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[黒龍酒造/福井]のオーベルジュ「歓宿縁 ESHIKOTO」と酒蔵ツーリズムの可能性に迫る!

日本酒は、優れた水と米を使用することから、その土地土地の風土を映し出す。近年、「モノ消費」から「コト消費」へと需要が移る中、こうした地域の自然を体験し、その食文化や歴史、そして酒蔵見学を通した酒造技術の理解を目的にした観光コンテンツ「酒蔵ツーリズム」が注目を集めつつある。 本記事では[黒龍酒造]が2024年にオープンしたオーベルジュ「歓宿縁 ESHIKOTO」と酒蔵ツーリズムの魅力、そしてその可能性を代表取締役 水野直人さんにインタビュー。

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禅の道場として有名な「永平寺」がある福井県北部の永平寺町。この地で1804年(文化元年)に創業した[黒龍酒造株式会社]は、初代の石田屋二左衛門から現在に至るまで、品質の高い手造りの日本酒を徹底して追求してきた。
[黒龍酒造]は2022年6月17日、銘柄の由来にもなった九頭竜川を目前にした環境に酒蔵複合施設「ESHIKOTO」をオープン。日本酒を中心に北陸文化を伝える場所として、多くのファンから注目を集めている。
そして2024年11月26日、「ESHIKOTO」の隣に「歓宿縁 ESHIKOTO」をオープン。本施設はレストランと宿泊場所を兼ねたオーベルジュとなっており、日本酒を軸にした発信活動を加速させている。

この方に話を聞きました

黒龍酒造株式会社 代表取締役 水野直人さん
プロフィール
1964年10月26日生まれ。東京農業大学醸造科卒業後、協和発酵(現、協和キリン)に就職。1990年6月に黒龍酒造へ入社し、2005年に同社社長へ就任する。

大人のための観光施設「ESHIKOTO」

複合施設である「ESHIKOTO」の名前は、「ESHI=良し」を表す言葉から「良いこと」の意味を持つ。反対から読めば、長く変わらない様子を意味する「とこしえ」となることから、「永久」や「永平寺」の永も表現されている。
同施設では[黒龍酒造]が醸すESHIKOTO限定酒のテイスティング、購入はもちろん、レストランでの食事などが楽しめる。

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2024年11月26日、「ESHIKOTO」の隣にオーベルジュとなる「歓宿縁 ESHIKOTO」がオープン。
「大人のための観光施設」としての役割を強化させ、国内外からの注目度を一層高めた。
「眼の前を流れる九頭竜川の景色に黒龍酒造の水野社長が惚れ込み、本施設を建てることとなりました。現在、宿泊される方は黒龍酒造のファンが中心となっています。滞在期間については現在、一泊での利用が一般的ですね」
こう話すのは「歓宿縁 ESHIKOTO」の運営を行う株式会社アクアイグニスの長谷川雄大さん。福井観光の一環としてはもちろん、本施設の宿泊を目的に足を運ぶ方も少なくないという。
長谷川さん「併設しているレストランやバーでは黒龍酒造の限定酒はもちろん、ESHIKOTO限定酒も飲めます。こういった点も多くのファンを惹きつける要因でしょう」

ワイナリー体験から生まれたオーベルジュ

[黒龍酒造]代表取締役である水野直人さんは、本施設の構想についてこう話す。
水野さん「海外のワイナリー訪問での体験が今につながっています。ワイナリーでは田舎町でお酒を飲むことになるため、宿泊施設を伴っていることが多いんです。日本酒でも今後はこういった流れは増えていくと思います。ゆっくりお酒を楽しんでいただき、その風土を味わっていただくためにはそれなりの設えが必要だとわたしは考えます。しかし、これは酒蔵それぞれの考え方ですので、蔵を開放してオーベルジュにするなど、色々なタイプがあったら面白いですね」

「歓宿縁 ESHIKOTO」までは自家用車での訪問も可能だが、最寄りのえちぜん鉄道「永平寺口駅」から送迎サービスも行っている。
宿泊施設は2名対応の「JOU」と4名対応の「RYU」と「ZEN」の全8棟あり、それぞれで異なったコンセプトを持っている。

