【開業秘話】京都河原町「花遊小路」にオープンした新感覚の酒屋&角打ちスタイル [小林酒店]
世界のベストバー100に選出された[Bar TRENCH]で経験を積み、[Ace Hotel Kyoto]でマネージャーとして実力を発揮したバーテンダーの小林紀(おさむ)さん。華麗な経歴に区切りをつけ、京都で自身の店を開業するに至った秘話に迫る!
京都河原町の路地裏小路「花遊小路」に2023年12月19日に誕生した「小林酒店」。
酒屋&角打ちスタイルと打ち出す新感覚空間で開業秘話をインタビュー!
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- 店主 小林 紀(おさむ)さん
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プロフィール世界のベストバー100に選出された[Bar TRENCH]で経験を積み、[Ace Hotel Kyoto]でマネージャーとして実力を発揮。2023年12月に満を持して「小林酒店」をオープン
1. 明治創業の酒屋を現代版にアップデート
—2023年12月19日のオープンおめでとうございます。
早速ですが、どうして自身のお店を開こうと思ったのですか?
小林さん「実は、[小林酒店]は、静岡の焼津で祖父が営んでいた酒屋の名前なんです。食の分野で街づくりがしたいと考えていた矢先、祖父が病気になり酒屋が存続の危機に。高祖父の時代から続く明治10年創業の酒屋を私の代で絶やしてはいけないと思い、家業を継ぐ形で開業を決意しました。」
ーなるほどそこが「小林酒店」という店名に繋がるのですね。
小林さん「町の中の機能としての酒屋の大事さ、受け継がれてきた家業。家は継ぐけど新しくするということで、縁のある京都から始めました。きっかけはおじいちゃんですね」
やさしい笑顔で想いを語ってくれる小林さんが印象的だ。
京都河原町の路地「花遊小路」で新たなスタートを切った[小林酒店]。酒屋の名前を受け継ぎつつも、料理と酒が楽しめる新たなスタイルへと生まれ変わった。スタイリッシュな店内には本格的なDJブースとスピーカーが設置されており、定期的なDJイベントを開催予定だ。
—コンセプトに掲げている「現代版の江戸時代の酒屋」とはどういう意味ですか?
小林さん「日本の酒屋は江戸時代に確立されました。店に並んだ木桶から酒をブレンドして好みに仕上げる。現代では難しいですが、その原体験に近いものを味わって欲しくて、酒販免許を取得し、お酒の販売を行っています。ゆくゆくは製造も視野に入れています」
酒屋としてのボトル売りと立ち飲みスタイルの融合は、まさに温故知新。古くに学びながらも新たなスタイルが誕生した。
2. 伝統と革新がテーマの日本酒
—クラフトビール、自然派ワイン、クラフトスピリッツなど、お酒の種類が豊富ですが、日本酒に限ってはどんなものが?
小林さん「今は京都を中心に7つの酒蔵から3,4種類、計20種類ほどを取り揃えています。酒蔵を訪れ直接自分の口で思いを伝えるのがモットー。そのため、私の思いに共感してくれた人たちのお酒が並んでいます。まだ始まったばかり、京都に限らず酒蔵や銘柄を増やしていく予定です」
お酒そのものを味わうのも良いが、数々の名店でバーテンダーとして腕を振るった小林さんのカクテルはぜひ味わっておきたい。6種類のラインナップはシーズンごとに入れ替わる予定なのでお楽しみに。
75gates 1,600円
『フレンチ75』というカクテルと京都の市外局番をかけた『75』に、仲間とともに扉を開く意味を込め複数形にした『gates』を合わせて名付けた。まさに始まりのカクテル。
小林さん「カクテルのベースは京都のドライジン『季の美』。シトラスと甘みを加えバランスをとっています。松井酒造さんのスパークリング『神蔵』を合わせることでジンのボタニカルな香りと日本酒の風味が調和。最後に海水のスプレーを一振りし、塩気を加えることで料理にも良く合います」
神蔵 ウタカタ スパークリング 無濾過・無加水
松井酒造(京都府)、アルコール度数7度、精米歩合60%
先ほどのカクテルにも登場した京都の酒蔵が手がけるスパークリング。しっかりと米の良さを活かしながらもシュワっと弾ける泡と程よい酸味が爽やかで飲みやすい。
小林さん「シャンパンなどの泡に比べると、優しい発泡感です。アルコール度数がそんなに高くないので、昼飲みなど最初の一杯にもおすすめです」
月の桂 純米 にごり酒
増田德兵衞商店(京都府)、アルコール度数17%、精米歩合60%
一般的なにごり酒よりも甘すぎずドライな味わい。一口含めばフルーティーな香りが華やかに広がる。きめ細かな泡が生み出すシルキーな喉越しが心地良い。
小林さん「日本で初めてにごり酒のスパークリングを生み出した蔵の新酒です。お米の旨みを加えてリニューアルしたとのことなので、ぜひ今一度味わってみてください」
神聖 特別純米原酒 超辛口
山本本家(京都府)、アルコール度数17度以上18度未満、精米歩合60%
京都府産の大粒な酒米「京の輝き」を100%使用し、香り高くまろやかな味わいに。原酒ならではの旨みと超辛口のシャープでキレのある後味がクセになる。
小林さん「江戸時代の酒屋のイメージに合わせ、熱燗をおすすめしたい銘柄を用意しました。すっと入る香りの高さはほかでは出合えないほど秀逸。超辛口で料理ともマッチします」
3. 素材の風味を活かした創作おばんざい
▲鴨ロース 柚子とビールのジャム 1,200円・九条ねぎと帆立のぬた 1,200円・海老と蓮根のしんじょ 880円
—料理も気になるところですが、どんなものがいただけますか?
小林さん「京都の風土を感じてもらうため、おばんざいをベースにアレンジしています。京都は良い食材が集まってくる場所。なるべく京都産にこだわって、地産地消を心がけています。角打ちスタイルでサクッと飲める1Fに加え、2Fは不定期ですが着席スタイルの営業を予定しています。ワークショップやイベントでの利用も併設予定です」
柑橘の酸味や野菜の青さなど、幅広いジャンルのお酒に合わせ素材本来の風味を活かした料理が並ぶ。角打ちスタイルながらも本格的な料理に大満足だ。
鴨ロースは、糖度の高いビールで作った柚子ジャムと一緒に。酢の代わりにレモンで酸味を加えたぬたや、白玉粉のモチっと感に生姜の風味が効いたしんじょなど、お酒に合わせる一手間を惜しまない。
2Fの空間を利用した取り組みなど今後の展開にも注目したい。
4.食を起点としたカルチャー拠点に
—最後に、これからのお店のビジョンを教えてください。
小林さん「観光資源が豊富な京都は、国内外問わず多くの人の目的地。そんな恵まれた環境を活かし、[小林酒店]を日本の魅力を世界に発信できるカルチャー拠点にしたいと考えています。『食』は、器、建築、音楽といったあらゆる文化の起点になる存在。文化を総合的に体感できる空間をつくり、人と人を繋ぐ場所にしたいです」
熱く語る小林さんの姿に多くの酒蔵や生産者たちが共鳴する。新たなカルチャーが生まれる一端を見たようだ。