銀座の屋上ビルで酒米を田植え!?「白鶴銀座天空農園」が取り組む未来に繋がる日本酒造り
兵庫・灘に本収社を構える白鶴酒造株式会社。その東京支社がある銀座のビルの屋上では、毎年オリジナル酒米「白鶴錦」を田植えから穫まで行っている。2024年度、田植えの様子をレポート。
INDEX
2007年に始まった「白鶴銀座天空農園」
兵庫県神戸市東灘区に本社を構える白鶴酒造株式会社は、1743年の創業以来、老舗の酒蔵としてその名を全国に轟かせてきた。年間を通して「白鶴 まる」、「上撰 白鶴」、「上撰 白鶴 生貯蔵酒」などを造る一方、冬期には専用の酒蔵で伝統的な製法で大吟醸の酒造りを行っている。
酒造りに適した灘での日本酒製造にとどまらず、オリジナル酒米「白鶴錦」の開発や酒米の自社栽培、白鶴美術館や白鶴酒造資料館のオープン、化粧品事業への進出など、酒蔵としての社会的責務や日本酒文化の醸成にも幅広く力を入れている。
2007年に始まった「白鶴銀座天空農園」もその一つ。東京支社がある銀座のビル屋上に農園を設け、自社開発酒米「白鶴錦」の栽培を行っている。
「白鶴錦」は「山田錦」の母にあたる「山田穂」と「渡船2号」を70年ぶりに交配させて誕生したことから「山田錦の兄弟米」という位置付けになっている酒米だ。「山田錦」より「粒や心白が大きくなりやすい」、「背丈が山田錦より若干低くなりやすいため倒れにくい」、「出来上がったお酒が山田錦と比べるとすっきりした味わいになりやすい」といった特徴がある。
2013年には白鶴銀座天空農園で収穫した「白鶴錦」のみで仕込んだ商品を数量限定で発売にまで至っている。
大都会で田植えから収穫まで行い、その酒米で商品まで作るという珍しい取り組み。2004年5月には、白鶴酒造東京支社の社員の方、や特別ゲストの2024 Miss SAKEのお2人も参加し、今年度の田植えを行った。
2024 Miss SAKEも参加
「銀座から日本酒文化の情報を発信したい」という想いからスタートした本プロジェクト。しかし大都会のビルの屋上で米を栽培するというのは、誰しもが難しいという印象を抱くのではないだろうか。実際にプロジェクトを開始した2007年にはプランター100基を使って栽培を開始しましたが、思うように酒米が収穫できなかったそう。
その後2008年にビル屋上を大改修して広さ約110㎡の屋上田圃を造成、さらには米の品質向上に取り組む。そして2013年からは天空農園で収穫した「白鶴錦」100%で仕込んだお酒を商品化し、以来毎年限定本数を銀座限定で販売できるほどの収穫量に。具体的には栽培株数は約1700株、収穫量見込みは籾付きで50kg前後となっている。
この日の田植えでは、すでに慣れている社員の方は、かなりスムーズな動きで稲の苗を植えていることに驚かされる。プロの監修が入っているものの、プロジェクトも18年目を迎えたことですっかり慣れている様子だ。
苗を植える適度な間隔や深さを意識しながら着実に田植えが行われていく。人生で初めて田植えを行うという新入社員の方も2024 Miss SAKEの2人も笑顔で田植えを楽しんでいる様子が印象的だ。
総務や営業事務のメンバーが通常業務の傍ら稲作業務も行う
もちろん田植えをして終わりではない。お米の栽培は水や水温の管理がとても重要。東京支社営業サポートグループのチームリーダーである山田亜由美さんによると、普段はグループのメンバーが総務や営業事務など日々の業務と並行しながら温度管理などを運営しているそう。
また都会のビル屋上ということで直射日光も大きな難点。真夏には水温が40度を超えることも珍しくない。そのため水温の調整やこまめな水の補充のため、一度水を抜いて水温が上がらないようにするなどの工夫を取っているそう。台風などの災害対策のため、風から稲を守るため、風の強い日にはロープとネットで風よけを設置するといった工夫も。
昨年2023年は初の試みとして日照時間を最大限に活用できるよう、例年6月中旬に行っていた田植えの時期を少し早めて行いた。昨年は梅雨入り以降も夏のような日が続いたことで太陽光をしっかり浴びた稲は順調に生長。7月と8月の記録的猛暑の中でも、毎日の田圃の巡回や水の管理、発生する雑草や藻の処理などの対応によって、11月の穀物検査ではこれまでにない高い評価を得ることができたのだそう。
東京の天候や昨今の地球温暖化などを鑑みながら、柔軟に稲作と向き合うことで美味しい酒米を育ててきていることを山田さんは教えてくれた。
子どもたちへの食育、収穫後の稲わら活用……日本酒造りを未来へ
白鶴銀座天空農園は酒米を栽培し、それでお酒を造って商品化するだけが目的ではない。地域で愛されるお酒作りや日本酒文化の発信のための取り組みにも活用されている。
2009年からは近隣の小学生を対象に、食育の授業として田植えと稲刈りの体験をしてもらっている。都会のビルに囲まれて日々過ごしている銀座の小学生にとって、田植えや稲刈りはとても貴重で刺激的な体験だろう。まだまだ日本酒を飲む年齢ではない小学生においても、日本酒の認知度を広げつつ、お米を始めとする食べ物全般に感謝する機会を創出しているのは素晴らしいことだ。
現在は行っていないが、2018年には田植えと稲刈り体験イベントとして参加者を一般公募し、留学生も招待するなど広く白鶴銀座天空農園を活用していた。
また2020年以降は秋の収穫後に残った稲わらを全国各地で再利用する取り組みも。2020年には埼玉県川越市の岡田畳本店で畳の新になる畳材に稲わらを使用することで畳として生まれ変わらせた。2021年には都内の飲食店にプレゼントをし、魚や肉の藁焼きの材料に活用。2022年には兵庫県の小学校の門松に飾るしめ飾りや千葉県館山市で子どもたちが相撲で使う土俵の一部に使われた。今まで廃棄していた稲わらを有効に活用することで、日本酒造りを持続可能な未来へと繋げている。
2023年収穫の「白鶴錦」100%による純米大吟醸が今年も発売
2024年6月7日には2023年に収穫した「白鶴錦」100%で仕込んだ「白鶴 翔雲 純米大吟醸 銀座天空農園 白鶴錦」を40本限定、銀座の一部店舗限定で発売した。今年はパイナップルやピーチを思わせる華やかな果実香があるお酒で、エレガントでふくよかな甘みを感じる味に仕上がったそう。
今年田植えした稲は10月に収穫し、来年のお酒へと生まれ変わる。日本酒造りの最もはじめの段階とも言える酒米の栽培を、大都会の真ん中で展開している白鶴酒造。これからも酒米の栽培に限らず、日本酒を未来に繋げるためのさまざまな取り組みに期待したい。
ライター:エタノール純子
さまざまなお酒を飲み歩き、30歳を過ぎて日本酒に行きつく
最近はスパークリング日本酒にハマっている