酒蔵に聞く

今を生きる日本酒!
「美吉野醸造」が辿り着き、進化する新たなカタチ

奈良吉野「美吉野醸造」で脈々と受け継がれてきた代表銘柄“花巴”。そのDNAが進化した「自然淘汰DNA」。次の進化に向けた酒造りに関して杜氏・橋本晃明さんに話を聞いた。

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千本桜で知られる奈良県吉野の川沿いに佇む「美吉野醸造」
酒造り真っ只中のとある11月、午前8時。吉野川沿いから蔵を眺めると蒸気がもくもくと上がる様子が見える。
この吉野の自然を眺めながら、ふと美吉野醸造に来た理由を考えた。
飲食店や酒屋、日本酒関係者の方に話を聞いていると、多くの確率で名前が挙がる「美吉野醸造」。
おすすめしたいお酒として“花巴”や“自然淘汰”を持ち出し語る姿を見て、「この蔵の事を知ってほしい、伝えたい」という熱い想いを感じてきた。
さぁ今日は多くの人を虜にする美吉野醸造の酒造りを探求する。

1. 奈良吉野の自然の中で醸す日本酒

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杜氏/専務取締役 橋本 晃明さん
プロフィール
東京農大醸造学科卒業後、灘の酒造会社で3年間酒造りに励む。2005年に生家である美吉野醸造杜氏就任。2018年に全量奈良県産契約栽培米の酒造りに変え、地域と一緒に取り組む酒造りを築く。

蔵に着くと、杜氏の橋本さんと若い蔵人さんが温かく迎え入れてくれた。
蔵から見える吉野の景色を眺めながら「すべては自然任せなんです」と橋本さん。
「味というよりは経験値、この吉野でしかできない酒造りを目指している。自然の中で出来ていくものをこちらで整理して、お客さんに飲んでもらうスタイル。景色が変わっても、春の桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪、どれもその土地の眺め。雨の日もあれば晴の日もある。日本酒も同じ、その時々により味は変わるので、同じ味はないんです。」
橋本さんに話を伺いながらこの言葉の意味を探っていく。

蔵では蒸し米を掘り出す作業の真っ只中だ。
農と共に歩む酒造りを目指し、米の品種を特定せず、地域で栽培されたものだけを使用している。「米農家さんとはまさに一心同体なんです」と橋本さん。
米が作りにくい土地で、日本酒を造る。そのためには、米どころの酒蔵とは違う考え方をする必要があるという。
風土に寄り添う姿勢は、原料となる米の品種や等級を選ばないことにも表れている。

▲吉野杉で囲われた高温多湿の麹室。
温度、湿度と共に一定に管理された麹室で橋本さんも蔵人さんと共に汗をかきながら動いている。麹をつくる工程が花巴の味わいのDNAを受け継ぐといっても過言ではない。
「しっかり菌を繁殖させるのが特徴。米をしっかり溶かして味を出していく、キレイな味は求めていない。麹の酵素はもちろん、出るものは全て出し、全てをさらけだす。地域の米を余すことなくお酒にかえて農醇、濃厚、複雑味など様々な要素が詰るバランス設計をしている。」と橋本さん。

湿度の高さで十分に麹菌を繁殖させることで余すことなくお米を溶かし、しっかりした旨みを感じる濃醇なお酒になる。湿度をおさえ、クリアな味わいを追求する酒造りとは真逆の造り方だ。

2. 酸を解放し濃度に目を向ける

橋本さんは2017年に全酵母無添加に変えた。
「無添加に全部変えたのは添加する意味合いがなくなったからです」と橋本さん。
「最初は酵母添加したお酒が飲みやすさの入口と捉えていた。そこから酵母無添加で個性のあるお酒という流れを考えていたが、ペアリングという考え方や設計(季節への委ね方)で酵母無添加でも飲みやすいお酒が作れるということが分かった」
寒暖差や高濃度は、酵母にとっては過酷そのもの。それでも、どんな酵母が生き残るかは、風土に委ねるという。
濃度の濃い状態で生き残った天然酵母の働きで自然に発酵させて造る。その中には吉野の歴史に深く眠り続ける旨みの気配が感じられるはずだ。

