酒蔵に聞く

「米・水・人、そして佐渡」の4つの宝を和して醸す「四宝和醸」の酒造り。[尾畑酒造/真野鶴]が挑む持続可能な地域づくりに迫る

「サステナブル」が叫ばれている昨今、酒造りにおいてもサステナビリティが重視されている。今回は、新潟県佐渡市[尾畑酒造]が取り組む“持続可能な酒づくり”について、蔵元の尾畑留美子氏に話を聞いた。

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新潟県にある日本最大の離島、佐渡島。新潟の中でも高品質な米が取れ、島の南北にそびえる二つの山脈より軟水を運ぶ。全国的に日本酒の需要が縮小傾向にある中、自然環境に優しい酒米や棚田米の活用、廃校を酒蔵に再生させ自然エネルギーを導入するなど[尾畑酒造]の持続可能な酒づくりと地域づくりについて聞いた。

この方に話を聞きました

尾畑酒造 専務取締役 尾畑留美子さん
プロフィール
尾畑酒造の二女として生まれる。大学卒業後1995年より蔵を継ぎ、専務取締役として経営に携わる。2014年から佐渡の廃校を仕込み蔵として再生させた「学校蔵プロジェクト」をスタート。生物多様性を促進するローカル資源と太陽光パネルによる再生可能エネルギーによる酒造りを行っている。

酒造りを通した地域の活性化を担う

尾畑さん「尾畑酒造は1892年創業、私で5代目の酒蔵です。日本酒造りの三大要素である、米、水、人に加えて、生産地の佐渡の4つの宝を和して醸す『四宝和醸』を掲げて酒造りを行っています。佐渡産米を中心に使っていて、牡蠣殻農法で栽培した『朱鷺と暮らす郷づくり認証米』である越淡麗、佐渡産の五百万石や山田錦などをメインにお酒を造っています。」

シンボルでもある朱鷺の存在は欠かせないという。朱鷺が住む環境を守るために自然と共生する米作りに取り組んでいる。その結果、島では500羽を超える朱鷺が舞う。特に契約農家の佐渡相田ライスファーミングが島の湖で養殖された牡蛎の殻を活用した牡蛎殻農法で栽培した酒米・越淡麗は、まさに佐渡でしか生まれない酒米だ。この酒米で仕込んだお酒「真野鶴・実来(みく)」は海外のコンペティションでもゴールドメダルを受賞するなど高い評価を得ている

越淡麗・純米大吟醸「真野鶴・実来(みく)」
牡蛎殻農法で作った「朱鷺と暮らす郷づくり認証米」越淡麗で仕込んだ佐渡ならではのお酒。
マンゴーやパイナップルなどトロピカルフルーツを彷彿とさせる香りと芳醇な味わいが口中に広がる。名前の通り、まさに「実りの到来」を思わせるリッチな1本だ。

廃校を酒蔵に再生したきっかけ「美しい学校を無くしてはいけない。」

真野湾を見下ろす丘の上に立つ西三川小学校。この学校は「日本で一番夕日がきれいな小学校」と謳われながら、少子化のために廃校になることが決まっていたとのこと。風情のある木造校舎の学校が「2010年に廃校になる」と知って、何とかこの学校を残したいと考えたのが廃校を酒蔵に再生させた「学校蔵」誕生のきっかけだ。

学校蔵は尾畑酒造の単なる二つ目の酒蔵以上の存在となっているという。
佐渡は高齢化や過疎化など、様々な地方の課題が集まっている。だからこそ地域を持続させていくための様々な取り組みを行い、国内はもちろん、今や世界中から人が訪れる場所になっている。

サステナブルな酒造り

尾畑酒造本社で冬季に酒造りを行っている為、学校蔵では夏場(5~9月)に酒造りを行う。使うお米は全て佐渡産で朱鷺の認証米である牡蛎殻農法はもちろん、2019年からは佐渡島岩首地域の昇竜棚田のコシヒカリも使用している。棚田の農家さんから「棚田は変形田が多く重労働で、後継者不足にも悩んでいる」と聞いたのがきっかけ。
棚田の米で仕込んだお酒を通して棚田の物語を広く伝え、持続力になればという想いから導入しているという。
また学校蔵の前身である西三川小学校のグラウンドだったエリアとプールだった場所に太陽光パネルを設置し、再生可能エネルギーを活用している。佐渡産のお米と佐渡のエネルギーで醸した、ここでしか醸せない特別なお酒なのだ。

