酒蔵に聞く

徹底した品質管理と時代に沿った取り組みで、[高知/土佐鶴]の魅力を発信!

1773年創業の老舗酒造・土佐鶴酒造株式会社(高知県安芸郡安田町)。「品質第一」の社是を掲げ、四国最大規模の醸造量を誇る同社は、全国新酒鑑評会において今年で全国最多となる通算50回の金賞を受賞。高知らしい淡麗辛口の酒質と旨味を兼ね備えた味わいで、国内外から高い評価を得ており、現在ではアメリカやヨーロッパをはじめ25ヵ国以上への輸出実績を持つ。

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1773年創業の土佐鶴酒造が造るのは、「淡麗にして旨い辛口酒」。県内でも数少ない自社精米工場を保有し、求める酒質に応じて精米歩合を調整できる体制を整えている。仕込み水には安田川の伏流水を使用。自社で管理する7本の井戸から汲み上げた伏流水を唎き水し、最適な水を選別する。
大吟醸酒や純米酒などの特定名称酒は「天平蔵」、『しぼりたて新酒』などの普通酒は「千寿蔵」と、それぞれの酒造工程に最適な環境を持つ設備を整え、品質管理を徹底。

近年は日本酒の消費量減少を背景に、普通酒の再ブランディングや日本酒以外の商品開発にも注力。若年層や女性層へのPRにも力を入れている。今回は土佐鶴酒造の魅力と、廣松社長が見据える今後のビジョンについて話を伺った。

この方に話を聞きました

土佐鶴酒造株式会社 代表取締役社長 廣松慶久さん
プロフィール
十一代目蔵元。家業である土佐鶴酒造に携わる以前は広告業界に従事。培った経験を活かし、広報活動やマーケティングにも力を注ぐ。好きな土佐鶴商品は、フレッシュな味わいで食中酒として特に楽しめる『しぼりたて新酒』。

歴史と革新が息づく酒造り

土佐鶴酒造の創業は1773年。当初は山林業や海運業などを営みつつ酒造りを行っていたが、1845年より酒造専業に踏み切った。2023年には創業250周年を迎えた由緒正しき老舗酒造だ。
土佐鶴は、長い歳月をかけて淡麗辛口という酒質の完成度を高めてきたが、その長い歳月の中で転機となったきっかけを尋ねると、廣松社長は「現代の名工にも選ばれた8代目の池田杜氏が大きく関わっていますね」と語る。

池田杜氏の助言を元に、代々受け継いできた「品質第一」という社是は堅く守りながら、効率化も兼ね備えた醸造設備を県内酒蔵でもいち早く導入。
平成8年には普通酒を醸造する「千寿蔵」を、平成12年には特定名称酒を醸造する「天平蔵」を新設し、品質を最優先にした醸造体制を整え、更なる品質向上と効率化の両面を追求した。
こういった取り組みが功を奏して、日本で唯一のオフィシャルな清酒のコンテストである全国新酒鑑評会では、全国最多の50回の金賞を受賞。その評価は海外にも広まり、欧米諸国や中国など25カ国以上に輸出を行うなど、土佐鶴の魅力は国内外で認知されている。

土佐の風土に寄り添う酒造り

「高知県は豊かな自然に恵まれており、海、山、川で獲れる新鮮な食材が豊富です。その食材を使った鰹のたたきや田舎寿司などの郷土料理をはじめ、様々な料理に寄り添う食中酒としての品質を磨いてきました。スッキリとした口あたりとやわらかな旨味、サラッと切れる酒質が土佐鶴の魅力です。」と廣松社長。
土佐鶴が求める品質を実現するためのこだわりは多く、県内でも数少ない自社精米工場を保有している事もその一つ。「吟の夢」「土佐麗」といった高知県産米をはじめ13種類ほどの酒米を求める酒質に応じて使い分け、丹念に精米する。
仕込み水においては、自社の7本の井戸からくみ上げた安田川の伏流水を唎き水し、最適な水を厳選している。

「社是でもある『品質第一』を徹底するために酒造りの全ての工程を大切にしていますが、その中でも特に麹造り、酒母造りには細心の注意を払っています。品質は落とさず生産効率を上げるために機械化した工程もありますが、温度や時間経過で変化していく麹造りや酒母造りにはかなり繊細な作業が求められます。そこだけは熟練の手作業の技にはかないません。昔ながらの手造りを大切にしている部分です。」と廣松社長。

