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宇都宮酒造(愛媛県) | 愛媛県
宇都宮酒造(愛媛県)
愛媛県南西部に位置する旧宇和町。宇和盆地を形成し、周囲を山に囲まれたこの地は現在合併して西予(せいよ)市となっている。重要伝統的建造物が立ち並ぶ歴史あるこの町に宇都宮酒造は110年以上前から酒造りを営む。
初代・宇都宮寅治が自身の生まれた旧宇和町に独立創業し、酒蔵を始めたのが1910年。それまでは隣町で知人と共に酒造りを営んでいたという。
旧宇和町は、寒暖差が激しい山間盆地という豊かな自然環境に恵まれ、昔から米作りが盛んな穀倉地帯として知られている。豊富に酒米に加え、四国山地から流れる柔らかくやさしい口当たりの軟水が伏流水として利用できるなど、酒造りに適した特徴を持つ。初代はこうした背景から、この地に蔵を構えることを決めたとされる。
創業当時、旧宇和町には30軒以上の酒造業者があった。その中でも宇都宮酒造は、1日8,000tとも言われる水量を誇る銘水百選「観音水」を酒母の仕込み水として使用し、現在に至るまでこの地だからこそできる酒造りにこだわってきた。
創業以来受け継がれてきた代表銘柄「千鳥」は、蔵のある鬼窪という土地にその名を由来する。鬼窪は古来、夕暮れ時の赤く染まった空に千鳥の群れが飛び立って帰巣して行く美しい風景が見られる湿地帯であったことから、「千鳥」と名付けられた。また酒のラベルの題字は4代目の繁明が詩人の坂村真民氏にお願いして揮毫してもらったという。愛媛県産の酒米「松山三井」、「しずく媛」、「愛のゆめ」を中心に使い、柔らかい味わいが特徴の食中酒。魚料理全般との相性が良いとされる。
もう一つの代表銘柄が「花神」。1989年に4代目の宇都宮繁明が桃色酵母を使ったお酒の製造に挑み、実を結んだ華やかな酒である。ほんのりピンクに色づき、まるでフルーツが入っているような甘口が魅力。喉越しはすっきりしており、日本酒の初心者にも飲みやすく、食前酒にも適している。
「花神」は、小説家の司馬遼太郎氏に許可を得て、宇和の地とも関わりの深い同名小説の名を宿している。4代目のチャレンジ精神と宇和の地から日本酒を世界に発信しようという郷土愛を強く感じられる逸品だ。
酒造りが盛んな宇和の地で、伝統を受け継ぎながら未来へと繋げている[宇都宮酒造]。現在の5代目は、老朽化した麹室の改修や、20年以上前に製造された幻の純米吟醸酒「大和楽」の復刻のために、日本酒ファンからの協力を仰ぐなど、積極的に新たな時代を切り拓く酒造りに取り組んでいる。
また、日本文学の著名人との交流を通じて、日本酒文化だけでなく、日本文化の担い手としても責任を果たし続けている。これからも、宇和から世界へとその可能性を広げていくだろう。