杜氏直伝の利き酒テクニックとは?朝日酒造「久保田」シリーズ4種類を飲み比べてみた!
新潟県長岡市に蔵を構える朝日酒造の代表銘柄「久保田」。17種類ある久保田の中から4種類を選りすぐり、味や風味の違いを杜氏とともに飲み比べる利き酒イベントに参加してきた様子をレポート!
新潟県長岡市に蔵を構える酒蔵、朝日酒造。中でも創業時の屋号「久保田屋」を冠した朝日酒造を象徴する銘柄「久保田」シリーズは来年2025年に40周年を迎え、全国的にも高い人気を誇る。そんななか2024年7月25日には久保田シリーズの飲み比べや杜氏によるスペシャルトークショーを含む利き酒イベント「『久保田』スペシャル試飲会 一夜限り!杜氏と楽しむ真夏の利き酒」が行われた。
朝日酒造が選りすぐった4種類の久保田を飲み比べ
現在まで17種類のラインナップを展開している久保田シリーズ。この日の利き酒イベントでは、朝日酒造が選りすぐった4種類の久保田を飲み比べすることができた。
いつもの食卓を少し特別にする「食事と楽しむ吟醸酒」である「久保田 千寿」をはじめ、“深みのある味わいと香りの調和”を追求した純米大吟醸酒「久保田 萬寿」、朝日酒造の技を集結させた特別な一本「久保田 萬寿 自社酵母仕込」、そして加熱殺菌を一切せず、若々しさ・爽やかさを感じる大吟醸の生酒「久保田 翠寿」の4種類だ。
朝日酒造の関連会社で酒粕を使った食材やスイーツを展開している朝日商事の協力のもと、久保田と合う肴も。味付けホタテ、酒粕クリームチーズの味噌漬け、紅生姜と枝豆を練り込んだ海老しんじょ、マグロのスモークがラインナップ。
▲漫才師「にほんしゅ」の二人
そして特別ゲストには朝日酒造の杜氏である朝日酒造株式会社生産本部製造部醸造2課松籟蔵 杜氏の大橋良策さんが登壇。ともに利き酒師の資格を持つ漫才師「にほんしゅ」のお二人とともに、利き酒のポイントや久保田の魅力などトークを繰り広げた。
久保田それぞれの美味しさの違いは実際に味わってみるのが一番だが、その前にまずは大橋さんが杜氏ならではの視点で解説。
▲朝日酒造株式会社生産本部製造部醸造2課松籟蔵 杜氏の大橋良策さん(真ん中)
大橋さん「定番の『千寿』は淡麗辛口スッキリでキレがよく、熟したバナナのような軽い香りが楽しめる逸品。最高峰銘柄の『萬寿』は麹米に精米歩合50%の五百万石を、掛米に精米歩合33%の新潟県産米を使用しています。旨味も香りもほどほど、きつくもなく甘くもなくスッキリしながら華やかで絶妙な味わいが楽しめます。同じく「萬寿」でも一味違う『自社酵母仕込』は品評会に匹敵するほどこだわったお酒で香りと味に幅がある。「翠寿」はシリーズ唯一の生酒で絞ってから詰めるまで一切加熱していません。シャキーンとしたキレがありつつも、香りはしっかりあり、フレッシュな味わいと深みや幅を感じられます」
杜氏が普段からやっている利き酒テクニックを伝授
普段から久保田の熟成具合や品質を繊細にチェックしている杜氏の大橋さんが、実際に実践している利き酒テクニックも紹介してくれた。まず大事なことは堅苦しくなくリラックスして行うこと。飲み比べる順番は気にする必要がなく、好きな順番で飲んでOKとのこと。
大橋さん「まずは目で白濁しているか、立ち上がってくる香りや色を確認します。次に香りを嗅いでだいたい6ccから10cc程度を口に含み、ワインのテイスティングのように舌で転がしたり空気を含ませたりして香りの状態をチェック。そして飲んだ後の空気を吐き出した余韻や酸味の残りを見ます。そこでまた味と香りを確認します」
そして最も大事なことは常に同じ状態で飲むことだそう。それは飲むときの姿勢やポーズなど自分の利き酒するときのスタイルを統一すること。「自分のスタイルが変わると繊細な部分を見なきゃいけないので温度や室温などを合わせないといけない」と語ってくれた。
実際に「千寿」を飲んでみると、水のような飲みやすさに驚かされる。逆に「万寿」は香りも味もインパクトがあり、「日本酒を飲んだ!」という飲みごたえを感じた。また「自社酵母」はかなり透き通った印象で軽やかな飲み口。とても澄み切った味わいで上品だ。今回初めて飲んだ「翠寿」は軽さと華やかさのあとにシャキっとしたキレが追いかけてきて絶妙なバランス感。こうして飲み比べてみると4種類とも全く違う味わいと香りで、終始感動だった。
普段は飲めない原酒を味わえる「貯蔵原酒100本のきき酒会」も開催
朝日酒造は2024年8月31日(土)と9月1日(日)に朝日酒造本社にて、「貯蔵原酒100本のきき酒会」を行う。貯蔵しているタンクを1本1本開けて酒質や熟成の進み具合をきき酒で蔵人が評価する「初呑み切り」を、一般のお客さんに行ってもらうイベントだ。普段は蔵人全員が行う「初呑み切り」は、途中経過の状態をチェックして、その後の管理や出荷時期を決める大切な習わし。大橋さんも「原酒ならではの味の深み、力強さを感じていただきたいと思っています」と意気込んでいた。
また朝日酒造としてのこだわりを「日常の食卓を彩り、料理を引き立て、2杯目、3杯目と杯を重ねることで笑顔が増えていくような酒を造ること」と語った大橋さん。久保田シリーズの人気の理由を聞いてみると、「自然豊かな新潟県長岡市越路地域で育まれた清らかな水、そして地域の契約栽培農家と協力しながら、酒造りに最適な米を原料にしているなど、品質にこだわり抜いた酒造りをしている信頼感だと思います。来年で発売してから40年を迎えますが、変わりゆく時代とお客様の声に耳を傾け、進化する美味しさに常にチャレンジしている点にもご注目いただいていると思います」とその自信を語ってくれた。
杜氏が考える朝日酒造のこだわりは
「様々な生活スタイルの変化や、価値観が多様化している時代においてほっと一息つき、安らげるような日本酒の存在を目指しています。美味しさの感じ方はそれぞれですが、久保田には17種類あります。ご自身の“推し久保田”をぜひ見つけていただき、ご家族やご友人と一緒に笑顔溢れるシーンで味わっていただきたいと思います」と、朝日酒造としての目指していく姿も教えてくれた。
これまで「手軽なものから高級なものまで幅広く楽しめるお酒」というイメージだけを抱いていた久保田。お店で飲むことはたびたびあったが、種類ごとの味や香りの違いをハッキリ感じる機会はなかなかなかった。しかし今回飲み比べたことで、久保田のことがもっと好きになり、そして利き酒の楽しさも再確認。来年40周年を迎える久保田が、ここまでたくさんの人に愛されている理由もよくわかった試飲会だった。
ライター:エタノール純子
さまざまなお酒を飲み歩き、30歳を過ぎて日本酒に行きつく
最近はスパークリング日本酒にハマっている