日本酒をもっと広めることがライフワーク![大阪/日本酒うさぎ]代表 原口起久代さんに聞く
大阪で毎年1000人以上の日本酒ファンが集まるイベント『愛酒でいと』を主宰する[日本酒うさぎ]店主・原口起久代さん。その行動力の源は日本酒への愛だった?日本酒との出会いやイベント開催への思いについてインタビューした。
関西の日本酒ファンにお馴染みのイベント『愛酒でいと』を主宰するのが原口起久代さん。日本酒との出会いや大阪で3店舗展開する[日本酒うさぎ]について、またイベントを開催するようになったきっかけや、スポンサーもイベンターも付けずに個人での開催にこだわる理由についてインタビュー。
この方に話を聞きました

- 日本酒うさぎ 代表 原口起久代さん
-
プロフィール1979年1月生まれ、岡山県出身。大学を卒業後、髙島屋に入社、外商部に配属される。その後、かねてより興味のあった飲食業へ転身。日本酒うさぎの店主を務めるほか、音楽ライブと融合させたイベント愛酒でいとを主宰するなど、関西日本酒シーンを牽引する立役者。
INDEX
1. 同世代の杜氏に刺激されて日本酒の世界へ

—日本酒との出会いは?
原口さん「会社を辞めて知り合いのバーのオーナーにお好み焼きと鉄板焼きの店を任されてから、初めての蔵見学で伺ったのが『而今』だったんです。その頃、私は20代で、大西さん(木屋正酒造6代目・大西唯克さん)も同じ20代。こんな若い人が造ってるんやというのに衝撃を受けました。てっきりおじいちゃんが出てくるのかと思ってたので(笑)。自分と同世代の人が頑張っている、それって全然知られてない!と思ったのが始まりで、日本酒おもしろいな、勉強したいと思うようになりました。」
ーどのように勉強されたのですか?
原口さん「当時ブームだった地酒のワンカップを仕入れられるというので『山中酒の店』(大阪市浪速区の日本酒専門の名店)に飛び込みで行きました。でも最初は何を聞いていいかも分からなくて、とにかく顔を覚えてもらおうと、目立つようにわざわざ同じ格好をして週に2回通ってました。そのうち話しかけてもらえるようになって、お店に来てくださったり、勉強会に誘われるようになりました。それから蔵元さんにお会いして蔵見学させていただいたりと、もうがむしゃらでしたね。」
2. 約60種の銘酒が揃う[日本酒うさぎ]

和を中心にしたほっと安らぐ料理が揃う。創業当初からの名物メニュー、出汁の美味しさがよくわかる鶏つくねと玉ねぎの炊いたん550円。タラコの酒粕漬け・鰹の酒盗・チーズ豆腐の三種盛りは名付けて痛風セット770円。
—[日本酒うさぎ]について教えてください
原口さん「[日本酒うさぎ]では60種類ほどの日本酒をバランスよく、飲みやすいものやお燗向きとか様々なタイプを揃えています。メニューにあえて詳しい説明を付けていないんですが、直接聞いてもらいたいのと、情報が入った状態で飲むよりインスピレーションで選んでもらったり、自分のゆかりのある土地のお酒を選んだり、そういうセレクトをしてもらいたいというのがあって。特に味の表現はその人自身に感じてもらいたい。聞かれたらもちろんお答えはするんですが、それよりもどういう人が作っているかとかバックボーンを伝えたいです。」
—お客さんは常連の方が多いんですか?
原口さん「常連さんも多いんですが、こっちに移転してきてからは新規の方に来ていただいています(2023年に谷町四丁目から堺筋本町に移転)。新規の方は特に日本酒がすごく好きなマニアックではなく、ふらっと入ったみたいな。ビールある?って来られて、じゃあ最後に1杯だけ日本酒を飲んでみようかって感じも大歓迎です。」
日本酒うさぎは現在、大阪で3店舗展開している。
・日本酒うさぎ:大阪市中央区船場中央1-3船場センタービル2号館B2
・日本酒うさぎスタンド:大阪市中央区船場中央1-3 船場センタービル2号館B2
・ニュー日本酒うさぎ:大阪市中央区北浜2-3-15 忠兵衛北浜ビル8階
3. 日本酒うさぎで飲める日本酒3本

黒松剣菱 樽酒 1合880円
剣菱酒造(兵庫県)
吉野杉の爽やかな香り、芳醇な米の味わいが広がる。燗酒がおすすめ。
原口さん「名物の樽酒。うちの店で吉野杉の樽に移して20日間かけて、提供しています」

三好 black 純米吟醸/90ml 660円(左)
阿武の鶴酒造(山口県)、アルコール度数 16%、精米歩合 50%
山田錦100%、無濾過生詰。華やかな香りと旨み、ほどよい甘味が調和したみずみずしい味わいが楽しめる。原口さん「一度廃業した酒蔵を若き6代目が復活させました」
冨玲 生酛玉栄 純米酒/90ml 550円(右)
梅津酒造有限会社(鳥取県)、アルコール度数 14%、精米歩合 80%
江戸時代と同じ自然流の生酛造り。冨玲という名前の由来は応援の「フレー、フレー」から。
原口さん「醸造年度H29。常温でしっかり熟成させた味わいは、ぜひ燗酒で」
4. みんながフラットに楽しめるイベント『愛酒でいと』

