【三重県/伊藤酒造】
「プライベートラボ」で酒造り?5代目蔵元伊藤旬さんが考える日本酒の取り組みを聞く
1847年、伊藤幸右衛門が農業の傍ら清酒製造を開始したことに端を発する[伊藤酒造]。代々受け継がれる技術を元にした手作業、少量の酒造り、そして今後の展望について5代目蔵元伊藤旬さんにインタビュー。
黒船来航のわずか6年前に創業した[伊藤酒造]。酒米、水、そして酵母の全てを三重県産に統一した正真正銘の地酒を現在も造り続ける。少量ながらも幅広いバリエーションを持つ商品群は海外からも評価されており、国際コンクールにて数々の受賞歴を誇る。Sake Wolrd NFTへの出品、そして今後の展望について取材した。
この方に話を聞きました
- 伊藤酒造株式会社 代表取締役社長 伊藤旬さん
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プロフィール5代目蔵元として日本酒造りからセールスまでを一貫して担当。確かな技術をベースに、日本酒の枠組みを広げる個性豊かな銘柄を生み出し続ける。アニメ鑑賞など様々な趣味を持つ。
INDEX
5代目蔵元杜氏の「パーソナルラボ」
1847年に創業された[伊藤酒造]。現在も多くの工程で、手作業を中心とした伝統的な酒造りを行っている。
「蔵も小さいので一つ一つ細かく作業している。なので酒造メーカーというより、私の『パーソナルラボ』といった感じですよ」こう話すのは、5代目であり蔵元杜氏である伊藤さん。蔵元杜氏である伊藤さんと奥様、そして娘の里華さんの3人体制で進められるという。
少人数での作業にも関わらず、[伊藤酒造]が製造する銘柄は実に幅広い。純米大吟醸、山廃、濃醇甘口、AWA酒、活性にごり、無濾過生原酒、熟成酒などなど、小規模かつ手作りの酒蔵とは思えない豊富なラインナップが揃っているのだ。
自由なチャレンジから生み出される「細女」
[伊藤酒造]の主力銘柄である「細女(うずめ)」は、日本神話に登場する芸能と笑いの女神「天細女之命(あまのうずめ)」に由来している。「4代目の時代、神社の方に命名していただいたことが銘柄名のきっかけです。それ以前は『日本華(にほんか)』という名称で展開していました」と伊藤さん。
現在「細女」銘柄には個性豊かな商品ラインナップが揃っているが、その理由について伊藤さんはこう話す。「2002年、南部杜氏から現在の蔵元杜氏に体制が変わりました。自分が製造責任者になったことで、成功も失敗も自分の責任にできる。海外でも日本酒を振る舞うようになり世界が広がった。そこで、自由なチャレンジを積極的に行おうと思ったんです」
そして現在、多様な価値観が広がっている状況を背景に、日本食だけではなく幅広い食事にもマッチする日本酒造りを行っているのだ。
Sake World NFTに登場する日本酒の紹介
現在、SakeWolrdNFTでは以下の銘柄がラインナップしている。
※2024年8月現在
細女 袋搾り 純米大吟醸(左より)
三重県産の山田錦のみで造られた、上品な旨味が感じられる一本。醪(もろみ)を酒袋に入れ、自重で酒粕と清酒に分ける「袋搾り」で造られた贅沢な純米大吟醸となっている。幅広いシチュエーションにマッチする味わいが魅力。
UZUME for Relaxation Level3 純米大吟醸
「UZUME 」は1〜5段階(1,4は現在欠番)に分かれた甘味レベルで展開される、貴腐ワインをイメージした濃醇甘口シリーズ。Relaxation Level3はイタリア・ミラノ酒品評会にてシルバーを2年連続受賞。マイナス50度と濃厚な甘みを持つため、青カビチーズなどとの相性は抜群だ。
雫生酒 大吟醸
醪(もろみ)を酒袋に入れ、自重で酒粕と清酒に分ける「袋搾り」で造られた贅沢な大吟醸酒。濾過、火入れをすることなくフレッシュな状態で出荷されるため、お米本来の旨味、コクが感じられる一本だ。
特別純米 山廃 豊穣の舞
2017年のIWCにて純米部門受賞酒。熱燗向きの山廃酒であり、濃厚な旨味が楽しめる力強い1本。すきやきなど牛肉と合わせると抜群の相性となるフルボディタイプとなる。蔵の中で一定の期間熟成させて出荷されるため、品薄になることも珍しくない人気銘柄だ。
UZUME SPARKLING 生2020
三重県唯一となるAWA酒協会認定酒を持つ酒蔵の限定生酒、スパークリング日本酒。2024年6月の「Kura Master」にてプラチナ受賞に加えてトップ銘柄にも選出された。スパークリングワインのように細かい発泡、クリアな味わいが楽しめる。
幸右衛門 長期低温熟成秘蔵酒 拾年
