【今さら聞けない教えて!?シリーズ15】上槽 ~ 袋吊りと自動圧搾機について
発酵を終えた醪を搾り、原酒と酒粕に分ける上槽という工程、今回は、袋吊りと自動圧搾機で搾る方法についてお話しします。

前回も、上槽という工程についてお話ししましたが、今回は、同じ上槽でも、袋吊りと自動圧搾機で搾る方法についてお話ししたいと思います。
前回:【今さら聞けない教えて!?シリーズ14】上槽~槽搾り(ふなしぼり)について
この方が解説します

- 杜氏屋主人・プロデューサー中野恵利さん
-
プロフィール1995年、大阪・天神橋筋に日本酒バー「Janapese Refined Sake Bar 杜氏屋」を開店。日本酒評論家、セミナー講師、作詞家としてさまざまな分野で活躍。
● 袋吊り ~ 美しき菩薩の水
醪を袋に詰め、袋の口(首)を縄でくくり、吊るし、圧力をかけず、自重で滴り落ちた雫を集める搾り方を ‘’ 袋吊り ‘’ (地方によっては ‘’ 首吊り ‘’ )と言います。外圧を受けてではなく、醪は自らの重みで酒を搾り出すのです。
滴る雫は、斗瓶と呼ばれる容量一斗(18リットル)の硝子容器に集められます。斗瓶の形状は、やや楕円の球状をしたもの、底の接地面が広い歪(いびつ)な円柱型のものがあり、私が知る限りその色は、すっきりとした透明、爽やかなソーダブルー、神秘的な緑色の三色です。
生まれたての酒が斗瓶に溜まっていく様子は見飽きのしないもので、少し澱を含んだ液体は微かに硝子の風情を変え、瓶の中から菩薩の水のような美しさを放ちます。
この方法で搾られた酒は ‘’ 斗瓶囲い ‘’ ‘’ 斗瓶取り ‘’ ‘’ 雫酒 ‘’ などと呼ばれ、秩序が保たれたように整然とした美しさ放ちます。手間がかかり、収量は少なく、大吟醸の搾りに用いることがほとんどです。
●自動圧搾機 ~機械で搾る
「うちはヤブタで搾っています」。醪を搾る方法を尋ねたとき、こんな風に答えが返ってきたら、薮田式自動醪搾機(薮田産業株式会社)を使っているということです。
「自動圧搾機で最もポピュラーなものは?」 と問われたら、私は迷わず ‘’ 薮田式 ‘’と答えます。薮田産業のそれは、他メーカーを凌ぐシェアであると思われるからです。
濾布を取り付けた濾過板と圧搾板が交互に数十枚(百枚を超える大型機もあります)並び、巨大なアコーディオンのような形状を成す薮田式自動醪搾機。
醪は濾過板の上部にある穴からポンプで注入され、圧搾板に送り込んだ空気の圧力で搾られ、濾過板の下部にある穴から酒となって流れ出ます。あとには酒粕が板に付着して残るという仕組みです。
機械での上槽は、槽搾りでは48時間以上を要する工程を24時間に短縮し、醪の酸化を最小限に抑えます。
また、醪を袋に詰める作業がないため労務は軽減され、人手不足に喘ぐ酒蔵でも上槽時の人員配置に頭を悩ませることがなくなります。
ただ、良いことばかりではないのが現実……。
濾布・濾過板・圧搾板の取り付け、取り外し、洗浄に心を砕くことはもとより、カビに浸食されないよう機械そのものを清潔に保つなど、搾ることは自動化されていても、根気を要する重労働が全くなくなったわけではありません。
とは言え、PR樹脂を素材として濾過板の軽量化を図ったり、濾布をセットしたままの洗浄を可能にしたり、製造メーカーの創意工夫は機械を進化させてきました。酒造りという伝統産業を、革新によって守り支えてきた技術者たちの簀子の下の舞いに感謝を捧げる酒造家は少なくないと思われます。
● そこにあったから……
槽で搾る理由、機械で搾る理由、また、どちらで搾るのがいいのか、好奇心に疑問を突き動かされる方も多いのではないでしょうか?
醪の育成過程や目指す酒質によって、それらを裏打ちする酒造家の志向によって、上槽の手段は違います。
でも、「そこにあったから……」「うちはこれしかないから……」と仰る酒造家さん、けっこういます。
前回:【今さら聞けない教えて!?シリーズ14】上槽~槽搾り(ふなしぼり)について