熟成酒

めくるめく熟成酒・古酒の世界へ!vol. 1 イタリアンとのペアリングディナーを実食

 刻SAKE協会主催のイベント第2弾「世界の食と熟成酒ペアリングディナー・イタリアン奥田シェフ×出羽桜×島崎酒造」が2023年10月27日に開催。熟成酒に目がない、Sake World編集部がイタリアンと熟成酒を実食レビューする。

刻SAKE協会イベント
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「世界の食と熟成酒ペアリングディナー・イタリアン奥田シェフ×出羽桜×島崎酒造」

2023年10月27日(金)東京・銀座のイタリアン「サンダンデロ」で開催されたのは、刻SAKE協会主催の日本酒の熟成酒・古酒とイタリアンをペアリングするディナー。
吟醸酒の熟成を日本でいち早く開始した出羽桜(山形県・出羽桜酒造)と、洞窟熟成という特殊な熟成方法を得意とする東力士(栃木県・島崎酒造)の日本酒に合わせるのは、地産地消の第一人者として数々のプロデュース実績のある奥田シェフの理論と感性を活かすイタリアンだ。

ペアリング(前半)口中、五感を広く使う

山形県出身の奥田シェフだけに山形の郷土食材を駆使し、熟成酒・古酒とのマッチングで新しい味わいの世界が広げてくれる。「お料理が口の中に3分の1ほどある状態で日本酒を飲んでいただくと、ソースの役割になり、渾然一体となる。また食べ終わってから飲んでいただくと洗い流す役割にもなる」と奥田シェフ。

刻SAKE協会イベント

まず登場した「ホウボウと冷製カッペリーニ 芽ネギとキャビアを添えて」「山形県産のだだちゃ豆とズワイガニ」の2皿に合わせるのは、「出羽桜 大吟醸 露堂々(ロドウドウ2011BY)」。
出羽桜酒造の現在の杜氏佐藤眞一氏が2011年に初めて醸した吟醸酒をマイナス5度の低温で熟成させたキレイな熟成酒は、繊細な料理の伴奏を務める。
口の中で温度が高まると少し甘みが増し、そこを狙ってキャビアの塩味がティーアップ。
塩風が口の中をかすめた瞬間にホウボウの甘みがじんわりと染み渡り、思わず「ナイスショット」と心の中で呟いた。


「だだちゃ豆」と「ズワイガニ」は一見、何の関連性も無いかのように思われる両者だが、実は同じ風味を持ち合わせ、2者を食べ合わせることで各々の美味しさがさらに色濃く舌の上に映る。そこに熟成酒が登場し、うま味の輪唱が始まる。
カニと豆は「手を使って食べてください」とシェフからのもうひとつのサプライズ。
手で食物のテクスチャーを直接感じることで五感を刺激し知覚の範囲を広げ好奇心をくすぐるのはさすがだ。

数々の時を重ねる酒群、切り離せない酒と熟成の歴史

刻SAKE協会イベント

ところで、日本酒の熟成酒・古酒と聞くと、どんな印象を持つだろうか?
お酒好きの方なら、泡盛は寝かせるほど味のまるみが増して美味しくなり、古酒(クース)と呼ばれる高価なお酒になるというのを聞いたことがあるかもしれない。
もちろん、世界的に見ればそれだけではなく、日本酒と同じ醸造酒の中でもワイン、紹興酒、シェリー酒、マディラ、ポートetc… 時を重ねるほど味も良くなり、連動して価値も高くなるものが多く存在する。
蒸留酒でもウイスキー、ブランデー、カルバドスetc…などお酒と熟成の歴史は切っても切り離せない。

日本酒は時を重ねるとどうなるのか?

実は、日本酒も、熟成を経て美味しくなり、価値が高まる文化がある。
特に江戸から明治期の様々な文献にも記述が残っている。今でも酒蔵さんの中には、出来立てのフレッシュな状態ではなく、1年、3年と少し寝かせてまろみを増してから瓶詰め出荷する商品も存在する。
なぜ、その文化が表舞台から隠れ、途絶えそうになってしまったのか?その理由は今回さておき、熟成酒・古酒の魅力をわかりやすく再定義し、現代のグルメ思考に寄り沿う形を模索し、取り組みを始めた団体がある。それが刻SAKE協会だ。

