世界のSAKE

海外SAKE事情 台湾編
独自の酒文化が育まれた地

日本の國酒「日本酒」は海外ではどのように取り扱われているのか。Sake World海外特派員が「JapaneseSake事情」を報告する。今回は日本の"ご近所”台湾現地最新レポート。

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近年、日本酒はアジア諸国を中心に海外市場での存在感を高めている。とりわけ台湾は、日本文化への親和性が高く、日本酒の輸出先としても注目されている市場だ。

意外かもしれないが、台湾は過去に38年にもわたる世界最長級の戒厳令が敷かれた過去がある。
筆者が初めて台湾に訪れたのは、戒厳令が解除されてまだ3年の1990年。その後約30年以上にわたり、主に酒類業界での仕事に携わる中で、重要市場として数十回渡航してきた。その間で見て来た日本酒の浸透状況と、今後の展望についてまとめた。

多層的な歴史に育まれた文化、日本への親近感

台湾は、九州とほぼ同じ面積に2,330万人が暮らしている。
アジアの海上交通の要衝として、古くからオランダ、スペイン、清朝による統治に、中国大陸からの移住、そして日本統治期に導入された近代的な制度や生活様式――それらが折り重なって、現在の台湾の文化的多様性が形づくられている。
都市部では日本家屋の名残も見られ、街並みにはどこか懐かしさが。こうした多文化の蓄積が台湾のしなやかで開放的な国民性を育んでいる。
1895年から1945年までの日本統治時代、台湾では日本語教育が行われ、鉄道・衛生・インフラ整備が進んだ。それらは台湾社会の基盤として今も息づいており、高齢層には日本語を理解する人も多く、かつては、タクシーの運転手から日本語で親しげに話しかけられることも多かった。
日本から台湾への旅行者も増えているが、それは地理的な近さだけではなく、心理的な近さから肩の力を抜いて自然体でいられるからだろう。

台湾人の日本への親近感は、高齢層のみならず世代を超えて強い。
若年層は日本の映画やアニメ、音楽、を通じて日本文化に親しみ、「日本好き」を自称し、渡航歴が5回以上という人々も珍しくなく、日本で目にして消費する商品への愛着が高まることにつながる。

日本ブランドや日本産商品が、パッケージや味、ネーミングをほぼそのままに受け入れられるのは、台湾人の親日感情と日本文化への深い理解が背景にあるのだ。この点は日本酒も例外ではなく、「日本のまま」が価値として認識されるわけだが、詳しくは後述で。

「油と香り、やさしい甘み」からなる食文化

台湾を初めて訪れた日本人は、街角を歩くとどこか懐かしさを覚えるだろう。理由のひとつが、麺屋や屋台から漂ってくる独特な街の「匂い」だ。
台湾の料理は、中国大陸に比べて軽やかでやさしい甘みがあり、油を使っていても重くならないのが特徴。香味野菜を繊細に使い、周囲を海に囲まれているので海鮮素材を活かした調理が多い。屋台文化が発達しているので小吃のような軽食が主流となる。
辛味・塩味・刺激が強い中国大陸内陸の料理に比べ、台湾料理は、味の主張が穏やかで食べ疲れしにくい。筆者がかつて暮らした香港の広東料理の清淡な味わいにも通じる部分はあるが、台湾の食の魅力を敢えて一言で言うと「油と香り、そしてやさしい甘み」になるだろう。

例えば日本でも定着した魯肉飯のこってりした旨味、小籠包の肉汁、牛肉麺の滋味深いスープ、青菜炒めの香ばしさ……どれも食欲をそそってくる。

他には「檳榔(ビンロウ)」と「からすみ(烏魚子)」という、どちらも台湾の食文化を語るうえで外せない存在がある。しかし、立ち位置はまるで正反対。

台湾の道路沿いでしばしば見かけるのが檳榔の販売スタンド。
檳榔樹の実を噛むと、ちょっとテンションが上がる軽い興奮作用があって、口の中が真っ赤になる。かつては、トラック運転手や労働者の相棒として大人気だったが、健康リスクが知られるようになってからは、影が薄くなった。それでも、檳榔スタンドのネオンは台湾の夜景の一部としてしぶとく生き残っている(台北市内は見なくなってきたが)

檳榔とは真逆の“上品担当”がからすみ。
ボラの卵巣を塩漬けして乾燥させた高級珍味で、旧正月の贈り物としては鉄板中の鉄板。日本のからすみより柔らかく、濃厚でコクがあり、薄切りにして大根やニンニクと一緒に食べると、もう完全に“台湾の味”。

「台湾の路上で噛まれるワイルド系嗜好品」檳榔に、「祝いの席を飾るエレガントな珍味」なからすみ。このギャップがなんとも面白い。

好まれる酒の秘訣は「リセット」

それでは、料理と相性の良い酒類は何になるか。
ヒントのひとつとなるのが、口中の「リセット」。台湾料理特有の脂っぽさや、あま旨味の後口をほどよく洗い流し、次の一口を新しくしてくれるような酒類が好まれる。

