酒蔵に聞く

[愛知/金虎酒造]名古屋の中心で日本酒を造る!「虎変」ブランドの想いと挑戦を聞いた

1845年(弘化二年)創業の金虎酒造は、「バンテリンドーム ナゴヤ」から車で約10分という都心部で、代々越後杜氏の技を活かした手造りの日本酒を醸し続けている。

  • この記事をシェアする

金虎酒造は善光寺街道沿いにて、初代大阪屋善兵衛が酒造業を開始したことに端を発する。
代々、新潟県を発祥地とする越後杜氏による酒造りを行い、現在の杜氏である木村伸一氏は令和6年度日本醸造協会醸造技能者に表彰されるほどの技術を持つ。
長年受け継がれてきた金虎銘柄を中心に、現在は新銘柄の「虎変」を展開。蔵の歴史を守りつつ、時代の変化を捉えた日本酒を提供する想いを聞いた。

この方に話を聞きました

金虎酒造株式会社 七代目蔵元 水野善文さん
プロフィール
大学時代は法学部にて法律を学び、卒業後にシステムエンジニアとして勤務。2004年に家業を継ぐために金虎酒造に入社。名古屋文化を活かした新しい取り組み、県内日本酒の活性化に注力する。

大空襲によって焼失したのち、酒造りを再開

現在の名古屋市にあたる尾張藩は江戸時代、濃尾平野で収穫されるお米を活かした酒造りを奨励していた。金虎酒造はこうした時代に生まれた老舗酒蔵の一つだ。主力銘柄である「金虎」は名古屋城名物である「金鯱」から魚編を取ったことと、三代目善兵衛が寅年生まれであったことに由来する。

昭和20年、名古屋大空襲により蔵が焼失したが、4代目と5代目の奮闘により見事再建。一から揃えた道具と長年培われた技術が、現在も金虎の味わいに生きている。代々越後杜氏との縁が深く、淡麗で飲みやすい味わいの酒質を得意としてきた。透明感のある日本酒はごまかしが利かないため、レベルの高い酒造り技術が求められるという。蔵を訪れたタイミングは11月後半と造りの真っ最中だったが、全ての作業スペースが徹底的に整理されていることが印象的だった。

水野さん「蔵を整理し、清潔に保つこともキレイな味わいを生むために大切な要素です。蔵の環境も酒質に影響しますので」

2012年には従来の「金虎」に加え、新銘柄となる「虎変(こへん)」をリリース。この名称には、虎の毛が季節の変わり目に生え変わることにちなみ、時代とともに進化し続ける決意が込められているという。代々受け継がれてきた技術を土台に「名古屋の新銘酒」として挑戦を続けている。

蔵の設備を刷新して生まれた「虎変」

―「虎変」を新たにリリースした理由について教えてください。

水野さん「平成に入ってから『金虎』ブランドで展開してきましたが、地元で多く消費されるリーズナブルな商品が中心になっていました。そうした中で、中価格〜高価格帯のラインナップを拡充するために『虎変』をリリースするに至りました」

―造りの現場にも大きな変更があったのでしょうか?

水野さん「最初の『虎変』は前任杜氏が担当し、その後に現在の杜氏である木村伸一にバトンタッチしました。この杜氏の変更は偶然だったのですが、これを機に設備や造り方も刷新することになったんです。洗米機などの設備も新しく入れ、造りの人員も1名増やしました。麹室は杜氏の背丈に合わせた特注を造り、夜中に1人でも作業しやすい環境を整えるなど大きく転換したのがこのタイミングでした」

―長年愛飲されてきた方からの反応はいかがでしたか?

水野さん「蔵まで足を運んでくださる方の声が中心ですが、非常に好意的に受け取ってくださっていると感じています」

―主に消費される地域は愛知県内になるのでしょうか?

