[大阪/日本酒 ぽたん]
日本酒文化の新たな形を創造する
					
				
				2025年3月、大阪市福島区に新たな日本酒スポットが誕生した。「日本酒 ぽたん」は“日本酒をちょっとフランクに”を合言葉に常時約100種類の日本酒と豆皿料理が楽しめる。本記事では代表の久米佑宜さんに店舗オープンまでの軌跡、そして日本酒に対する想いを取材した。
日本酒需要の減少が続く一方で、造り手や提供側では若手の活躍が目覚ましい。新しい感性と柔軟な発想を持つ世代が、伝統産業である日本酒の世界に新たな風を吹き込みつつある。
大阪市福島区にある 「日本酒 ぽたん」では、日本酒を気軽にかつ深く楽しめる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。本記事では本店舗開業までの経緯、そして代表である久米佑宜の想いをお伝えする。
この方に話を聞きました

- ぽたん株式会社 代表取締役社長 久米佑宜さん
 - 
プロフィール1997年生まれ、大阪府河内長野市出身。20歳ではスポンサー5社を獲得し、約1年間をかけて世界一周を経験。大学卒業後は、地方創生を目的とした分散型宿泊施設で約4年ほど支配人を務める。独立し、2024年11月に「ぽたん株式会社」を設立。
 
店舗について

大阪・キタの中心部である梅田まで徒歩圏内のJR福島駅周辺。下町の風情ある雰囲気を残しつつ、地元民から愛される個性豊かなグルメ店が揃うエリアとして知られている。
そんなJR福島駅より徒歩3分という好立地に「日本酒 ぽたん」は店を構える。日本の風情を感じられる空間に並んだカウンターは15席。「日本酒をちょっとフランクに」を合言葉に約10o種類の日本酒と豆皿料理が楽しめる。全国各地から選りすぐりの日本酒が気軽に楽しめるとして人気を博す。
店舗での人気メニューは5種類の日本酒を45mlずつ楽しめる「おまさけ」(税込3,600円)。顧客の好みをヒアリングした上で、スタッフ一押しの銘柄をそのストーリーと共にゆっくりと楽しめる。
日本酒初心者でも楽しめる味わいから、通を唸らせるこだわりの銘柄まで、幅広いラインナップが揃う日本酒との出会いの場となっている。
世界一周から日本の「食」の素晴らしさを認識
―日本酒事業に至った経緯を教えてください。
久米さん(以下略)「幼少の頃から国内よりも海外に対する魅力が強かったことから、大学時代にはアメリカ横断や世界一周といった経験を重ねてきました。そこで日本という国の素晴らしさ、特に『食』の強さを改めて感じたんです。
もともと料理人になりたい気持ちはあったのですが、一方でベンチャー企業でガッツリと働きたいという想いもありました。悩んだ結果、地方創生の宿泊施設『セカイホテル大阪布施』に勤務し、5年間支配人を務めることになったんです。
地方創生に注力する中で、消滅可能性都市の課題などを知り『このままでは間に合わない』と感じるようになりました。各地方で様々なプレイヤーが地域を盛り上げようとしていますが、大きな成功に結びつけることは本当に困難です。地域の魅力を言語化した上で最大限伝え、その上で各地から人が訪れる、そして起爆剤になりうるものを考えたとき、日本酒以外ないなと思ったんです。日本文化として、そして娯楽としても訴求できる点が日本酒を選択した大きな理由です」

―もともと日本酒は好きだったのですか?
「お酒自体は好きだったのですが、日本酒への興味はそこまで強くありませんでした。ジンの歴史や造り方に興味があり、国内も含めて好きなジャンルでしたね。
ただ、ホテル時代に出張で数回訪れた富山県で日本酒の美味しさを知ったんです。最初は『めちゃくちゃ日本酒っぽい…』と思っていましたが、色々な銘柄を飲む中でその香味の幅を理解できました。
知人が飲食店を開業した際のパーティでいただいた『十四代 万虹』も衝撃的でした。『この価格帯でも売れる』という可能性と、日本酒というジャンルが持つ表現の深さはまだまだ知られていないのではないかと考え、挑戦しようと思ったんです。地方創生という枠の中で、日本酒の存在がヒットしたイメージですね。
また、私の生まれである大阪府河内長野市(※)には日本酒蔵があり、幼少期に酒蔵の知り合いを集めてサッカー日本代表のパブリックビューイングのようなことをしていた記憶があります。子供はジュースを飲み、大人は日本酒を飲みながら観戦するような(笑)ですので、もともと日本酒との距離は遠くなかったと思っています」
※平安時代より僧侶が寺院で造る僧坊酒の代表、天野山金剛寺の「天野酒」が歴史的に有名な地域。その他には奈良県奈良市の菩提山正暦寺で造られた「菩提泉」が挙げられる。
地元の酒蔵で半年間の酒造り修行へ
―宿泊業から飲食にシフトした点は興味深いです。
「漠然とですが、『日本に貢献できる人間でいたいな』という気持ちは持っていましたので、宿泊業と絡めた酒蔵ツーリズム事業はもちろん、貿易バイヤーといった業態なども検討しておりました。そうする中、東京・大阪のインバウンド観光客へ向けた雑誌に載っている日本酒バーへ何件か足を運んでみたんです。多くは店主の好みや語り口が主役になっているかなと感じることが多かったので、日本酒が主役というコンセプトで店舗を運営できたらどうかなと思ったのが1つの理由です」