台湾では日本同様、もっとも消費される酒類はビールだ。
筆者は過去に、現地向けビールを開発したこともあるが、そのビールは香味はさっぱり・スッキリしながら、後口にはほのかに甘みが残るものっとした。気候風土に加え、台湾人の嗜好にもマッチし、20年経った現在も多くの人々に愛飲されている。

KIRIN Bar BEER

飲酒習慣と密接に関わる日本酒

では日本酒だとどうだろう…と言う前に、ここで台湾での飲酒習慣についても触れておきたい。

台湾では乾杯をするときに、日本のような全員一斉で行うのではなく一対一で行われる。互いにグラスの酒を全て飲み干すことが習慣である。

余談だが、筆者のかつての勤務先企業の台湾法人は、京都伏見の代表的酒蔵「月桂冠」の総代理でもあった。当時は台湾全土の卸店(ディストリビューター)を一堂に集めて宴会が行われ、延々と乾杯が繰り広げられた。そのため終了後には、想像を絶する量の日本酒の空瓶が積みあがっていたものだ。

台湾では、酒は食後に仲間と集まってにぎやかに飲むスタイルがもともと一般的であり、日本と少し異なる。しっかり酒類を飲む場面では、スコッチウイスキーや台湾の伝統酒である高粱酒など、喉が焼けるような高アルコール度数の蒸留酒が飲まれてきた。

それとは対照的に、醸造酒である日本酒はあまやかで口当たりがよく、低アルコールで食事とも合わせやすいので、若年層や女性層に広がっている。
台湾における日本酒は、やわらかな甘みと軽快でおだやかな酸味、そしてアルコール度数は低めが好まれやすい。フルーティでおだやかな香りの吟醸酒や、キレのいい本醸造、すっきり系の純米酒は、台湾料理と相性が良い。
飲みやすさに加え、飲み方のバラエティー――冷や・常温・ぬる燗――があることも、日本酒の楽しさだ。
徳利からおちょこに注ぐという、伝統的な酒器での楽しみ方はもちろんだが、冷酒をワイングラスに注いで飲むことは、とりわけ若年層の飲み手の「おしゃれ心」をくすぐるようだ。見た目に涼しげで、綺麗で写真映えがするのでSNS上での飲用体験がシェアされることになる。

日本酒の消費は新たな飲用層を取り込んで着実に伸びてきている。
最新データ※によると、日本から台湾への日本酒輸出量は372,688 Lで、輸出先としては第4位 (1位:米国、2位:中国、3位:韓国)である。また日本酒輸出全体に占める台湾の数量シェアは9.30%であり重要な市場だ。
※【快報】2024年12月日本清酒出口至台灣價量速覽及年度小評|酒喵逛日本

日本酒に先んじて生み出された「台湾製日本式清酒」

台湾における日本酒の歴史にも触れておきたい。

台湾にはTTL(台湾煙酒公司)という巨大な酒造メーカーがあり、“日本式清酒”「玉泉」を長年にわたって製造・供給してきた。
玉泉は日本酒の製法・技術をベースにして、台湾産の「蓬莱米」で仕込まれたアルコール度数低めでやわらかな口当たりの酒で、家庭での日常の食事と合わせる酒として定着している。こうした“台湾製日本式清酒”が、日本から輸入された“和製清酒”に先んじて「日常生活の清酒」の基盤をつくった。

台湾の酒類販売は長らく専売制で、TTLはもともと国営企業(酒専売制度の中核)だったため、国内の酒類市場に対して非常に広い販路を持っており、コンビニからスーパーまで台湾全土に配荷している。
「蓬莱米」は、日本統治時代に品種改良されたジャポニカ系の米で台湾の主食米だが、酒米としての適性もあり、同社製造の「玉泉」や「初霧」といった台湾製日本式清酒に使われてきた。

このような「日本の清酒技術」×「台湾の食文化」×「台湾の米」という掛け合わせで、台湾独自の酒質ができ、消費の裾野が確立したのだ。なおTTLは元々「台湾総督府専売局」という名称で設立されたが、これは日本統治時代の1901年、台湾総督府に酒類などの専売事務を目的に設立され、前述した歴史とも密接に関わっている。

「日常」と「特別」が共存する台湾の日本酒のいま

「日本式清酒」が“日常の酒”として土台をつくり、そこへ日本から輸入された“特別な(プレミアム)酒”が市場を成り立たせ、現地製造の清酒が普段の晩酌を支え、直輸入のプレミアム日本酒が特別な場面を彩る――この二重構造で、現在の台湾の日本酒市場は形成されている。

