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日本酒の魅力と文化を届けるテーマパーク 「Yodobloom SAKE 梅田店」倉本店長に聞く

2025年4月5日、関西の中心地・大阪梅田に、日本酒テーマパーク「Yodobloom SAKE 梅田店」がオープンした。株式会社ヨドバシカメラが展開する体験型ブランド「Yodobloom」の第2号店として誕生したこの店舗では、どのようなサービスが提供されているのか、そして日本酒に込めた想いとは——その魅力を取材した。

倉本店長
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大阪府大阪市に2025年4月にオープンした「Yodobloom SAKE 梅田店」は、「ヨドバシカメラマルチメディア梅田」の2階、酒類コーナーの一角に店を構える。

「日本酒テーマパーク」と銘打つ同店では、全国50蔵から厳選された100種類の日本酒が常時そろう。利酒師の資格を持つスタッフが常駐し、30分間の「唎酒(ききざけ)セッション」では、豊富な知識をもとに、日本酒の文化や歴史、製法などを丁寧に解説。そのうえで、来店者一人ひとりに合った銘柄を厳選し、提供している。

本稿では、店長である倉本きずなさんに、「Yodobloom SAKE 梅田店」出店の経緯や現状、そして日本酒業界に対する想いを取材した。

この方に話を聞きました

 倉本店長

「Yodobloom SAKE 梅田店」店長 倉本きずなさん
プロフィール
2001年生まれ。マレーシアの大学でビジネスを学び、卒業後に店舗を運営する株式会社トレンドキャスケットに就職。コスメ・美容に特化したRaaS(Retail as a Service)型ショップ「ティアランド」勤務の後、「Yodobloom SAKE 梅田店」オープンと同時に店長に着任。

コスメ業界から新規参入

倉本さん

―「Yodobloom SAKE 梅田店」のコンセプトは?

倉本店長(以下略)「トレンドキャスケットでは、『小売を面白くする』をミッションに掲げています。ネット通販が普及している昨今ですが、弊社では実店舗での接客を重視しています。

なぜ接客が必要なのかというと、『そこでしか体験できない価値があるから』と考えています。そのため、私たちは『体験型』という点を重視しているんです。
『Yodobloom SAKE 』では、唎酒師資格を持ったスタッフによる30分の唎酒セッションを通して、約5銘柄の試飲だけでなく、それぞれの日本酒が持つストーリーや酒蔵の想いを知ってもらえる点が特徴です」

―出店の経緯を教えてください。

「弊社はもともと、東京で美容商材を取り扱う店舗を運営していました。こちらはZ世代女性をターゲットにした『コスメ体験型』店舗なのですが、その第二弾としていろいろな商材を検討した結果、『日本酒』を選択するに至りました。東京ではなく、大阪(梅田)という土地に出店した理由については、ヨドバシカメラ様との話し合いの結果となります」

日本酒

―美容業界から日本酒業界へ参入した感想は?

「若年層でも、日本酒を好む方がたくさんいることに驚きました。『最近勉強を始めました』といったお話もたくさんいただけますし、業界全体としての可能性を感じています。

コスメは『かわいいが好き!』という方がお客様やスタッフの中心になりますが、日本酒は少し違います。
まず日本酒という『存在』に焦点を当て、そこから全国各地にある酒蔵へ足を運んだり、専門資格取得に励むなど、コスメとは異なる熱量があると感じました。この点は非常に感動しましたね」

日本酒=日本文化を後世に繋げるための重要なピース

―倉本店長は日本酒にいつから興味を持った?

「居酒屋などで梅酒か日本酒を選ぶなど、個人的にはもともと好きなお酒でした。ただ、単に好んで飲んでいるだけで、それ自体の勉強をしていたということではありませんでした」

―出店にあたって日本酒の勉強をスタートさせた?

「そうですね。事業を始めるにあたり、勉強するようになったら見事にはまったんです(笑)

私はマレーシアの大学に通っていたこともあり、学生時代は『海外文化』が身近にありました。そのため、もともと着物や茶道といった『日本文化』への興味を持っていたんです。

日本には、『終わり』や『変化』を美と捉える側面があります。日本酒も味わいを突き詰める探究心、そして造り手が変わることでの変化など、日本人の特性がよく現れている文化の一つだと思っています」

日本酒

―「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、日本酒が持つ文化的側面にも注目が集まってきています。

「日本酒業界が衰退すると、日本文化の一つが消滅してしまうことになります。我々が提供するサービスはより幅広い人、特に若い方や海外の方に知ってもらい、それが日本文化を後世につなげていくために重要なピースになってくると思っています。

ただ、日本酒を日本文化として捉えている人はそう多くありません。
ワインがある食卓は少し特別感ありますが、日本酒はそうでもない。これは日本酒が比較的リーズナブルなことや、日常に馴染みすぎていることなどが理由かもしれません。『Yodobloom SAKE』では、日本酒を『商品』としてだけではなく、文化として捉えた『体験』、そして買った先にある『価値』を生み出せていければと考えています」

倉本さん

×「押し売り」〇「推し売り」

―接客するスタッフは全員が唎酒師?

