酒屋に聞く

[Umami Mart/オークランド]が提案する、米国流・日本酒の楽しみ方とは?

サンフランシスコ対岸の街・オークランドにある[Umami Mart]は、日本酒や雑貨を扱う人気ショップ。約200名が参加する日本酒のメンバーシップ“Sake Gumi”を通じ、現地に日本酒文化を根付かせている。創業者のYoko Kumanoさんに、その歩みと想いを聞いた。

  • この記事をシェアする

オークランドの[Umami Mart(ウマミ・マート)]は、日本酒を中心に焼酎や酒器、雑貨など高品質な日本製品を扱うショップ。常時多数の銘柄の日本酒を揃え、約200名の会員が所属する日本酒のメンバーシップ“Sake Gumi(サケ・グミ)”も運営している。日本酒の魅力を現地で広めるユニークな取り組みを行う創業者のYoko Kumanoさんに、立ち上げの背景やSake Gumiの活動内容、現地での日本酒の受け入れられ方について話を聞いた。

この方に話を聞きました

Umami Mart Co-Founder Yoko Kumanoさん
プロフィール
アメリカの大学を卒業後、東京での会社員生活を経て、2012年にUmami Martの実店舗を立ち上げる。唎酒師、WEST Level3取得。

始まりは地元の友人と立ち上げたブログ

アメリカの大学を卒業後、東京で広告関係の仕事をしていたというYokoさん。2007年に、地元の友人のKayoko Akaboriさんと[Umami Mart]の前身となる同名のブログを立ち上げた。当時Yokoさんが暮らしていた東京とKayokoさんが働いていたニューヨーク、それぞれの場所の食について発信する内容だった。二人のブログは人気を博し、多くの人に読まれるようになった。

Umami Martを共同で創業したYoko Kumanoさん(右)とKayoko Akabori(左)さん(写真提供:Umami Mart)

2010年、二人はカリフォルニア州に引っ越したのを機に、読者の勧めもありブログにオンラインストアの機能を追加。そこで日本から輸入したカクテルウェアやテーブルウェア、お茶などの販売を始めた。

「初めの1年間は全く注文がなかったのですが次第に増え、自宅が配送用の荷物や資材で一杯になってしまいました。そこで実店舗を構えようと考え、オークランド市が募集していたプロジェクトに採択された2012年、自分達の店舗をオープンしました」

「店舗ではオンラインストア同様、カクテルウェアを中心に販売していたため当初はお客さんのほとんどがバーテンダーでした。お客さんからの『お酒も買いたい』『試飲ができる場所が欲しい』という要望に応じて日本酒や焼酎、ビールの販売を始め、テイスティングができるバースペースも作るなど少しずつ事業を拡大させていきました」

ブログから店舗へと拠点が移っても、読者、そして消費者の意見に耳を傾ける真摯な姿勢を貫き続け、現在は多くの人が訪れる人気店へと成長した。

ユニークな日本酒メンバーシップ“Sake Gumi”

[Umami Mart]では常時、約200本の日本酒を取り扱い、季節ごとに入れ替えている。
「5年程前からアメリカでも非常に多くの日本酒が手に入るようになりました。繊細な大吟醸や濃醇な生酛など、様々な味わいの商品を揃える他、季節商品や限定品も扱っています。リーズナブルなものから高級酒まで、幅広い価格帯を用意することも心掛けています」

商品を選ぶ基準についての質問には「自分達が好きかどうか」だと答える。
「アメリカ人の多くは、まだ日本酒の味わいの違いを知りません。そのような状況では、自分やスタッフが愛を持って説明できる日本酒でないと誰も買ってくれないのです」

また、約200名の会員が所属する日本酒のメンバーシップ“Sake Gumi”では「生酛」「無濾過」「○○県」など、毎回設定したテーマに合わせて月に2本ずつボトルを選び、会員向けに送っているという。
「『説明すること』は日本酒を楽しんでもらう上で大きな要素になると思っています。消費者は味だけではなく、造り手と『繋がっている』感覚を大事にするからです。そのため、毎月ボトルに応じたテーマで酒蔵や輸入者にインタビューし、発信しています。料理と共に楽しんでもらえるよう、テイスティングノートやペアリングの提案も一緒に伝えています」とYokoさん。

初めて取り扱う銘柄は、まずはSake Gumi会員に試してもらい、反応を見て店舗に置くか決めるという。言わば新しい銘柄の「デビュー戦」がSake Gumiのコミュニティなのだ。