▲花巴 山廃生酒(左)花巴 水酛生酒(右)
こうして生まれた吉野の風土に寄り添い、感銘を与え、腑に落ちる酒「花巴」。
花巴は発酵の持つ酸を抑制せずに解放しながら味を造って行くというスタイルだ。
速醸、山廃、水酛といった酒母の特徴や、木桶、タンク、熟成など必然性を重ねて味が生み出される。
乳酸を添加し最初から酸味のあるお酒が造れる“速醸”は軽快でクリア、酸味の質感がシンプルだ。
山廃は低温下で乳酸菌の菌を限定するので、安定感のある。ミルキーなコク、柑橘のような味ができる。水酛は乳酸の発酵感が強く、まるでヨーグルトやチーズを思わせる華やかさが特徴。
「速醸、山廃、水酛の3パターンの酸の質感の違いをひとつのカテゴリーとしている。酸が高いだけでなく、酸の幅を感じてもらいたい」と橋本さん。
吉野の地域に寄り添い、常温発酵から生まれる酸。また濃度に目を向ければ、その年、その季節の味わいをストレートに体感するとができる。

3. 地酒の新たな価値観

「この酒を語るには花巴の歴史から話さなければればならない」という美吉野醸造の集大成ともいえる“自然淘汰”。
吉野の自然に逆らわず寄り添い、理解を深め醸した結果から生まれた銘柄だ。
中でも“自然淘汰DNA”は今この瞬間も起こっている自然淘汰の中での進化を垣間見ることができる。

自然淘汰DNAは蔵直売のみのお酒。
「自然淘汰は季節感や季節によって作り方が違うのでその味わいを楽しんでもらえる。自然淘汰DNAは今まで取り組んできた事ををひっくるめて法則や自然の摂理、この時にこうすればこうなるよねという5つのパターンに辿り着いた」と橋本さん。

自然淘汰DNAは1日1日、日々進化しているという。
「飲んだ日によって味が違うんです、今見ている景色も一瞬、同じものは二度とない、そんな楽しみができる。」と橋本さん。
5種類の方向性を濃縮した表現のみで表しており、発酵、柑橘、果実、濃縮、変化をキーワードにそれぞれ濃くなるほど価値観があがっていく。
ぜひスペック無しでインスピレーションで飲んで感じてほしい。

自然淘汰DNAの価値観があり、それぞれに花巴や自然淘汰が紐づいている。
吉野川を眺めながら橋本さんは言葉を発する「新たな地酒の価値観は味に違いがあってしかるべき、味の違いを楽しんでもらう。ただ方向性は同じ、毎日川の流れる方向は同じでも見え方が違う、川の水の量が違うのと同じ。それが“あたりまえ”で違和感がないような感覚。自然淘汰の末に辿り着いた“今のおいしさ”が生まれ、次の進化に向けた酒になるのではないかと考えております。」
まさに今を生きる日本酒なのだ。

【自然淘汰DNA販売公式サイト】https://www.hanatomoe.com/dna/

4. 今を生きる人たちと醸す

ふと蔵を眺めると若い蔵人が洗米をしていた。
美吉野醸造では若い女性のスタッフさんを多く見かける。
酒造りをやってみたいと近年は志願者も多いという。
「4人中3人の方が酒造りは未経験。うちにはそんな人の方が合うんです」と橋本さん。
「酒造りの知識のない方の方が合います、自然に寄り添う造りなので、個性が出やすい。長く働きたい、長く酒造りをしたいという人が向いている。」

実際に今いる蔵人さんは千葉、群馬、大阪、和歌山から美吉野醸造で働きたいと来ている。
入社3ヶ月の蔵人さんは「日本酒が好きで、花巴を飲んだ時にその味が忘れられなくて、ここで働きたいと思いました」と話してくれた。
県外からでもこの地域の酒造りに根付く意思があれば続けることができる。

今を生きる人たちと、今を生きるお酒を造る。
これからの美吉野醸造が生み出す進化に目が離せない。

美吉野醸造

美吉野醸造

創業
1912年
代表銘柄
花巴、自然淘汰
住所
奈良県吉野郡吉野町六田1238番地1Googlemapで開く
TEL
0746-32-3639
HP
https://www.hanatomoe.com/
営業時間
9:00~17:00
定休日
不定休

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