「そうです。当店のような『体験型店舗』で接客を行う上で重要なのは、スタッフの専門性です。『Yodobloom SAKE』では、『日本酒の魅力を伝えたい』『仕事として日本酒に関わりたい』という想いを持ったスタッフがそろっています。資格ももちろん大切ですが、それ以上に重要なのは、何よりも日本酒への情熱だと感じています」

―スタッフはお酒業界の出身が多い?

「酒蔵や酒屋出身のスタッフもいますが、バックグラウンドはさまざまです。お酒業界だけで働いてきた訳ではないけど、日本酒が好きな延長で勉強を続け、資格を取得した方が集まっています。『押し売り』ではなく、『推し売り』という言葉がピッタリなほど、スタッフ全員が日本酒好きなんです」

日本酒

―接客する中で感じたことは?

「お客様の中には、日本酒が何を原料にしたお酒なのか、体験を通じて初めて知ってくださる方が多くいらっしゃいます。フルーティな香りが特徴の銘柄だと、『何かの果汁が入っているのですか?』と聞かれることも少なくありません。日本酒の原料はシンプルですが、味わいの幅が広いことに驚かれる方も多いですね。

他にもお酒にあまり慣れていない若い方が、生酛造りのようなしっかりとしたタイプを選ばれたり、逆に長年日本酒を飲まれている方が、極甘口のタイプを購入されたりすることもあります。こうしたケースは、日本酒の味わいの幅広さに、あらためて気づかされる好例だと感じています」

―「EXPO 2025 大阪・関西万博」が開催される中、海外顧客の比率は?

「英語でのサービスも提供していますが、専門スタッフが限られていることもあり、比率としてはそこまで高くありません。日本酒文化を広めるという意味では海外の方にも訴求したいですが、それ以上に、まずは日本の方々に広く知っていただきたいと思っています」

唎酒チャレンジ

―顧客の年齢層は?

「幅広い世代の方が足を運んでくださっており、20〜30代の若年層も多いです。『日本酒テーマパーク』ということで、唎酒をゲーム的に楽しめる要素を提供していることも要因の一つだと考えられます。SNSを見ていらっしゃる方ですと、『日本酒を飲みに来た』ではなく、『なんか楽しそうだから来た』という方が多い。『飲む』ことを目的に来た方でも、30分のセッションを受けた後は『美味しかった』ではなく『楽しかった!』と言っていただける点は、テーマパーク要素が伝わったからだと思います。

Z世代は商品が無限にある時代に生きていますので、背景にあるストーリーなどを重視する傾向があり、思い出や瞬間的価値が大事になります。そういった意味では、我々が提供するサービスは、これからの世代にもより深く響いていくのではないかと考えています。選択肢が膨大で情報が溢れる今の時代だからこそ、プロの意見が求められているんです」

セッション

―単純な試飲だけに終わらない点は魅力ですね。

「店内で取り扱う全酒蔵から、日本酒が持つストーリーや、蔵としての想いを直接聞く時間をオープン前にいただきました。それらをもとに、現在ではお客様に対してフラットにお伝えしています。特定の銘柄に偏ることなく、お客様それぞれの好みを見つけることを重視しています。蔵に行かないと聞けない裏話などもご説明しますし、蔵の方たちの想いを代弁するような形の接客を行っています」

「知る楽しさ」と「伝える喜び」

―倉本店長にとって日本酒とは?

「『わたしの一部』かなと思います。これは仕事という面ももちろんありますし、日本人としての日本文化発信、そして飲料として身体に染み渡るという意味も含まれますね。私個人の人生の中でも大きい部分にもなりますし、自己表現の一つとして、好きな日本酒を知ってほしいという気持ちがあります」

―今後の展望について

「この事業をもっと拡大させ、大阪だけではなくて東京やその他地域にも、『Yodobloom SAKE』があればと思います。そして、この活動が全国の酒蔵様の一助になれば嬉しいですね」

倉本さん

味わいを楽しむだけでなく、その背景にある歴史や想いにふれることで、日本酒はより豊かな文化体験となる。

Yodobloom SAKEは、日本酒を「知る楽しさ」と「伝える喜び」でつなぐ場所だ。味わいの魅力にとどまらず、酒蔵の歴史や造り手の想いを丁寧に伝えるその姿勢は、訪れる人々の心に深く響いている。

今回取材に応じてくれた倉本店長も2001年生まれのZ世代。「ストーリーを重視する」「思い出や瞬間的価値が大事になる」というのは、自分自身が当事者として日々感じていることも背景にあるのかもしれない。

「小売を面白くする」というトレンドキャスケットの取り組みは、日本酒業界全体にも新たな風を吹き込み、今後ますますその存在感を高めていくだろう。


ライター:新井勇貴
日本酒学講師・酒匠・SAKE DIPLOMA・ワインエキスパート
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。

Yodobloom SAKE 梅田

住所
大阪府大阪市北区大深町7丁目1−1Googlemapで開く
TEL
06-4802-1010
HP
https://yodobloom.com/sake/
営業時間
12:00~22:00(平日) 10:00~22:00(土日祝)

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