土佐鶴が伝えたい日本酒の新しい楽しみ方

全酒類の国内消費量に占める日本酒の割合がここ数年では約5%にまで減少し、日本酒離れに歯止めがかからない状況に廣松社長も危機感を抱いていた。
土佐鶴の美味しさに自信を持っていても実際に呑んでもらわなければ意味がない。そこで登場したのが「普通酒を再定義する酒」として2025年4月に発売された普通酒「香りレギュラー」である。
「毎日がハレの日」をコンセプトに、特別な日はもちろん、慌ただしい日常のひとときにもちょっとした幸せを感じて欲しい・・・そんな願いを込めて開発された酒が「香りレギュラー」だ。

特徴について聞いてみると、「パッケージには、どこか花や唎き猪口の蛇の目柄のようにも見える、シンボル化された『香』の文字をレイアウトし、独創的かつ手に取りやすいデザインを意識しました。酒質は香り華やかでライトボディなテイストですね。」
続けて「こんなにもフルーティーで飲み心地の良い普通酒があるんだと、まずは飲んで知ってもらいたいです。普段あまり日本酒を飲まない方にこそ、ぜひ手に取っていただきたいですね。2杯目からはロックや炭酸割など、型に縛られず自由に楽しんでいただきながら、土佐鶴や日本酒の魅力を体感してほしい。」と想いを語ってくれた。

オススメの土佐鶴3選

①大吟醸原酒 天平

原酒を貯蔵桶から直接詰めた手造りの大吟醸原酒。華やかな吟醸香としっかりしたコクが楽しめる芳醇な味わい。特別な席や贈答にもふさわしい一本。
精米歩合:40%以下/アルコール度:18度/日本酒度:+5/酸度:1.4

②辛口純米吟醸酒 銘鶴 土佐鶴

「鶴九皐に鳴き声天に聞こゆ」のことわざに由来する酒名。辛口造りでスッキリとした味わいと軽快な喉越しが特徴。煮物や焼き物との相性が良く、食中酒としての完成度が高い。
精米歩合:50%/アルコール度:15度/日本酒度:+6/酸度:1.5

③香りレギュラー

リンゴや洋梨のような華やかな香りと柔らかな旨味。軽やかな酸で締める飲み口は、飲み疲れせず何杯でも楽しめる。和洋中問わず幅広い料理と好相性で、日常使いにも最適。
精米歩合:70%/アルコール度:12度/日本酒度:+4/酸度:1.1

様々な形で土佐鶴の魅力を伝えていく

今後の展望について尋ねると、「土佐鶴という酒をもっと幅広い層へ発信すると共に、土佐鶴の発展をきっかけに、地元への還元や高知県への観光誘致に繋げていきたいですね。そのためには様々な方向から興味を持ってもらう必要があります」と語ってくれた。

また日本酒以外の商品開発についても「これまでも高知県産の柚子やベルガモットを使ったリキュールを販売しており、今後も高知県の特産品を使用した新商品の開発に取り組む予定です。高知県で開催されたよさこい祭りにブース出店した際は、日本酒が苦手な方にも親しみを持っていただくため、甘酒やリキュールをフローズン状にしたかき氷を販売しました。こういった新しい取り組みにも臆せずチャレンジしていきたいですね」と今後に期待したい。

イベントやSNSでの広報活動にも注力しており、「創業250年を迎えた2023年には土佐鶴の冷酒や燗酒、リキュールの提供、地元グルメブースにグッズ販売などを盛り込んだオープンイベントを開催しました。普段からご愛飲いただいているお客様の他に女性や若年層の来場も多く、イベントの反響は予想以上でした。新規層を取り込むためにはイベントはもちろん、SNSでの発信活動も重要だと考えています」と廣松社長。

高知県でも淡麗で旨い酒として多くの支持を得ている土佐鶴酒造。伝統的な酒造りを守りながら、時代とともに変化する消費者ニーズに応えるべく、廣松社長を先頭に社員一丸となって土佐鶴の素晴らしさや日本酒の新たな楽しみ方を多くの人へと伝えていくことだろう。


ライター:谷口廉
高知県出身/唎酒師・土佐酒アドバイザーの資格保持。
地元の出版社を経て、フリーランスの日本酒フォトライターとして四国エリアで活動中。
インスタグラム「sakelike_ren」で日本酒情報も発信している。
土佐鶴酒造株式会社

土佐鶴酒造株式会社

創業
1773年
代表銘柄
土佐鶴
住所
高知県安芸郡安田町安田1586
TEL
0887-38-6511
HP
https://tosatsuru.co.jp/

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