【豆知識】寒造り(かんづくり)とは?いよいよ到来する新酒の季節、日本酒の寒造りについて知りたい!
冬から初春にかけて日本酒を醸造することを「寒造り」といいます。今では一般的な寒造りですが、江戸初期まではそうではなかったとか。気になる寒造りについて、唎酒師の藤田えり子さんが解説します。
昔は一年中酒造りをしていた?
一般的な酒蔵では、12月頃から待ちに待った新酒が登場します。木枯らしが吹き始める頃に、今年の酒造りが始まりますが、「寒造り」といって冬から初春にかけて気温の低い時期に行う蔵がほとんどです。低温で長期熟成させる醸造条件には冬の寒さがぴったりという理由ですが、昔は一年を通して酒造りをしていたと聞けば、意外に思う人が多いかもしれません。現代でも空調管理した低温のもとで四季醸造を行う酒蔵はあるものの、そんな設備のない時代のこと、いったいどうしていたのでしょうか。
「寒造り以外禁止」の御触書(ふれがき)
江戸時代初期まで、日本酒は9月頃に造る新酒(前年の古米を使用)以降、間酒、寒前酒、寒酒、春酒と、夏場を除く通年仕込まれていました。そのうち晩秋の寒前酒、新米を使用する寒酒の時期が寒造りに該当します。まだ暑い頃に造られる酒は、発酵のしすぎを抑える苦労があったようですが、奈良県で研究が進められている「菩提酛」はこの時期に使用されていたという記述もあります。
そんななか、江戸幕府は寛文7(1667)年以降数回にわたって、9月頃からの新酒造りを禁止する御触書を公布します。これは米の使用を制限し、米価の安定を図る目的がありました。これをきっかけに冬だけ仕込む寒造りへと、徐々に移行していったと考えられています。
寒造りから生まれた杜氏制度
寒造りにはいくつもの利点がありました。発酵を管理しやすい低温のもとで衛生的に上質の酒造りができること。また、冬の農閑期に農村からの出稼ぎで労働力を確保できることもそのひとつです。その頃、最も進んだ醸造技術を持っていた伊丹や灘の酒蔵では、江戸の町からの大量注文に応えるため、たくさんの出稼ぎを受け入れていました。それらの熟練の蔵人の中から、地元や地方から招かれて酒造りの技術指導を行う者が現れ、のちの杜氏制度が生まれる元となったのです。
冬は待ちに待った新酒の季節!
寒造りによる今年の新酒もそろそろお目見え。しぼりたての生酒をはじめとする新酒のフレッシュな味わいは、この季節ならではのお楽しみです。寒さで凍えるような蔵で酒造りに励む杜氏や蔵人の方々に感謝しながら、今年の新酒を楽しみましょう!
ライター・唎酒師 藤田えり子
大阪の日本酒専門店に世界を広げていただき、さまざまな日本酒や酒蔵に出合う。好きな日本酒は秋鹿、王祿ほか
お酒以外の趣味は鉱物集めとアゲハ蝶飼育。