「また、現在日本酒の輸出量は増加していますが、それぞれの国に求められている香味を持つ銘柄が届いているのかは分からないなと感じています。今はフランスに輸出しているが、甘いから実はベトナムでも受ける可能性などですね。こうしたデータを蓄積するラボとしての存在、そして日本文化の一部である日本酒を体験できるエンタメ施設ができればと思った点が2つ目の理由です」
―日本酒の知識はどう学ばれた?
「店舗のオープン作業と並行しながら、地元の西條合資会社で約半年酒造りに携わりました。資格取得も考えましたが、地元の酒蔵とのつながりもありましたし、実地経験が一番実になるかなと思い酒蔵で勉強させていただきました」
日本酒に対する概念が変わる個性的なイベント
―銘柄を隠して楽しむ「仮面酒盗会」がSNSで話題になっています。
「日本酒をブラインドで提供するイベントはすでにあると思うのですが、その多くが正解を当てることに関心を持つ人が集まっている印象です。ブラインドをもっとエンタメ的に提供したいと考え、実施しているのが『仮面酒盗会』ですね。銘柄を確認すると、『やっぱり自分はこの香味が好きだった』と再発見することはもちろん、『ブランドで左右されているな…』と気がついたりしますね。イベント参加のお土産として、日本酒に対する概念の変化が起きればいいなと思っています」

―「箱入り女酒良(はこいりむしゅめ)」も興味深いです。
「こちらは箱入りだけの日本酒を集めて提供するイベントです。地方の小規模な酒蔵でも桐箱に入った斗瓶取りなどの大吟醸酒を四合瓶で5〜7千円程度で販売しています。どれも素晴らしい出来栄えなのですが、どうしても購入のハードルは高くなります。そういった銘柄を少量ずつ楽しめるプランがあれば面白いなと思い、『箱入り娘』に掛けて実施しているんです」

―顧客層はどういった感じでしょうか?
「カウンター15席のうち、12席程度は日本酒が好きな方となります。残りの3席が『最近日本酒を飲み始めました』という方になることが多いですね。このあたりは本当にありがたいことだと思っています」
―「おまさけ」(税込3,600円)ではどういった銘柄が提供される?
「45ml×5種類をスタッフの解説付きでそれぞれ楽しんでいただけます。価格の分ハイグレードな銘柄が多くなりますが、日本酒を普段飲まない方や、バーの入口として来店された方に満足していただいています。多くの方が銘柄も含めてお任せで頼まれます」
―スタッフ全員が日本酒好き?
「そうですね。休みの日には蔵見学に行ったりと、日本酒が大好きなスタッフが揃っています」

―今日の久米さんおすすめの3銘柄を教えてください。
「新潟県阿部酒造の『あべ 圃場別プロジェクト 野田』(写真左)、神奈川県吉川醸造の『雨降 KASUMI』(写真中央)、新潟県葵酒造の『Maison Aoi Untitled 06』(写真右)です」
将来の子供に「かっこいい」と思ってもらう仕事を
―「ぽたん」という店名の由来は?
「英語で意味を持たない言葉にしたかったことと、日本らしい表現にしたいという想いがありました。そこで日本酒の造り手さんから聞いた、『袋絞りの一滴が垂れる瞬間は酒造りをやっていて良かった』という言葉から、雫が一滴落ちるイメージで『ぽたん』と名付けました」
―今後の展望を教えてください。
「カウンターの中心に落語家さんを呼んだイベントなどもできればと考えています。また、お寿司屋さんとのコラボのお話もありますので、いろいろ楽しんでもらえたらいいなと思っています。まだ独身ですが、将来自分の子供に『親父かっこいい仕事してたんやな』って思ってもらいたいですね」

幼少期は海外に目を向けていた久米さんだが、世界一周を経て改めて日本の魅力に気づき、日本酒文化を広げる担い手となった。世界中の情報に瞬時にアクセスできる「デジタルネイティブ」世代だからこそ、改めて内側へと視点を向ける姿勢が印象的だ。
おすすめの3銘柄はいずれも低アルコールタイプであり、これまでになかった軽快な味わいが新たな日本酒ファンを惹きつけている。造り手の技術革新が、提供側のマインドにも変化をもたらしているように感じた。この流れは今後も一層加速していくことだろう。
日本酒史に名を刻む僧坊酒「天野酒」の産地・河内長野市出身の久米さんが、大阪の地でどのように日本酒文化を育てていくのか。今後の「ぽたん」と久米さんの歩みに期待したい。
ライター:新井勇貴
滋賀県出身・京都市在住
酒の文化と物語を伝えるフリーライター。大学卒業後に京都市内の酒屋へ就職し、食品メーカーでの営業を経て独立。
J.S.A. SAKE DIPLOMA・ワインエキスパート/SSI認定 酒匠・日本酒学講師
						日本酒 ぽたん
- 住所
 - 大阪府大阪市福島区福島2-7-24 NANEI福島ビル 4F
 
- TEL
 - 06-4256-5353
 
- 営業時間
 - 17:00 - 25:00 (22:00~Bar Time)
 
						
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