—日本酒のイベントを主宰しようと思ったきっかけは?
原口さん「日本酒の勉強会に行ったりすると、最初は皆さん難しい顔をして利き酒するじゃないですか。でも、だんだんお酒が入ってくると、最初は酵母が、米がとか言ってたおじさんたちが、なんか仲良くなっているんですよね。それを見て、この“最初”の部分がない後半だけのイベントができればって。蘊蓄を語ったりするのはプロには必要なんですが、一般の人向けのイベントがあってもいい。とにかく造り手も販売者も飲み手もフラットに楽しめるイベントをやりたいと思ったのが最初でした。」
—最初の『愛酒でいと』の開催はいつでしたか?
原口さん「2008年に独立したタイミングで第1回目を開催しました。まだタイトルは『愛酒でいと』ではなくて、当時の格闘技イベントをもじった『飲れんのか2008』。以前任されていたお店をお借りして、而今さんや七本槍さんなど6〜7蔵に参加いただき、完全口コミで130名が集まりました。翌年からは『愛酒でいと』という名前で、私も独立して2年目で飲食店さんとの横のつながりができたので、飲食店さんと蔵元さんにタッグを組んでもらう形になりました。ライブの要素が加わったのは第3回目。会場は名村造船所跡地(大阪市住之江区)に変わり、20店舗20蔵くらいに増えて集客も600人を越えました。ほぼほぼ口コミでチケットも完全手売りです。その翌年がもうなくなっちゃった味園ユニバース(大阪・千日前のライブホール。2025年7月に営業終了)で、ちょうどキャバレー営業が終わってイベントスペースになった時です。当時の日本酒イベントではなかった空気感、音楽も入れてという感じで会場を選んでいて、2012年からZepp Nambaに移るんですが、そこからはもう1000人を越えるイベントになっていきました。」

—コロナ禍の時期はどう乗り越えたのですか。
原口さん「2020年はコロナ禍でイベントができなくて、それがすごく悔しかった。楽しいことを発信し続けたいというのが1番だったので、悲しいお知らせがめちゃくちゃ悔しくて。泣きながらなんかやりたいというので、これが今使っているおちょこなんですが(『愛もお酒もたっぷりと』のメッセージ入り)、どこでもドアのイラストが入っていて、どこでも『愛酒でいと』って形で、みんなの家やそれぞれの場所で乾杯してもらおうと。この年はインスタライブも6時間やりました。2021年は心斎橋パルコ地下1階でお酒の販売イベント、2022年も同じ場所で月替わりで蔵元さんに来ていただいて『月刊愛酒でいと』を5カ月間やっていました。それで2023年にコロナ禍から復活できました」
—居酒屋もやりながら、すごいパワーですね!
原口さん「とにかくお祭りとか人に発信するのが好きなのと、やっぱりライフワークとして日本酒をもっともっと身近に、日常に広めていきたいという思いがあります。それはお店を立ち上げた時から変わらずあって、まだ達成できていないんです。」
—でも、昔に比べたらずいぶん状況は変わってきましたよね。若い日本酒ファンが増えているように感じます。
原口さん「確かにそうですね。でも我々もけっこう世代的には上の方になってきているので。例えば『愛酒でいと』のタイトルの由来を知らない人も多いし(笑)。私たちより下の20代、30代の人たちにどう伝えていくか、世代交代に向けてやっていくかが、ここ数年の課題になってきています。スポンサーもイベンターも入れずにいるのは、自分たちのやりたいことを最優先でできるようにという理由です。やっぱり私の本業は居酒屋の女将で、イベントをビジネスとは思っていなくて。だからこそついてきてくれる方たちがいる、それがビジネススタイルに切り替わってしまうと、今まで手弁当でもいいよって来てくれた方たちが離れていってしまうのが嫌なんです。イベントはあくまで日本酒の広報活動の一つというか、自分がやりたいことをやっているだけ。でもそれで返ってくるものはいっぱいあります。お店の名前を知ってもらったり、人脈もすごく増えました。そういうスタンスで、これからもイベントを続けていけたらと思っています。
続けていけるのは周りの人たちのおかげで、酒蔵さん、飲食店さん、酒販店さん、フロアスタッフの皆さん、ステージスタッフの皆さん、そして、特にイベントの副キャプテンとして、音楽全般やプロモーションなど担当してくれている西田良敬くん(東心斎橋のBAR 「Osake Sunny Osaka」店主)彼とは3年目以降の愛酒でいとをほぼ二人三脚で作ってるので、彼なくしては今の愛酒でいとの形は無かったと思います。本当にありがたいです。」
5. 20年目の『愛酒でいと』に向けて

—今後、何か計画されていることはありますか?
原口さん「もう次の『愛酒でいと』に向けて動き出しているところです。2026年が19年目で、2027年の20年目に向けてどんなふうにしようか、なにか記念イベントみたいなこともやろうかなって考えています。」
—これからも活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
きくちゃんの愛称で親しまれる原口さん。居酒屋の代表として、毎回1000人以上を集客する日本酒イベントの主宰者として、また2人のお子さんのお母さんとして、身体が3つ欲しいくらい忙しいはず。会った人をたちまちファンにしてしまう笑顔からは想像できない、パワフルな活動ぶりの根っこには、日本酒をもっと広めたいという一途な思いがあったのですね。
ライター・唎酒師 藤田えり子
大阪の日本酒専門店に世界を広げていただき、さまざまな日本酒や酒蔵に出合う。好きな日本酒は秋鹿、王祿ほか
お酒以外の趣味は鉱物集めとアゲハ蝶飼育。
日本酒うさぎ
- 住所
- 大阪市中央区船場中央1-3-2 船場センタービル2号館B2
- TEL
- 06-6271-3369
- 営業時間
- 15:00〜22:00
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