・分け・酒母枯らし
糖化が進むと生成された糖分を栄養源として酵母は増殖していきます。アルコール発酵が始まり、炭酸ガスが放出され、酒母の容積が増し、表面に泡が立ちます。この泡の出始めを膨れと言います。
さらに品温を上げ、発酵を活発にします。炭酸ガスの放出量が多くなるとともに、泡が表面全体を覆うようになるこの時期を湧付けと言い、翌日もさらに品温を上げます。その温度は約20度にまで達します。
活発な発酵により酵母は発熱し、自ら品温を保ちます。この時期、人は加温作業を休めるので湧付け休みと言います。
程よく発酵したら、急冷によって発酵を緩やかにする分けの作業。分けのあとは、10度以下の低温に保ち、酵母の活動を抑えながら微生物に穏やかな営みを続けさせることによって香味成分を引き出します。この約1~2週間の静置期間を酒母の枯らしと言います。うっとりするような香り、心ほどける味わいは、酒母の枯らしにかかっていると言っても過言ではありません。微生物たちを機嫌よく働かせたり休ませたり…… なんだか酒造家は、中間管理職みたいですね。

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