酒蔵に聞く

【多胡本家酒造場】
岡山県北の城下町・津山で愛される日本酒「加茂五葉」が心解きほぐされる理由とは?

岡山県北部に位置する津山市の酒蔵[多胡本家酒造場]。酒造りの想いや取り組みを取締役の多胡真佐子さんに聞く。

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1.多胡本家酒造場について

岡山県北部に位置する津山市で江戸寛文年間(1661〜1673)に創業した多胡本家酒造場。地元で「加茂五葉」は愛され続けているお酒だ。1603年に森蘭丸の弟である森忠政が拓いた町は、趣のある城下町として知られており、今でも城址は桜の名所として隣県からの花見客、そして最近ではB級グルメ「津山ホルモンうどん」が人気となったことで観光客も増えた。

酒造りに使われる水は中国山地の秀峰、那岐山麓から流れる加茂川の伏流水。おかやま清流37にも選ばれた硬度70の酒造りに適した名水。米は近隣の契約農家で丹念に育てられた日本晴と、品質の高い兵庫県産特等山田錦を主な使用している。江戸時代には高瀬舟の終着点であり、因幡街道が交差する陸と河川交通の要衝として栄えた多胡本家酒造場のある旧・楢村は、清い水、良い米、集う人に恵まれた酒造りには理想的な環境であったことが伺える。

代表銘柄「加茂五葉(かもいつは)」は、蔵の隣を流れる加茂川と五葉松にちなんだ名。全国新酒鑑評会で幾度となく金賞を受賞してきた銘酒。まろやかな旨口、香りふくよかにして淡麗。ふだんの食事に合わせやすい食中酒として長く愛されている。

蔵の裏には、船着場の印であった石灯籠が今でも残っている。

2.手間を惜しまず仕込み、発酵のゆらぎを楽しむのもまた豊かさ

「吟醸酒は、洗米、酒母・麹づくり、放冷作業などの仕込みまで、機械に頼らずほぼ全ての工程を手作業により醸造しています。お米は同じ種類、等級でも毎年その特徴は少しずつ違います。その特徴を掴んで丁寧に対応しながら仕込み、発酵を見守っていくのはとても大変ですが、神秘的です。」と話してくださったのは取締役の多胡真佐子さん。

「同じ酒でも均一な味にはならず少しずつ変わるので、年によって猛暑だったり冷夏だったり同じ季節でも気候が違うように、“その年”の出来を楽しんでもらいたい。それが豊かな飲み方だと思っています。また、日本酒は繊細なお酒のため、飲むタイミング、貯蔵状態で味が変化するのも面白いところ。自然の豊かさを感じ、季節とともに“今”飲んで欲しいお酒を提案していきたいと思っています」

真佐子さんは、京都の同志社大学を卒業された後、そのまま京都で美術館や芸術祭関係のお仕事をされていたそう。聞くと、今でもお住まいは京都「?」とのこと。それには深い理由があった。

3. 苦難を乗り越えて、第二章へ

「兄が蔵を継ぐために酒造りの勉強を始めてすぐでした。社長である父が急逝したんです。2018年のことでした。そしてそのままコロナ禍へ突入し、人類が経験したことのない未曾有の事態に、船頭を失った船に成す術はありませんでした」。

「そして2020年に会社をたたむという苦渋の決断をしましたが、その事を聞きつけた地元津山の企業の方々が助けてくださったんです。街が愛して止まない酒を失ってはいけない、酒造りは街の文化でもあるからと。簡単に言葉に表現できないほど有り難かったです。復活すると決まってからもたくさんの愛飲家の方や関係のある方々に温かい応援の言葉を頂いて、これらの言葉を胸に刻んで頑張ろうと、急遽仕事を辞めて帰る事にしました」。

「有難いことに、杜氏はじめ主要な蔵人はもどってきてくれたので、これまでの酒づくりはできています。でも、維持ではダメで、もっと向上するためには、何ができるか?常に皆で知恵を出し合いながら、できることから一歩ずつ取り組んでいます。」と真佐子さん。

昔は20名ほどおられた蔵人を含むスタッフは、今は5名。スモール経営で、いかに効率よく酒造りできるかまだまだ試行錯誤中とのこと。真佐子さんが戻ってこられて「季節を楽しむ定期便」も始められたそう。ラインナップを増やすより、その時しか楽しめないものを大切にしていきたいとの思いがあふれている。5月中旬に酒蔵に併設するビール醸造場で開催するビールまつりでは、醸造する津山ビールのほかに夏酒などの季節の酒を楽しめるそうだ。

[多胡本家酒造場の季節の酒]
https://tagobrewery.co.jp/blogs/information/tagged/季節の酒/

長年、芸術関係のお仕事をされてきた真佐子さんだからこそ、感じ得る世界がある。
「そもそも人にとって芸術が必要な理由と、お酒が必要な理由は同じだと思うんです。ロマンのような話に聞こえてしまうかもしれませんが、お酒も芸術も“心をときほぐすもの”なんです。心の豊かさが、生きる糧です」。

真佐子さんは、平日を蔵人として働き、週末は京都に帰るという2拠点生活を続けている。
豊かな自然と清流に恵まれた酒造りをしてきた多胡本家酒造場。約400年の歴史を経て第二章の幕があがったばかりである。

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多胡本家酒造場

多胡本家酒造場

創業
江戸寛文年間(1661〜1673)
代表銘柄
加茂五葉
住所
岡山県津山市楢69Googlemapで開く
TEL
0868-29-1111
HP
https://tagobrewery.co.jp
営業時間
9:00~17:00
定休日
日曜日、祝日(土曜休業日の場合有り)

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