水野さん「製造する8〜9割程度が地元で消費されます。県外になると近隣の岐阜など東海エリアなどがメインです。以前は東京への流通もあったのですが、コロナ禍で飲食店様との繋がりも途切れてしまいました。『虎変』については特約店のみでの販売にしていますので、より販売先を絞る形になっています」

Sake World NFTで購入予定の日本酒

Sake World NFTでは以下の銘柄の予定をラインナップしている。

・大吟醸 虎変

虎変の中でも最上級クラスに位置する大吟醸。白いお花のような上品な香りとバナナを連想する吟醸香が特徴だ。金虎酒造の特徴である透明感が感じられつつ、ほんのりと柔らかい甘み、控えめな酸味が楽しめる。スッキリとキレの良いバランスの取れた1本。
原料米:兵庫県産山田錦
精米歩合:40%

・純米大吟醸 金虎

山田錦の香味の中に、華やかでエレガントさ、心地の良い吞み口を合わせ持つ。屋号である「金虎」を冠する最高品質の純米大吟醸。
原料米/兵庫県産「山田錦」
精米歩合/40%

水野さん「大吟醸の『虎変』は兵庫県産の山田錦を使うなど、主に全国新酒鑑評会へ向けて造っている銘柄です。結果としては過去10年のうち7回金賞、3回入賞という高い評価をいただいています。越後流らしくキレが良く、スッキリした印象でありながらもお米のふくよかさ、香りの膨らみを感じてもらえるようなお酒です。食中酒として楽しめる点も大切にしていますので、いろいろな料理と楽しんで欲しいです。純米大吟醸は麹15%仕込みをしており、麹を減らすことで、掛け米歩合が増える、水歩合を減らすことで米の旨味を活かす。新たなアプローチで作っており、上質な純米大吟醸のコンセプトに合っていると思います。」

―熟成するにつれて変化はありますでしょうか?

水野さん「蔵で酒造年度毎に貯蔵しており、特別な試飲会などで提供することがあります。1年目については華やかで優等生な大吟醸といった印象を抱きますが、年を追うにつれて年度ごとのお米の特徴、気候といったそれぞれの個性が浮かび上がってきます。熟成することで丸みを帯びていくものもあれば、若干硬さを残しつつスッキリ感を維持しているものなど、ヴィンテージの違いが楽しめる点が熟成の面白さだと思います」

―マイナス5度での熟成についてはどうお考えでしょうか?

水野さん「5度での貯蔵経験しかありませんが、この温度でも1年経っても華やかな香りは残っており大きく変わることがありません。特に、金虎酒造のお酒はアミノ酸値が1以下と比較的低めですので熟成による味の変化が生まれにくい点も特徴です。マイナス5度という環境でどういった香味が生まれるのか楽しみですね」

常に挑戦を続ける金虎酒造

―今後の展望などを教えてください。

水野さん「『虎変』をリリースしてから約10年が経過しましたが、まだまだ従来銘柄の『金虎』が占める割合の方が多くなっています。引き続き『虎変』のアピールを続け、認知度向上につなげたいですね。

また、蔵としては『チャレンジタンク』として毎年変わり種のお酒を造っており、これまで酸味を強調したものや、味噌に合う味わいをテーマにしてきました。また、同じ名古屋市内の山盛酒造さんと麹を交換するといった取り組みも行いました。今年は『酒母絞りパウチ凍結酒』を造り、ちょうどこの前に完成したばかりです。酵母が活発な状態ですので、大人のヨーグルトのような甘酸っぱい味わい。シャーベット状ですので日本酒と合わせると甘みと酸味が混ざり合って、普段日本酒を飲まない層にも喜ばれるかもと思っておりました。こちらはまたお客様の反応を見ながら進めていきたいと思っています」

名古屋の都心で輝く金虎酒造の日本酒。その透明感ある味わいと、時代を捉えた挑戦が、名古屋の日本酒文化をさらに盛り上げていくだろう。「虎変」とともに進化し続ける未来に期待が高まる。その次なる展開から目が離せない。


ライター :新井勇貴
滋賀県出身・京都市在住/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師・SAKE DIPLOMA・SAKE検定講師
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。

金虎酒造株式会社

金虎酒造株式会社

創業
弘化2年(1845年)
代表銘柄
金虎、虎変
住所
愛知県名古屋市北区山田三丁目11番16号Googlemapで開く
TEL
052-981-3960
HP
https://kintora.jp/
営業時間
10:00~17:00
定休日
土曜日、日曜日、祝日

特集記事

1 10
FEATURE
Discover Sake

日本酒を探す

注目の記事

Sake World NFT