先に紹介した「細女 袋搾り 純米大吟醸」を、10年以上低温熟成させた秘蔵酒。低温環境で熟成させることで旨味や酸味といった味わいが溶け合い、バランスが良く調和している。2021年のIWCにてシルバー受賞。熟成古酒という商品特性上、数量限定品となる貴重な一本だ。
熟成することで旨味の数値が伸びる
伊藤さんの考える「旨い酒」には熟成というキーワードが詰まっている。伊藤さん自身は過去に製造した日本酒を少量ずつコレクションして貯めているという。蔵の低温庫にはかなりの年数分の日本酒が並んでおり、熟成することで変化する味わいを確認しているのだ。娘の里華さんは「酒粕も2年ほど保管すると、旨味の数値がすごく伸びるんですよ。非常にマイルドになるので、この酒粕で甘味噌を作るととても人気なんです。豆板醤などと混ぜると麻婆豆腐も作れます」と話す。
[伊藤酒造]では銘柄別に12種類に分けて、酒粕も管理されている。中でも「特別純米 山廃 豊穣の舞」の酒粕が濃厚で人気が高く、リピーターも多いそうだ。
酒造り体験を通じたブランド化
伊藤さんは「酒蔵を『人と人の縁を繋ぐもの』にしていきたい」と話す。
[伊藤酒造]として幅広いコンセプトを持ったお酒を提案しつつ、興味を持った人たちが集まり日本酒を造り、各自のブランドに繋げられればと考えているのだ。
「造りに携わった人たちそれぞれの銘柄でブランド化できればと思う。そのために蔵の環境と技術を提供したい」と伊藤さん。[伊藤酒造]では2002年から、個人を対象にした「酒造り体験会」を毎年10月〜12月に実施。三重県内の方はもちろん、全国各地から参加者が集まるという。造られたお酒は特別ラベルが貼られ年内に自宅へ送付される。この構想の実現を期待する人は少なくないだろう。
Sake Wolrd NFTに期待する事
「先日御社で開催されたイベント『Sake World Summit in KYOYO』がすごく良かったです。娘に勧めされて出展を決めたのですが、京都で初めてのイベント出展になりました。会場では初めて飲んだ!気に入った!と仰って頂いたお客様が多く、これからもSake World NFTを通じて新たな世界と繋がっていければ嬉しいです。」と伊藤さんは語る。
「ここ数年、Webを通じた取り組みを積極的に模索しており、NFTも活用できないかと検討していました。ただ、仮想通貨の概念と日本酒の販売を組み合わせることが難しいと思っていたんです。そんな時にSake World NFTを見つけ、社長(父)に勧めてみました」と娘の里華さんは語る。
Sake World NFTは日本円取引が可能であることから、やりたかったことができると考えたという。
伊藤さんは今後、酒造りとNFTを組み合わせた体験の提供を検討していると続ける。
「父のプライベートラボとしての酒造りのように、お酒を好きな方たちが自分で作ったお酒を個人ブランドとして流通できる形があれば嬉しいですよね」
そして、米作りから日本酒製造、流通までNFTを活用した仕組みが構築できればと期待を寄せた。
日本酒のジャンルを広げて遊ぶ
現在の状況を「第二、第三の酒造り人生だ」とにこやかに話す伊藤さん。一方チャレンジする幅が増えることで、どうしても消費者に伝えるべき情報量も増加するという。
「詳しいことは未定ですが、YouTubeなどを入口にしたオンラインサロンを開設しようと思っています。情報を伝えると同時に、『こういう人が作っているからいいよね』と思ってもらえるような流れを作りたい」日本酒というジャンルをいかに広げて、その中で遊ぶかということを重視していると続ける伊藤さん。
「文化、食生活が多様化する中、小回りのきいた提案をさまざまな角度から行えるのは、小さい蔵にしかできないと思う。そのためにも蔵単体ではなく地場産業などと多くの連携を生み出し、新しい価値を創造できるように仕掛けていきたいですね」
確かな酒造技術、味わいをベースにインターネット戦略を積極的に押し進める[伊藤酒造]。伊藤さんの「プライベートラボ」での活動は今後もますます発展していきそうだ。
ライター :新井勇貴
滋賀県出身/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師・SAKE DIPLOMA・SAKE検定講師
酒屋、食品メーカー勤務を経てフリーライターに転身。好みの日本酒は米の旨味が味わえるふくよかなタイプ。趣味は飲み歩き、料理、旅行など
伊藤酒造株式会社
- 創業
- 引化4年(1847)
- 代表銘柄
- 鈿女(うずめ)
- 住所
- 〒512-1211 三重県四日市市桜町110番地 Googlemapで開く
- TEL
- 059-326-2020
- 営業時間
- 10:00~17:00
- 定休日
- 火曜・水曜休