先述の「玉泉」は、台湾のコンビニやスーパーで定番商品として並び、600ml瓶で950円(NT$=5円)で購入できる一方、日本から輸入される日本酒は高い関税(40%)の影響もあり、価格は日本国内の2〜3倍(720ml瓶で3,000〜5,000円ほど)になる。そのため、ハレの日の外食や贈答用として選ばれることが多い。
※「玉泉」:首頁 -臺灣菸酒股份有限公司(AP1)

台湾の中高級飲食店では、吟醸系や純米大吟醸など、“香りで魅せる日本酒”が定番となっている。
月桂冠、八海山、獺祭、久保田などの銘柄が、料理とのペアリング提案とともに提供され、ワイングラスでの提供や温度違いを楽しむ演出も増えている。
近年は唎酒師の存在も広がり、銘柄説明や飲み方のアドバイスが充実してきたことも、こうした流れを後押ししている。

現地の飲食店にて

台湾の酒類流通について

一般的に台湾では、日本から輸入される日本酒は、下記の事業者のルートを通じて消費者に届けられる。
1. 輸入業者(酒類輸入免許が必要)
2. 卸売業者(酒類販売許可)
3. 小売店(コンビニ・スーパー・酒専門店)
4. 飲食店(ホテル・レストラン・居酒屋等)

なお台湾では 酒類のEC販売は法律で禁止されている。
リアルタイムで確実な年齢確認ができず、未成年者(18歳未満)の購入を防ぐことにくわえて、酒類が簡単に手に入りすぎないようにするという健康政策上の理由が背景にある。
広告や販促に対する台湾独自の規制もあるため、販売者側はマーケティング活動の際には注意が必要である。詳細は、下記のJETROの情報を参照されたい。
アルコール飲料の輸入規制、輸入手続き(台湾) | 日本からの輸出に関する制度 – 台湾 – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ

日本産高級酒専門店

蒸留酒(ハードリカー)販売専門店

「商品は日本のまま、体験は台湾らしく」な日本酒市場

台湾の日本酒市場が伸び続けている背景には、台湾独自の文化と日本酒の特性が、自然に重なり合う構造がある。

台湾の若い飲み手は SNS を通じ「知る・飲む・共有する」を同時に行い、映えるボトルデザインや酒器、料理とのペアリング写真を通じて日本酒の世界観を直感的に楽しんでいる。
旧正月や記念日のギフト文化も強く、輸入酒の高価格帯はむしろ“特別感”として歓迎されるので、ラベルに加えて外装箱のデザインや上質な質感はとても大切である。

こうした市場で特徴的なのは、日本酒が “日本のまま” で受け入れられる点だ。

日本語ラベル、蔵の物語、伝統的なパッケージは、台湾の消費者にとって“本物”の証であり、奇をてらったような余計なローカライズはかえって不要である。
むしろ、商品そのものは変えずに、飲用時やブランド接触時の体験の部分だけを台湾向けに最適化することが効果的だろう。台湾料理に合わせたペアリング提案、温度帯のガイド、ワイングラスでの提供、祝祭や催事シーズンのギフト企画など、体験の設計を“台湾らしく”整えることで、若い層の共感を呼び、飲用シーンが自然に広がっていく。

近年の台湾では、飲酒の嗜好が多様化している。
コンビニには、様々なフレーバーの缶チューハイがずらりと並んでいるし、国民酒ビールも現地産のクラフトビールが人気。日本酒も香りの良い酒、軽やかな味わい、ストーリー性のある商品、SNS映えするデザインなど、選ばれる理由が細分化している。
日本酒は甘口から辛口、軽快から芳醇、冷酒から燗酒まで幅広いスタイルを持つため、この多様化がそのまま市場拡大につながる。日本酒の初心者は現地製造の玉泉のような日常酒から入り、興味が深まると吟醸・大吟醸といったプレミアム酒へ進むという“ステップアップの構造”が、持続的な成長を支えている。

もちろん、台湾特有の高温多湿な気候を考慮した冷蔵対応、品揃えの強化と在庫や鮮度管理とのバランスをとることなどの課題も存在する。これらを流通全体で丁寧に整えることが、日本酒の品質価値を高め、プレミアム性を強化することにもつながる。

台湾は、日本酒が文化としてそのまま届き、同時に台湾らしい体験を重ねることができる世界での稀有な市場である。 商品は日本のまま、体験は台湾らしく。 この絶妙な匙加減をすることが、台湾の日本酒市場を次のステージへ導く原動力になっていくだろう。

ライター:
岸原文顕/ ソムリエ、HBAカクテルアドバイザー。日本酒をはじめ世界の酒類文化と旅をこよなく愛する「旅するソムリエ」。世界3大ビールブランドや洋酒類のブランドマネジャーを歴任、
京都のクラフト醸造所経営など、国内外での酒類事業経験32年。日本発の志ある酒類の世界展開を支援。BOONE合同会社代表。全国通訳案内士。東京在住。

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