ガラス張りで見られるミニ酒蔵。白鶴酒造資料館内ブリュワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT(ハクツル サケ クラフト)」
白鶴酒造株式会社の新プロジェクトであるマイクロブリュワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」を徹底取材。酒造資料館内に設けられたミニ酒蔵で製造された日本酒は新酒のコンテストにも出品。超レアな限定酒の最新情報もいち早くお知らせ!

日本有数の酒どころである、兵庫・灘五郷にあり、全国トップの出荷量を誇る酒蔵[白鶴酒造株式会社]。昨年秋、併設の酒造資料館内にマイクロブリュワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」が誕生し、話題を呼んでいる。実験的な手法でこれまでになかった酒を生み出す杜氏の伴 光博さんに話を伺った。
この方に話を聞きました
- 白鶴酒造 執行役員技師長 伴 光博さん
-
プロフィールHAKUTSURU SAKE CRAFT担当。丹波杜氏。これまで全国新酒鑑評会において、金賞受賞酒の製造技術指導に携わる。
酒造資料館内に誕生したマイクロブリュワリー
大正初期に建造され、1969年まで稼働していた酒蔵を生かした白鶴酒造資料館。館内では昔ながらの酒造りの作業工程を展示し、使用されていた道具とともに実在の蔵人をモデルにした等身大のフィギュアで再現している。今にも動き出しそうな臨場感たっぷりの展示をめぐりながら日本酒造りの基本が学べると、海外からの観光客も多く訪れる人気の施設だ。
2024年9月、酒造資料館の一角に設けられたのが「HAKUTSURU SAKE CRAFT」。館内に展示されている伝統的なイメージとは対照的な、最新のマイクロブリュワリーだ。わずか約37㎡の面積には、米洗いから浸漬・蒸米・麹造り・発酵・しぼり・瓶詰め・火入れまでの設備がコンパクトにまとめられ、全面ガラス張りにして内部を公開している。
今回の取材では、タイミングよく実際に仕込みを行う様子を見られた。一年中同じ温度帯に保たれているというブリュワリー内で、白鶴社員たちが蒸米をタンクに投入。取材時はお酒の仕込み中で、300ℓの発酵タンクの覗き窓からはぷくぷくと発酵する元気な醪を観察できた。
その隣では小さな容器を使っての仕込みも行われていて、こちらは東京支社屋上にある白鶴銀座天空農園で栽培・収穫された酒米「白鶴錦」で仕込む商品を今回からブリュワリーで醸造するため、テストしているそう。
大人数人が入室すれば定員に達しそうなコンパクトな空間だが、「ブリュワリー」の名の通り、そこは立派に酒蔵としての機能を有していた。

▲自社オリジナル酒米「白鶴錦」を使ってテスト醸造

▲計測器で測るのは杜氏の伴 光博さん(右)
最新の酒造りを惜しみなく公開
一区切り仕込み作業を終えたあと、杜氏である伴 光博さんに話を伺った。
「小さな醸造所は『その他の醸造酒』をメインにしたところが多いのですが、こちらでは純米大吟醸酒メインの清酒を造っています。私ともう一人20年以上の経験のある専任の蔵人が酒造りに携わっているというのも特色ですね」
あえて酒造資料館内に設置して、一般公開している理由についてはどうだろうか。
「酒造資料館で展示しているのは古い酒造りだけです。かといって工場に入っていただくわけにはいかないので、ここで現代の酒造りを直接お見せすることで関心を持っていただける。また、小さな醸造所のノウハウを身につけることによって、例えばパッケージ化して他の地域でも展開が可能になります。海外から見学に来られたお客様の中には、自身のレストランで使いたいという方もおられましたし、次のビジネスチャンスにつながるという考えがあります」
同じ酒は二度と造らない
「HAKUTSURU SAKE CRAFT」で醸造するのは当面は月替わりで1種類のみ。また、同じものは二度と造らない方針という。
ひとつの銘柄は四合瓶(720ml)にしてたったの200〜250本。しかも酒造資料館内の売店でしか手に入らないという超レアな限定酒だ。これまでNo.1からNo.3の3種類をリリースしているが、価格は4,400円から7,700円と比較的高価。にもかかわらず、いずれも10日から2週間ほどで完売する人気ぶり。
「[No.1]は吟醸酵母の中でもカプロン酸エチル系の香りの出るタイプを使用しています。[No.2]はカプロン酸エチルと酢酸イソアミルタイプの混醸で、両方の香りの特徴を持っていることになります。[No.3]、これは新酒鑑評会の出品を前提に作ったもので、まあうまく落ち着いたかなと思っています」
カプロン酸エチルはリンゴやパイナップルのような香り、酢酸イソアミルはバナナやメロンのような香りといわれ、いずれも代表的な吟醸香。470種以上あるまだ日の目を見ない白鶴独自の酵母を使用するなど、特殊な醸造法にチャレンジするラボラトリー(研究室)としての性格を持ち、今後は成果が出れば一般商品化の可能性もある。
これまでもチャレンジングな姿勢のもと、次々と新しいプロダクトを生み出してきた白鶴酒造。[HAKUTSURU SAKE CRAFT]の新設についても、それらのスピリットを感じさせるところ。
「やっぱりいろいろなことにチャレンジしていくというのは、会社の方向性としてあると思いますね。極端な話、『日本酒はもうアカン』とか言うような方も世間にはおられますが、全然そんなことはない。ここで造る日本酒は高めだけれど、買ってくださるお客様はたくさんおられる。まだまだチャンスはありますよ」
「やっぱり酒造りはおもしろい!」
インタビューの締めくくりに、伴さんにとって「日本酒とは何か」を訊ねてみた。
「ずっと酒造りに携わってきたので、生き甲斐でもあるし、数少ない私の持っている誇りですね。私は酒造りがしたいと思ってこの会社に入ってきましたが、社員でも実際に酒造りに関われる人は実はそんなに多くないんです。そういったなかで、それなりにいい結果を出すこともできました。私ももう60歳になって、これまでに工場長や技術指導もしてきましたが、やっぱり酒を造るのが一番おもしろい。指導するよりね、自分でやるのが絶対おもしろいですよ」
超の付くベテランになってからも「HAKUTSURU SAKE CRAFT」という画期的なプロジェクトに携わり、自分の作りたい酒を作ることができる喜び。「若いもんには負けませんよ!」という伴さんの言葉からはみなぎる覇気が伝わってきた。
なお、現在醸造中の新商品[No.4]については、「これまでは清酒を造ってきましたが、今仕込んでいるのは新しい試みで、50%精米の純米大吟醸をベースにほのかにホップの香りがします、みたいな。でもあくまで本格的な酒です」とのこと。
今回特別に試飲させていただいたが、軽やかなホップの香りが駆け抜ける爽快な味わいだった。こちらは1月25日の発売を予定している。すぐの売り切れが予想されるので、早めの購入をおすすめしたい。
ライター・唎酒師 藤田えり子
大阪の日本酒専門店に世界を広げていただき、さまざまな日本酒や酒蔵に出合う。好きな日本酒は秋鹿、王祿ほか
お酒以外の趣味は鉱物集めとアゲハ蝶飼育。
HAKUTSURU SAKE CRAFT(白鶴酒造資料館)
- 住所
- 兵庫県神戸市東灘区住吉南町4丁目5-5Googlemapで開く
- TEL
- 078-822-8907
- 営業時間
- 09:30~16:30
- 定休日
- 無休