刻SAKE協会イベント

刻SAKE協会とは

刻SAKE協会

古酒や熟成酒に日本酒の未来を描く7つの酒蔵が集まり2018年8月に設立された団体(2023年11月現在は8蔵)で、熟成文化の振興、そして世界に通じる基準づくりをミッションとして掲げている。
日本酒の熟成といっても、様々なタイプが存在し、異なる環境で貯蔵を行うことによって多様な熟成価値が生まれている。わかりやすく定義することで、一定の品質を担保し、またブランド力を強化する試みだ。

刻SAKE協会

2020年11月に東京・帝国ホテルで開かれた同協会の設立記者会見で発表したプレミアム秘蔵酒8本セット202万円は完売。山本博氏(弁護士、日本労働弁護団名誉会長)、輿水精一氏(サントリースピリッツ名誉チーフブレンダー)、田崎真也氏(日本ソムリエ協会会長)の、洋酒業界の有力3氏が顧問を務める事でも話題に。

例えば10℃以下の温度帯で貯蔵したものを「熟成酒」、11℃以上の温度帯で貯蔵したものを「古酒」と区分するなど、消費者への説明可能性を果たすため、また全世界への販売戦略に向けて定義化している。
熟成酒・古酒の世界では、低温度帯での熟成と、常温での熟成ではタイプの異なる味わいになることが分かっているが、明確な温度帯について定義は今までなかった。
ワインのA.O.C.やD.O.C.,D.O.C.G.からもわかるように、世界共通でブランド力を有する酒類には、必ずと言っていいほど厳格な定義(定義付け機関)が存在している。
そうでなければ、やがて不誠実な商品の市場混入によって消費者は混乱し、敬遠や衰退を招く。刻SAKE協会では、熟成酒・古酒の中でも、厳格な基準を満たしたものだけを「刻SAKE」と認定している。もちろん認定されなければ熟成酒・古酒では無いという排他的な規制ではなく、一定の基準により安心感を生み、市場理解を深めるための基準だ。審査は、協会に加盟し申請のあったお酒から、審査会にて認定されるという。

[刻SAKE協会]熟成酒の認定について(刻SAKE協会資料より抜粋)
下記の厳格な規定を設け、クリアした酒を刻SAKEの認定とします。

  1. 予め定めた場所で10年以上熟成していて評議会審査(審査会)に合格したもの。※1
  2. 原材料、製造工程、貯蔵環境(熟成温度を含む)の履歴を証明できること。※2
  3. 国産成形米を100%使用していること。※3
  4. 火入れ殺菌をしていること。
  5. ブレンドをする場合、最低熟成年数が10年以上の物で構成されていること。
  6. ビンテージ表記は米の収穫年度を示すこと。(持越し米は使用不可・ブレンド酒は最も若い酒のデータを反映する)
  7. 熟成年数で表記する場合は上槽日から起算する事。(持越し米使用可・ブレンド酒は最も若い酒のデータを反映する)
  8. 保存環境に於ける紫外線対応を行うこと。
    ※1 熟成はそのタイプや環境によって異なる時間を要すことから10年を一つの目的を持ちえた熟成期間と判断し、今後の取り組み熟成酒は 途中5年目に予備審査を受けている事を条件とする。※2 商品の価値を求める行いではあるが、未来に向けてのデータ蓄積にもあたる内容からオープンソースでは無いにしろログを押さえ後世に 繋いでゆくものとする。※3 農産物検査法等の等級、米の磨き、品種に捉われず、従来行ってきた新酒で美味しいお酒を熟成させることにより奥行きや味幅を与え 価値を見出してきた行いを継承しつつも、新たなる熟成の可能性と発見を重んじた行いとする為。

ペアリング(後半)

さて、ペアリングはまだまだ続く。「出羽桜 純米大吟醸 雪女神(R4BY)」と新酒も登場。
この銘柄が登場するのには使用してる酒米の「雪女神」に秘密が。
2015年に山形県で育成された酒米の一つで、出羽桜の仲野社長曰く「熟成に適しているお米で、寝かせる事で味に幅が出る」。
合わせる料理にもさまざまなトリックが隠されており、ライムやエディブルフラワーで日本酒の苦味を際立たせたり、クルミオイルで甘みを増したりと、縦横無尽で変幻自在。
口の中のキャンパスには新しい世界観が広がっていく。

