[兵庫県/西山酒造場]新たな複合施設「鼓傳」誕生までの背景と地域への想いを女将の西山桃子さんに聞く!
2024年8月にオープンした酒・発酵・芸術が融合する複合施設「鼓傳(こでん)」は、2014年の豪雨災害で被災した蔵の再生を象徴する施設と言える。女将の西山桃子さんに、転機となった当時や今後の展望について伺った。
[西山酒造場]は、兵庫県丹波市にある1849年創業の歴史ある酒蔵だ。代表銘柄「小鼓」は高浜虚子によって名付けられ、多くの文人や画人が訪れ、アートにゆかりのある場所だ。
そんな丹波地域の風土や酒造りの魅力を伝えようと、酒蔵を改修し、発酵について学び体験する施設「鼓傳(こでん)」を2024年8月にオープンした。誕生までの背景と地域への想いを女将の西山桃子さんにインタビュー。
この方に話を聞きました
- 株式会社西山酒造場 取締役 女将 西山桃子さん
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プロフィール大阪府堺市出身。銀行員、看護師などの職業を経て、2007年に株式会社西山酒造場入社。女将として、人事、広報、経営戦略まで幅広く担う。
豪雨災害が転機に。蔵をあげて地元丹波へ地域貢献
―女将になられたきっかけや想いを教えてください。
西山さん「結婚を機に丹波に来ました。自然はもちろん、歴史や伝統を知る中で、もっと蔵の魅力を伝えたいとあれこれ考えるうちに、気づいたら女将になってました。」
キラキラした笑顔で話す姿が印象的だ。
―「平成26年8月豪雨災害」では大きな被害を受けたと伺いました。蔵にとって大きな転機になったのでしょうか?
西山さん「はい。豪雨災害が蔵にとっても個人的にも大きな転換期になりました。蔵が泥に埋まってしまい、商品も全部ダメになりましたが、井戸の守り神の石が割れていて、その周りだけ泥が来なかったんです。これは酒造りを続けろって意味だろうと蔵のみんなが悟って、酒造りを続けることへの使命を感じました。また、ボランティアの方、特に東北の震災直後だったこともあり、東北から来てくださったボランティアの方にもたくさん勇気づけられました。助けてもらう側になる経験があったからこそ、蔵のみんなも人生観が変わり、恩返しや地域貢献に繋がるような商品作りを意識するようになりましたね。」
▲災害を免れた井戸
西山酒造場ではこれを「酒蔵の社会的役割」と呼んでおり、災害をきっかけに、地域の過疎化などの問題にも目を向けるようになったそう。それまではやっていなかった酒米の栽培を新たにスタートさせるきっかけともなった。
また、美味しい酒を造るだけでなく、地元丹波にどのように貢献できるかを蔵全体で考え、その想いが、2024年8月にオープンした「鼓傳」の原動力になっている。
「西山酒造場が持つ資源を活かしたいという想いが強いです。この土地、この場所だからできる体験。歴史・文化に触れながら、丹波の風土を味わい、発酵に関する知識を深め、酒蔵文化を体験できる。この場所にしかない時間と空間を提供したいです。」と西山さん。
「路上に咲く花とお酒があればいいじゃないか」
―豪雨災害があった年に、路上有花(ろじょうはなあり)シリーズがスタートしていますが、路上有花はどのようなお酒ですか。
西山さん「『路上有花』自体は、1991年にデザイナーの綿貫宏介が作った作品です。「路上に咲く花とお酒があればいいじゃないか」という意味を込めてこのように名付けられ、西山酒造場が目指すお酒の姿を象徴しているのではないかと思います。『小鼓』のお酒は、超軟水を使用しており、料理を引き立てる繊細な味わいです。丹波地域特有の湿度や盆地由来の寒暖差が酒造りを後押しし、シンプルで自然を楽しむお酒として愛され続けています。」
鼓傳の2階には陶淵明の書が飾られているが、陶淵明は田舎に戻り、酒と自然を愛した人物だといわれている。そのため、西山さんは「皆さんにも丹波の自然と丹波の酒を愛していただけると嬉しい」と話す。
Sake World NFTで購入できる路上有花
・小鼓 大吟醸 虚天楽(左)