リピーターを生み出す仕組み

ここでは「学校蔵の特別授業」という一日限りの白熱ワークショップを毎年6月に開催している。佐渡島は歴史や文化に多様性があり「日本の縮図」と言われている。地域の課題が集まっているという現状もあるが、課題先進地は言い方を変えれば、課題解決先進地になりうる。佐渡島からヒントを得られれば、島国日本の色々な地域の課題にも役立てるのではないかという想いから、この授業をスタートさせた。
講師は「里山資本主義」の著者である藻谷浩介氏や解剖学者の養老孟司氏、元APU学長の出口治明氏、東京大学副学長玄田有史氏など、毎年2.3名を招いている。
授業参加者は高校生から80代までと幅広い世代。ここに来なければ会うこともなかったであろう多彩な人達が一緒に学ぶことで化学反応を起こしている。

一週間の酒造り体験プログラム

学校蔵での酒造りは尾畑酒造の杜氏や蔵人が行うが、合わせて学びの場としても機能している。タンク1本につき4名程の酒造りを学びたい人達を受け入れ、一週間通ってもらいながら製麹から三段仕込みの部分をコアなプロセスを体験できる。

2024年の夏を終えて、現在ばでに19か国、150人以上の卒業生が排出されている。参加した人たちは日本酒だけではなく”佐渡を深く知るきっかけ”にもなっており、結果的に日本酒と佐渡島のアンバサダーが巣立っている。地域の人々との交流から、リピーターになる人が多いのも特徴だ。同窓会組織もあり、ネットワークはワールドワイドに広がっている。

日本酒造りは地域創り。

学校蔵は、地域を持続させていくための様々な取り組みを実験的に行い、世界中から人を惹きつける“場”となっている。

尾畑さん「学校蔵をスタートした時はとにかく夢中だったので、あまり大変という印象はなかったです。ただ、最初はリキュール免許で行っていましたが2020年に日本酒特区の第一号として認定され日本酒製造に切り替わりました。正直古い建物なので維持管理は大変ですが、ここだから出来ることがたくさんあります。」

「学校蔵に取り組みはじめて14年が経過しました。2010年廃校になる運命だった西三川小学校は、現在では資源もエネルギーも人も循環させるサステナブルな場所として再生しました。朱鷺を含め、佐渡が色々な面での『再生の島』になっていくのは素晴らしいことです。そして、何と言っても『この場所あってこその酒造り』。佐渡が元気であることが酒造りを続けられる大きな原動力になっています。日本酒造り自体が地域の持続を促す『ものづくり』であり、農業振興、雇用確保、綺麗な水の維持に密接に関わっています。今後も酒造りを通して、より一層地域持続に貢献していきたいです。」

最近よく目にするようになった「サステナブル」という言葉。今回佐渡を訪れ、改めて「持続可能性」という言葉の意味を理解した。佐渡の資源やエネルギーがあり、そこに人や情報をプラスし、使い、交流することで再生させるシステムができてこそ、「持続可能」になる。

今後この佐渡で新しい何かが生まれることが楽しみでならない。

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ライター 秦野理恵
海外に日本酒をもっと広めたい”野望を持つ、日本酒をこよなく愛する🍶PRお姉さん
Singapore 在住歴9年のバイリンガルアナウンサーで日本酒の海外向けPRも行っている。
酒エンタメ情報や海外事情などをはじめ、お酒の面白さを幅広くお届けしている。
特技:少林寺拳法、英会話、ドイツ語(少々)
好きなタイプ:生酛系、古酒

尾畑酒造株式会社

尾畑酒造株式会社

創業
1892年
代表銘柄
真野鶴
住所
新潟県佐渡市真野新町449Googlemapで開く
TEL
0259-55-3171
HP
https://www.obata-shuzo.com/home/
営業時間
9:00~16:00(酒造SHOP)
定休日
年中無休(酒造SHOP)

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