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[SAKE HUNDRED]ラグジュアリー日本酒の最前線をClear代表 生駒さんに聞く

日本酒市場が縮小を続ける中、「ラグジュアリー日本酒」という未踏の領域に挑み続ける[SAKE HUNDRED]。
同ブランドが追求するこだわりや描く未来像、そして日本酒産業を再び前へと強く押し出す想いについて、代表の生駒さんに話を聞いた。

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日本酒の消費量は、1973年をピークに現在に至るまで減少の一途を辿っている。
市場の縮小に伴い全国の酒蔵の数も減少。この20年間では月間平均で約2件の蔵が廃業している計算になる。

全体的に逆風が吹く中、「最高峰の日本酒で、世界中の人々の『心を満たし、人生を彩る』こと」をブランドパーパース(存在意義)として、株式会社Clearが2018年に立ち上げたのが日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」。これまで「日本酒は安い」という認識が浸透していた中で、同社は市場全体の価格を向上させ、「日本酒にも『高級ライン』がある」という認知を広げている。

この方に話を聞きました

株式会社Clear代表取締役 生駒龍史さん
プロフィール
1986年東京生まれ。2013年に株式会社Clearを設立し、2014年にWebメディア「SAKETIMES」を立ち上げ。2018年に日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」を創業し、日本酒の可能性を広げ続けている。

地力がついてきた「高級日本酒」

―ブランド立ち上げから7年が経過していますが、現在の進捗はいかがでしょうか?

生駒さん(以下略)「事業全体としては好調に推移しています。2025年10月は受注額で3億円を超え、月間の最高売上を更新しました。平均単価で4万〜5万円という価格帯の商品でここまでの金額を積み上げられたことは、日本酒に希望があると感じられます。
現在、『百光(びゃっこう)』の販売価格は38,500円(税込)ですが、ブランド創業時は16,800円(税込)でした。当時、『高すぎる』『日本酒にそんなお金を払う人はいない』といった声が圧倒的だったことを踏まえると、大きく状況が変わってきたと思います」

―素晴らしい成果ですね。

「我々は会社の売上が上がって嬉しいという目線よりも、日本酒産業にどれだけ可能性を見出だせるかという点が重要だと考えています。現在の結果にはひとえに日本酒の力、そして日本酒の可能性はまだまだ沢山あるなと率直に感じています。
もちろん、10月はお正月へ向けた商戦期などを含めた一つの山であり、毎月このような成果が出ている訳ではありません。それでも『高級日本酒』という存在の地力が付いてきている一つの証といえるでしょう」

―主な販路は?

「おおよそですが自社ECが85%で卸が15%程度。海外はまだ1割にも満たないといった状況です。ほぼほぼ国内需要だけで動いていますので、海外販路は今後の伸びしろになっています」

―海外比率が低いことは意外です。

「日本で支持されているブランドであることはずっと大切にしてきました。そもそも、日本で評価が高くなければ海外で売れないんです。『日本ではどうなの?』という点が重要になりますので、日本国内で評価を上げることが重要。海外単独で頑張るよりも、日本での地盤をしっかり固める必要がありますね」

―どういった方が顧客層になりますか?

「やはり富裕層が多くなるのですが、ウイスキーやワイン、アートやラグジュアリーブランドが好きといった方たちの選択肢の一つに日本酒が入ってきたことは大きな成果であると感じています。
一方、従来からの日本酒ファンの方たちからの購入も当然あります。価格に対する価値を伝えるのは産業の仕事、つまり我々の責任だと思っています。普段は四合瓶1,800円の日本酒を買っている人でも、ディナーで15,000円払っているかもしれない。これはそこに価値があると感じているからです」

―昨今の原料米価格高騰の影響は?

「原料高騰に伴い、当然蔵からの仕入価格も上昇しています。ただ、我々の場合は元々の単価が高いので、当面は利益の調整で販売価格は据え置こうと考えています」

専門家を結集した「酒質設計のプロセス」

―高価格帯の商品が多い中9,900円の『弐光(にこう)』は比較的リーズナブルに感じます。

「高級ブランドとして展開している中、10,000円を切る商品を出して良いのかという葛藤はありました。
値段は下げようと思えばいくらでも下げることができます。しかし、売れない理由を値段に求めると存在意義がなくなってしまう。まず、高いことは課題ではないと認識することが大切なんです。
ただ、市場への妥当な金額というものも当然存在しています。我々はインターネットを通じて30,000円を超える日本酒を売る力はあるのですが、リテール(一般小売)でこの価格帯の販売はまだまだ難しいです。こうした状況に対応する銘柄としてリリースしたんです」

―SAKE HUNDRED銘柄の酒質設計からリリースについて、弐光を一例に教えてください。

「まず、弐光の役割は『リテールや飲食店を通して“面”を取りに行く商品』と決めており、その時点で僕の中で味のイメージは固まっていました。年齢、性別、国籍、宗教などを問わず全員が好きなものは果物なんですよね。甘酸っぱい果汁がみんな共通して持っている美味しさです。そこで果汁を目指そうと設計に進んできました。
ただ、甘酸っぱい低アルコール商品では奥行きがなくつまらない。ある程度の透明感がなければありふれたものになってしまうため、白麹四段が大事な要素になるといった話を弊社の商品開発である河瀬に伝えるんです。彼は米国月桂冠で杜氏を経験しているキーパーソンです。どうしても僕はブランディングが先行しがちなのですが、河瀬がSAKE HUNDRED銘柄開発に関する重要な部分を担っています」

―醸造を委託する蔵へはどうやって味を伝えるのでしょうか?