丹波杜氏の手によって丁寧に醸された日本酒で、果実を連想させる優美な香りときめ細かい辛口が特徴。料理の味を引き立てるその味わいは、懐石料理との相性が抜群である。ロンドン酒チャレンジの金賞受賞歴もあり、透き通るような口当たりに品のある香り、調和の取れた辛さ、そして最後にさらりと残る爽やかさが魅力の一本。
・小鼓 純米大吟醸 路上有花 桃花(真ん中)
キレの良い甘さが特徴で、まろやかな味わい。軽やかでフルーティーな口当たりは、日本酒に馴染みのない方も親しみやすい。すっきりとした甘さは、魚やトマト料理に合うが、お出汁との相性も良く、やわらかな飲み心地を愉しめる一本。
・小鼓 純米大吟醸 路上有花 黒牡丹(右)
米の豊かな風味と、まろやかな口当たりが特徴。甘みと辛さの両方を感じられる、ボディがしっかりとした味わい。濃厚な肉料理や鍋料理との相性が良く、上質な味わいが愉しめる。一口飲めば、その複雑な味わいがゆっくりと鼻の奥へと広がり、心地よい余韻を味わえる。
―熟成酒に対する考えはいかがですか。
西山さん「日本酒業界が低迷している原因の一つは、価格が低すぎることだと思います。ワインみたいに、日本酒もちゃんと評価される価格をつけられるのが理想です。うちも古酒を作っていたんですが、災害で全部ダメになってしまいました。経済的にはかなり痛手ですが、ようやく落ち着いてきたので、これから古酒にもっと投資していきたいです。日本酒の価値を上げるためには、エイジングの味わいだけでなく、そのお酒にまつわるストーリーも大切だと思っています。」
また、Sake World NFTへの出品については「但馬強力で作られている『小鼓 純米大吟醸 路上有花 黒牡丹』の熟成が個人的には楽しみです」と話す。西山酒造場は酒米違いを推しており、路上有花シリーズからは兵庫北錦を使った「桃花」と但馬強力を使った「黒牡丹」がSake World NFTに出品されている。特に但馬強力は扱っている蔵が少なく、玄人にも人気がある。旨みが多い但馬強力の熟成はまだ挑戦したことがないため、どのように熟成されるのか楽しみだという。
多くの縁を繋ぎたい
―鼓傳が完成したばかりですが、今後さらにチャレンジしたいことなどありますか?
西山さん「今一番未来を感じているのは観光業です。何か別の言葉があればと思うのですが、ゴールデンルートではなく、あえて車をチャーターして、山の中にある蔵に買い物に来てくださる外国の方が最近増えています。実際に訪れて、体験し、それをまた全国、全世界に広めてくださるという。そこが観光業の魅力ですし、これから力を入れていきたい部分ですね。」
さらに日本酒以外のお酒にも着手しており、「ウイスキー事業を始めたので、丹波の自然、霧の中で作られたウイスキーがどのようになるのか、とても楽しみです。ウイスキーのエイジングを楽しむって、蔵にある文人・画人が残した作品と同じように“アート”だと思うんですよね。そのウイスキーを通じて、日本酒の『小鼓』を知ってくださる人が増えたら嬉しいですね」と話す。
インタビューの中で、西山さんは「縁」という言葉を何度も口にしていた。酒は縁をつなぐものであり、西山酒造場も多くの人々の支えと縁によって再生することができたという。新施設「鼓傳」がオープンし、これからさらに多くの縁が生まれるであろう、今後の西山酒造場の発展からますます目が離せない。
ライター :堂前佳穂
石川県出身/日本酒イベントの企画・運営に携わったことをきっかけに、日本酒のおいしさに目覚める。好みの日本酒はガツンとくる超辛口タイプ。最近は、洋食と日本酒とのペアリングに興味あり。
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♯兵庫
株式会社西山酒造場
- 創業
- 1849年(嘉永2年)
- 代表銘柄
- 小鼓
- 住所
- 兵庫県丹波市市島町中竹田1171Googlemapで開く
- TEL
- 0795-86-0331
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 年中無休(正月を除く)