[西山酒造場]が営む“酒・発酵・芸術”が融合する新たな複合施設「鼓傳」に潜入レポート!
2024年8月8日、兵庫県丹波市にある【西山酒造場】に酒・発酵・芸術が融合する複合施設「鼓傳(こでん)」がグランドオープン。成長し続ける西山酒造場の魅力に探る。
JR福知山線「丹波竹田」駅から徒歩10分。丹波の自然豊かな山間に蔵を構える【西山酒造場】は、1849(嘉永2)年創業の175年もの歴史を持つ酒蔵。新幹線がない時代に、文人・高浜虚子が5回も訪れたという記録が残っているほど、多くの文人・画人に愛された酒蔵として名を馳せている。今回蔵内に“酒・発酵・芸術”が融合する新たな複合施設「鼓傳」が2024年8月オープン。
西山酒造場の新たな魅力を体感。
INDEX
“鼓を傳える” 酒造りを次世代へ残すための施設に
今回オープンした「鼓傳(こでん)」は、実際に30年前まで造りが行われていた酒蔵をリノベーションした施設。入り口を抜けると、かつての蔵を思わせる吹き抜けの高い天井や梁などから歴史の名残が感じられ、随所に現代風の洗練されたデザインや、芸術家・綿貫宏介の可愛らしい装飾が施されており、心踊る空間となっている。
「鼓傳」のコンセプトは“伝える、受け継ぐ”。「鼓傳」という名前は、かつての蔵の名前「鼓傳蔵」に由来し、「鼓を傳(つた)える」という名の通り、伝統を次の世代に伝えたいという思いから、元の蔵の名前を引き継ぐ形で名付けられた。
建物内には、明治時代に建てられた酒蔵の当時の様子を思い浮かべながら、丹波の食材や発酵食品を味わい、酒造りや地元の歴史について学ぶための仕掛けが散りばめられている。また、木桶が客席になるなど、100年以上前から使われてきた酒造りの道具がいろんな形で再利用されていたり、各部屋が酒造りを行う蔵になぞらえた内装になっていたりと、遊び心を伴った継承の仕方で訪れた人を魅了する。
味覚を研ぎ澄ます、蔵人の発酵まかない料理
1階奥の発酵まかないカフェ「小鼓御里(こつづみおんり)」では、西山酒造場の蔵人たちが日常的に食べているまかない料理が楽しめる。メニューは、丹波地域で採れる有機野菜や発酵食品をふんだんに使用したものとなっている。特に、地域の農家から仕入れたB級品の野菜を活用し、食材を無駄なく使うことや、砂糖を使わず発酵過程で引き出される自然な甘みを活かすなど、素材本来の風味を楽しめるよう工夫されている。自然な味付けこそが、西山酒造場の蔵人たちの舌を鍛え、美味しい酒造りに繋がっていることには納得だ。
また、看板メニューの「せいろ蒸し」で提供される野菜は、酒米を蒸すのに使っていた酒造道具・甑(こしき)を使って調理されており、酒米の旨みを引き出すように、野菜の旨みも存分に引き出されている。また、お料理と一緒に、四季醸造の蔵元ならではの新鮮な酒も味わえるので、こちらもぜひ押さえておきたい。
▲丹波地鶏の木枡せいろ 2750円・・・丹波地鶏の有機醤油麹がけ
▲木枡せいろの白いメレンゲオムライス 2200円・・・甘酒トマトソース使用
発酵お三時「三三(ささ)」のショーケースには、美味しそうな“おやつ”がずらり。白砂糖を一切使用していない、発酵が引き出す自然な味わいが特徴のおやつが販売されている。シュークリームやプリンなど、発酵食材を活かしたスイーツは、小さなお子様から大人まで、安心しておいしく楽しむことができるよう作られている。家族全員のおやつタイムにも、訪問の際の手土産としても喜ばれるだろう。
▲さつまいも麹プリン 432円
オリジナル調味料作りで、おうちでも発酵を
鼓傳では、短時間で気軽に体験できる、テイスティングや利き酒講座、発酵ワークショップも開催されている。テイスティングでは、純米大吟醸酒や季節限定のお酒を含む日本酒3種類の飲み比べなどもあり、西山酒造場の出来立てのお酒をその場でいただくことができる。
発酵ワークショップは、赤穂の塩や足立醸造の醤油、西山酒造場の仕込み水「椿寿天湶(ちんじゅてんせん)」を使ってオリジナル調味料を作るなど、お酒が飲めない方でも楽しめるワークショップが用意されている。作った調味料は自宅に持ち帰って発酵過程が楽しめるのも嬉しい。
・発酵ワークショップ 2750円〜/人
日本酒とアート。次世代アーティストの発表の場として
西山酒造場の2階にあるギャラリー「鼓(つづみ)」は、元々は「枯らし場」として麹を枯らすために使用されていた部屋を改装。訪れる人々が日本酒と共にアートを楽しめるようにと、美術館に預けていた数々の作品を蔵に戻し、公開している。俳人の高浜虚子、日本画家の小川芋銭、芸術家の綿貫宏介など、同酒造場と縁の深い文人・墨客たちの貴重な作品や、歴史を感じさせる昔の注文書なども展示されており、文化と芸術を後世に伝える場となっている。横山大観と小川芋銭による未完の合作「丹波霧」など、ここでしか見られない歴史的価値の高い作品も置かれている。
また、ギャラリーの奥には、酒蔵宿西山「鼓傳」の客室が用意されている。この宿は、蔵人が寝泊まりするための「会所場(かいしょば)」をイメージして造られ、希望者は朝早くから実際の酒造りに参加するなど、蔵人と同じような体験ができる。窓からは、女将・西山桃子さんもお気に入りの、蔵の瓦と丹波の山々の景色が組み合わさった西山酒造場ならではのビューが堪能でき、米を蒸す蒸気の音や行き交う蔵人の声など、臨場感を味わえる空間となっている。お酒の発酵を守るために、宿泊者は前夜から提供される蔵のまかない料理をいただき、清潔な状態で蔵に入る準備が整えられるなど、酒造りの真髄を体感できる宿となっている。
丹波の酒・食・芸術のすべてを一度に感じられる秋に
丹波焼の雅峰窯や丹文窯の器、綿貫宏介デザインの蔵オリジナルグッズなど、多彩なアイテムが揃い、お土産選びは迷ってしまうほど。泊まりがけの蔵人体験をして酒造りの知識を深めたり、お酒や発酵食で内側からの美を引き出したり、芸術に触れて感性を豊かにするなど、目的に応じてさまざまな楽しみ方ができる。京都や大阪から車で1時間半と、小旅行にもぴったりな場所なので、ぜひ秋の行楽地として候補に入れていただきたい。
ライター :堂前佳穂
石川県出身/日本酒イベントの企画・運営に携わったことをきっかけに、日本酒のおいしさに目覚める。好みの日本酒はガツンとくる超辛口タイプ。最近は、洋食と日本酒とのペアリングに興味あり。
関連記事はこちら
- [兵庫県/西山酒造場]新たな複合施設「鼓傳」誕生までの背景と地域への想いを女将の西山桃子さんに聞く!
-
♯兵庫
株式会社西山酒造場
- 創業
- 1849年(嘉永2年)
- 代表銘柄
- 小鼓
- 住所
- 兵庫県丹波市市島町中竹田1171Googlemapで開く
- TEL
- 0795-86-0331
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 年中無休(正月を除く)