長谷川さん「こちらの『RYU Ⅰ」は和モダンをコンセプトとしており、イサム・ノグチがデザインしたローテーブルなど、和のテイストを感じさせるアールデコ調のインテリアとなっています」
各部屋の監修、アートキュレーションについては陶芸家・造形作家の内田鋼一氏が担当しており、家具はイギリスロンドン発祥のインテリアショップ「The Conran Shop」がセレクトしている。
各部屋には半露天風呂が併設されており、自然に囲まれた空間で天然温泉を堪能できる。眼の前には悠然と流れる九頭竜川が望めるなど、まさに贅の限りを尽くした宿泊施設となっている。

北陸の食文化、テロワールを存分に感じられる食事

夕食会場となる「日本料理 えん」は、福井市でミシュラン一つ星として掲載された「馳走えん」の板前が店舗を移転する形で担当。夕食価格は25,000円を基本とし、冬場のカニのシーズンなど食材によって変動する。
長谷川さん「『馳走えん』の常連客の来訪も多く、観光客だけでなく地元の方々にも親しまれています。また、週2回程はフランス料理『cadre(カードル)』が営業しており、フランス料理と黒龍のペアリングが楽しめます」

「日本料理 えん」の隣の「Bar 刻(とき)」では、福井駅の近くでフルーツバー「Giorno(ジョルノ)」を経営するマスターが日本酒カクテルを提供。ここでしか飲めない樽熟成スピリッツもあり、食後の一時をゆったりと味わえる。

水野社長「現在、酒粕を蒸留して造る『粕取焼酎』を試作しています。福井県はミズナラなど豊富な木材が取れるのですが、その樽で寝かすと非常に良い色味が出るんです。このバーではお客様の意見を直接聞くことを目的に、一部ラボ的に試作したお酒を中心に提供しています。お客様の声をもとにブラッシュアップすることで、黒龍ブランドとして全国のファンに届けることができる。2025年5月に販売が決定している黒龍のスパークリングも、もともとは『ESHIKOTO』でしか販売していなかった商品です」

北陸の食文化、テロワールを存分に感じられる施設「日本料理 えん」に加え、黒龍が挑戦する最新鋭の酒類が楽しめる「Bar 刻」。歓宿縁 ESHIKOTOだから体感できる内容にも注目だ。

今後の展望

「歓宿縁 ESHIKOTO」の開業によって、[黒龍酒造]は福井の風土や文化の魅力を、より深く伝える存在となった。水野社長は今後の構想についてこう語ってくれた。
「海外では1箇所のワイナリーに長期滞在するのではなく、色々な場所を回るのが主流です。その環境を実現させるためには、黒龍のお酒、施設だけではいけないんですよ。永平寺町には現在、3つの酒蔵があります。このエリアの中で酒蔵を1つの武器として活用し、観光を活性化できればと考えています。
昨年には町へ相談し、5箇所の醸造施設と地域の道の駅などを回る周遊バスのテストを行いました。将来的には『福井に来たら、このバスに乗ろう』と思ってもらえるような仕組みに育てていけたら嬉しいですね」

一軒の酒蔵が観光を変える。[黒龍酒造]の挑戦は、酒蔵ツーリズムの可能性を広げる大きな一歩となるだろう。地域と文化、そして人の縁を紡ぐ「歓宿縁 ESHIKOTO」から、どんな物語が生まれていくのか。ぜひ現地へ訪れ、黒龍酒蔵が提案するオーベルジュの世界を体感してほしい。

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ライター:新井勇貴
滋賀県出身・京都市在住/酒匠・SAKE DIPLOMA・SAKE・ワイン検定講師・ワインエキスパート
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。

黒龍酒造株式会社

黒龍酒造株式会社

創業
1804年
住所
福井県吉田郡永平寺町松岡春日1-38Googlemapで開く
TEL
0776616110
HP
https://www.kokuryu.co.jp/
歓宿縁 ESHIKOTO

歓宿縁 ESHIKOTO

住所
福井県吉田郡永平寺町下浄法寺第10号15番地1Googlemapで開く
TEL
0776-50-1323
HP
https://kanshukuen.com/

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