[刻SAKE協会]熟成酒の認定について(刻SAKE協会資料より抜粋) 下記の厳格な規定を設け、クリアした酒を刻SAKEの認定とします。 1. 予め定めた場所で10年以上熟成していて評議会審査(審査会)に合格したもの。※1 2. 原材料、製造工程、貯蔵環境(熟成温度を含む)の履歴を証明できること。※2 3. 国産成形米を100%使用していること。※3 4. 火入れ殺菌をしていること。 5. ブレンドをする場合、最低熟成年数が10年以上の物で構成されていること。 6. ビンテージ表記は米の収穫年度を示すこと。(持越し米は使用不可・ブレンド酒は最も若い酒のデータを反映する) 7. 熟成年数で表記する場合は上槽日から起算する事。(持越し米使用可・ブレンド酒は最も若い酒のデータを反映する) 8. 保存環境に於ける紫外線対応を行うこと。 ※1熟成はそのタイプや環境によって異なる時間を要すことから10年を一つの目的を持ちえた熟成期間と判断し、今後の取り組み熟成酒は 途中5年目に予備審査を受けている事を条件とする。 ※2商品の価値を求める行いではあるが、未来に向けてのデータ蓄積にもあたる内容からオープンソースでは無いにしろログを押さえ後世に 繋いでゆくものとする。 ※3農産物検査法等の等級、米の磨き、品種に捉われず、従来行ってきた新酒で美味しいお酒を熟成させることにより奥行きや味幅を与え 価値を見出してきた行いを継承しつつも、新たなる熟成の可能性と発見を重んじた行いとする為。 認定の方法

洞窟熟成で有名な島崎酒造からは「洞窟低温熟成酒 熟露枯(うろこ)山廃仕込み純米酒」が登場。3年熟成のうち、常温で150日貯蔵した後、瓶詰し後洞窟で低温熟成という変化に富む経歴を持つ銘柄だが、その味わいは気品のある甘さを感じる。
ヨーロッパへの輸出が好調とのことで、まさに熟成酒は洋食の重厚多様な味わいにマッチしていることが伺える。


▲濃厚な海老のスープに、ライムとクルミ


▲牡蠣と白菜のさらっと煮


▲デザートは2種。写真は二の甘味。コーヒー風味のパンナコッタ。熟成酒とよくあう。

刻SAKE協会のめざす先

協会常務理事の上野伸弘氏からは「日本酒は、“開封後はお早めに”と書かれているけれど、賞味期限が書かれていない不思議な趣向品。新酒の魅力はそのまま飲んで受け止めれば最高であるが故に“与えられる喜び”。熟成酒・古酒の魅力は“探る楽しみ”です。ひと口目、ふた口目と変わっていく奥深い味わいを体験いただきたい」「熟成酒・古酒が持つ懐の深さは、とても広く、スパイス旺盛な海外の料理を受け止める気質があるので、是非、世界の料理に合わせていきたい」。出羽桜の仲野社長からは「これからは微生物(発酵)だけに頼るのではなく、人知によるプラスアルファの働きにも着目してほしい」など、趣向品としての日本酒にはまだまだ知らない世界、世界戦略に向けた“伸び代”を感じさせる会となった。

▲左から、東力士醸造元 島崎酒造 島崎健一社長、 YAMAGATA San-Dan-Delo奥田政行オーナーシェフ、出羽桜醸造元 出羽桜醸造元 仲野益美社長

さらに刻SAKE協会の言葉を借りると−。「新酒の弾けるような若さも魅力的ですが、熟成によって角が取れ厚みと優しさが増した酒は、味わい深い芳醇な香りと永い余韻、懐の深い個性溢れる魅力を静かに放っています」。

今までの日本酒とは、ひと味もふた味も異なった味のバリエーションが生まれる熟成酒・古酒の世界。今後は広島の酒類総合研究所とともに化学的にもそのメカニズムについて解明をすすめるとのこと。めくるめく熟成酒・古酒の世界の入り口が、今また開こうとしている。

●一般社団法人 刻(とき)SAKE協会 https://tokisake.or.jp

San Dan Delo(サンダンデロ)
〒104-0061 東京都中央区銀座一丁目5-10
ギンザファーストファイブビル 山形県アンテナショップ「おいしい山形プラザ」2階
Tel.03-5250-1755
https://sandandelo.theshop.jp

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