日本酒とチーズのペアリングイベントの様子。バースペースではSake Gumi会員向けのイベントも多数開催している。(写真提供:Umami Mart)

アメリカ人と日本酒の今

Yokoさんは宝酒造USAのテイスティングルームで働いた経験を持ち、現在は[Umami Mart]の店頭で日々、消費者の反応に接している。アメリカで日本酒はどのような人に飲まれているのか、という質問には「①ワイン愛好家②ナチュラルワイン愛好家③日本食愛好家の3タイプがいます」と答えが返ってきた。

「まず、従来のワイン愛好家は洗練された味覚を持ち、常に新しい経験を求めています。利き酒に参加するにしろお酒の造り手について詳しく知るにしろ、彼らはお酒の風味とその背後にあるストーリーに興味を持ちます」

「次に新世代のナチュラルワイン愛好家ですが、透明性が高くナチュラルなライフスタイルを好む人達です。商品が出来上がるまでのプロセスに関心が高く『クリーン』『ヴィーガン』『グルテンフリー』といった要素を求めており、これらの多くに日本酒は当てはまります。個人的に、日本酒はワインに比べてクリーンだと感じます。例えば特定名称酒は米、米麹、水、醸造アルコール以外を使うことはできませんが、ワインにその種の縛りはないからです」

「最後に、日本食愛好家は寿司やラーメンが好きで日本に対して良いイメージを持っています。店では『寿司と合わせる日本酒を選んでほしい』という人が8割、ラーメンが1割、ピザやステーキが残り1割といった体感です」

年に数回訪れるという常連客の購入品。日本酒は「スパイシーな料理やステーキと一緒に飲んでいる」そう。

また、アメリカで好まれる味わいについては「単体で飲むか、食事と合わせるかによっても変わるのですが」と前置きしてこう話す。
「単体で飲む場合は大吟醸や吟醸など香り高いものが好まれる一方、食事の際は酸度が高いお酒を合わせる人が多いです。日本と同じくアメリカでも、甘味と酸味が高いお酒がトレンドになっています」

他に、アメリカ市場では「地域との繋がり」が非常に重視されていると感じるそう。
「皆ホームタウンに誇りを持っているので、『地元の酒だから買う』という人は多いです。例えば、これまで日本酒を飲んだことがない人でも『(地元の)オークランドで造っているお酒』と紹介すると買っていきます。地域との繋がりは住んでいる場所以外でも感じられ、『日本の○○地域に行ったので、その地域のお酒が欲しい』というお客さんもいます」

世界中の人に、ガイドとなる一冊を

2022年に創業10周年を迎えた[Umami Mart]。1時間程の滞在の間に次々にお客さんが訪れ、中には「自宅用」として10本程日本酒を購入していく人も。[Umami Mart]の存在が、日本酒を食中酒の選択肢の一つとして、人々の生活に浸透させていることがよく分かる。

最後に、これから挑戦したいことをYokoさんに尋ねた。

「今、Kayokoと二人で日本酒についての本を執筆しており、来春に出版する予定です。『Everyday Sake』というタイトルで、選び方や提供方法など日本酒を楽しむためのガイドとなる、実践的な内容にしようと思っています。まだ多くのアメリカ人が日本酒についてよく知りません。この本がアメリカ人はもちろん、世界中の人にとって、日本酒に対する様々な視点を提供するきっかけになればと思っています。いつか日本語に翻訳して出版することが私の夢です」

ひとつのブログから始まったYokoさんの情熱はオンラインストアと店舗を経て、本として形になろうとしている。[Umami Mart]がオークランドの街で日本酒文化を根付かせたように、今度はその本が世界中の人に日本酒の魅力を伝えるきっかけとなるはずだ。


ライター:卜部奏音
新潟県在住/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師
政府系機関で日本酒を含む食品の輸出支援に携わり、現在はフリーライターとして活動しています。甘味・酸味がはっきりしたタイプや副原料を使ったクラフトサケが好きです。https://www.foriio.com/k-urabe

Umami Mart

Umami Mart

住所
4027 Broadway Oakland, CA 94611Googlemapで開く
TEL
(510) 250-9559
HP
https://umamimart.com/
営業時間
火:11:00~18:00、水~日:11:00~19:00
定休日

特集記事

1 10
FEATURE
Discover Sake

日本酒を探す

注目の記事