日本酒にもヴィンテージものがある?熟成古酒の魅力を老舗酒店[鵜飼商店]に聞く
近頃、耳にすることが多くなった「熟成古酒」というワード。長期保存により熟成した日本酒を意味し、特に3年以上を経たものを指すという。
今知りたい日本酒の熟成について、老舗酒店の4代目に聞いてみた。
明治創業の老舗日本酒専門店
1903(明治36)年創業の酒販店[鵜飼商店]。日本酒専門店として長年地域で親しまれ、以前からの熟成古酒の品揃えを知る客が遠方から訪れることもしばしば。日本酒は純米酒以上のみ、焼酎やワインも厳選したものばかりを扱う。
また、醤油やみりんなど昔ながらの製法を守る調味料も購入できる。
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- 店主 中上倫子さん
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プロフィール120年続く老舗の酒販店を4代目として引き継ぐ。三重県の森喜酒造へ修業に入った経験もあり、日本酒にかける熱意は人一倍。
先代の父の頃から熟成古酒に着目
—かなり以前から熟成古酒を扱ってこられたそうですね。
中上さん「先代の父が熟成古酒に魅了され、『ガーンと酔わないから酔い覚めが緩やかでいい』と言っていました。
私は酔い方よりも味わいに面白さを感じています。もともとは祖父の時代、通い徳利持参で量り売りをしていた頃ですが、まだ硬い新酒に少し古酒をブレンドして味を整えていたことがあって。それで熟成古酒の力を感じ、知らず知らずのうちに年々増えていきました。昔はあまりわかってもらえませんでしたが、だんだんお客さんの中にもご自分の“舌センサー”で判断して認めてくださる人が多くなり、うれしく思います」
—どんな味わいの特徴がありますか?
中上さん「もともとのお酒の質にもよりますが、年代物だと紹興酒のような味に甘味や余韻の深さがあります。ブランデーやウィスキーのように少しずつ味わいたい感じ。チョコレートやある種のチーズなど日本酒には難しいものも相性がいいですね」
店主おすすめの熟成古酒3選
—おすすめの熟成古酒を3本選んでいただけますか。
中上さん「タイプの違う3種類を紹介します。麹の割合が多く甘めで長期熟成用に作られた“達磨正宗”、比較的やさしい味わいの“独楽蔵”、その中間くらいの新酒と古酒をブレンドした“木戸泉”です」
■達磨正宗 未来へ 2018 660ml 4500円
白木恒助商店(岐阜県)、アルコール度数16度、精米歩合75%
年代を記したラベルに贈る人と育てる人の名前を書き込め、自宅で熟成させて20年後に乾杯できる。赤ちゃん誕生のお祝いにおすすめだが、ほかにも様々な記念に贈りたい。
店では2000年、2017年〜2023年を販売している。
中上さん「いち早く熟成古酒の世界をがんばって作ってきた蔵です。この2018年のものはかなり色付き、紹興酒のようですが、よりキメの細かい味わい」
■独楽蔵 悠(はるか)五年 純米古酒 720ml 1930円
杜の蔵(福岡県)、アルコール度数14度、精米歩合65%
5年以上常温熟成させた古酒で、熟成香と旨みが楽しめる。温めるとさらにまろやかになり、濃厚な料理やスパイシーな料理に合う。
中上さん「やさしい滋味のある味わい。熟成古酒だからと構えず気軽に、食中酒としても楽しめます。常温か、これからの季節はぬる燗もおすすめです」
■木戸泉 ブレンド古酒 Handshake 720ml 1760円
木戸泉酒造(千葉県)、アルコール度数16度、精米歩合表記なし
ラベルの写真は、握手をする今の蔵元と父である先代の手。独自の高温山廃酒母で長期熟成可能な日本酒造りを行い、40年以上熟成させた原酒も保有する。
中上さん「現蔵元のお酒と先代の作った熟成古酒をブレンドしています。受け継ぐのは技術だけじゃなく、残してきた酒そのものもあり、今に生かされているんですね」
この日本酒にも注目!
—熟成酒のほかにはどんなお酒がありますか?
中上さん「比較的近畿圏のお酒を扱うことが多いですが、特に地域は限定しておらず、ただ純米酒にこだわって選んでいます」
日本酒は店頭の冷蔵ケースと、夏でも温度を低めに保った別室に保管。中上さんが修業をしていた[森喜酒造]の“るみ子の酒”も揃う。
湖弧艪(こころ) 純米生原酒 720ml 1320円
太田酒造(滋賀県)、アルコール度数17%、精米歩合70%
武将・太田道灌の末裔にあたり、銘酒「道灌」で知られる酒蔵。地元の酒米にこだわり滋賀県産玉栄を使用。しっかりしたコクと旨みに米の良さが生きる。
中上さん「まず、名前がきれいで手に取りやすい。生酒ですが年中あり、夏・冬いつも美味しく飲めるお酒です。香り香りせず、食事と合わせて普段飲みできます」
■天鷹 有機純米酒 720ml 1980円
天鷹酒蔵(栃木県)、アルコール度数15度、精米歩合68%
辛口で飲み飽きしない、50年以上前から純米酒にこだわる酒蔵。2018年には天鷹オーガニックファームを設立し、有機米を栽培。日・米・欧で有機認定されている。
中上さん「自社で田んぼを持ち、有機農法の米作りから手がける酒蔵です。やや辛口で女性受けの良い味わいは、和洋を問わず食事に合います」
物語を連れてくる熟成古酒
「熟成古酒を知ると日本酒のワールドが広がります」と、ご自分の生まれ年の古酒を手にしながら語ってくれた中上さん。
「独特の味わいだけじゃなく、作られた当時のことに思いを馳せて、その頃自分は何をしていたかな、父母の世代はどうだったとか、話が弾むきっかけにもなります。うちでは手頃な価格のものが多いので、ぜひ普段飲みで楽しんでください。」
実は日本酒の熟成はここ数年に始まったことではなく、鎌倉時代にはすでに古酒の記録が残っているそう。古くて新しい熟成古酒。まだ飲んだことのない人はチャレンジしてみてほしい。
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