「新商品開発では、まず最初に酒蔵へコンセプトを共有し、目指す酒質のイメージを明確化します。
そのうえで、ターゲットとする酒質に近い銘柄を基に、クエン酸・乳酸・グルコースなどを添加してサンプルを作成することもあります。こうした試作を通じて酒質の方向性をより具体化し、実現できる酒蔵に製造を正式依頼する、という流れになります。
また、SAKE HUNDREDの取り組みに蔵元が乗り気でも、現場の蔵人達はそうでもないケースがあります。
『弐光』の時は、白瀧酒造の杜氏、蔵人を集めていただき我々の理念、そして業界が抱える経済的な成長に課題がある状況を変えたいといった想いをお伝えし、経済と文化が両輪で回る仕組みを一緒に作りたいといった話をさせていただきました」

―酒蔵とタッグを組んで商品を生み出していくイメージですね。

「弐光の場合は『百光』の副産物である米糠を活用しています。(商品化までに)10回以上挑戦しましたが、当初は実現が困難だと言われました。
我々は東京農業大学の企業研究生として籍を置いているので、教授に相談をしたり、近しい研究の論文を参考にしたりすることも可能です。それを踏まえて、理論上は可能という話を持っていき実現していただきました」

―月桂冠で杜氏経験を持つ人材も心強い存在です。

「当初から大手酒造メーカーの杜氏経験者を採用すると決めていました。
その理由は経験の幅が広いからです。甘い、辛い、酸っぱい、スパークリングにも対応できる。月桂冠は研究所も持っていますし、素晴らしいですよね。もちろん、小さい蔵では、一つのことを突き詰めることができるという魅力があります」

ブレンドと熟成は「付加価値」を生みやすい

―過去には「響花(きょうか)」というブレンド酒がありましたが、なぜ終売されたのでしょうか?

「『響花』は生酒の『天雨(てんう)』とミズナラ樽で短期貯蔵させた『思凛(しりん)』という商品のブレンドを試した時、とても美味しかったので生まれたという特別な経緯があります。
『天雨』は生酒ということもあり、品質懸念から後に終売。それに付随して『響花』も終売することになったんです」

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―今後、ブレンド銘柄を出す予定は?

「ブレンドは付加価値を付けやすいため、やりたいとは考えています。タンク1本で出す個性と、複数のタンクをブレンドして出す個性は全然別物になりますから」

―熟成酒についてはいかがでしょうか?

「現在は−5度で10年以上寝かせた『礼比(らいひ)』と、阪神淡路大震災を乗り越えた酒母から生まれた『現外(げんがい)』の2種類です。
時間を掛けるということは、どれだけお金があっても絶対にできないことですので、お客様に対する説得力、そして納得感がありますよね。
ただ、闇雲に熟成させるのが良いわけではなく、基本的には新酒の方が美味しいで良いと思っています。適切な日本酒を適切な環境で熟成させれば、体験価値が上がることも事実。これはこれでしっかりやっていきたいですね」

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誰よりもリスクを取り、誰よりも最前線を走る

―今後の展望を教えてください。

「ナンバーワンの高級日本酒ブランドになることです。
この数年で増えた高級日本酒カテゴリーの中では、我々は間違いなくトップランナーだと思っています。ただ、これも小さい範囲の中での覇者でしかありません。
『日本酒の未来をつくる』が会社としてのビジョンなのですが、『未来をつくる』ということは『今無いものをつくる』ことになります。そのためにもしっかりと日本酒ブランドの中で、産業をリードする存在にならなくてはなりません。
産業をリードするとは、『誰よりもリスクを取り、誰よりも最前線を走ること』です。
決して我々だけが成功するのではなく、新しい道を作り、そこにリスクが無いことが分かれば他の蔵も参入すればいいと思っています。0から1のリスクはベンチャーが取るべきだと思っていますし、そういうことをやりつづける会社であり続けたいですね」

縮小を続ける日本酒市場の中、SAKE HUNDREDは「日本酒の価値を再定義する存在」としてこれまでにない新たな領域を切り拓いてきた。

生駒さんの挑戦は、単なる資本主義的な成功ではなく、日本酒産業そのものの未来をつくるという強い使命感に支えられている。

様々な酒蔵と密になった協業や独自の酒質設計、そしてブレンドや熟成といった取り組みと通して、SAKE HUNDREDブランド誕生からの7年間で新たな価値軸を構築してきた。

誰も歩いたことのない道を突き進む姿勢が、日本酒産業全体が再び力強く歩み出すための新たな指標となっていくに違いない。

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ライター:新井勇貴
酒の文化と物語を伝えるフリーライター。酒販店勤務、食品メーカーでの営業を経て独立。(Webサイト
保有資格:J.S.A. SAKE DIPLOMA・ワインエキスパート/SSI 酒匠・日本酒学講師

株式会社Clear

代表銘柄
百光
HP
https://jp.sake100.com/

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