【今さら聞けない教えて!?シリーズ19】火入れ 其の三 ~火落ち~
お酒に “ 火落ち菌 ” という特殊な乳酸菌が繁殖することを “ 火落ち ” と言います。 今回は、繁殖することを許されなかった厄介な菌のお話です。
火入れという低温殺菌法については、其の一では歴史を、其の二では方法をお話いたしました。この工程で酵母や酵素を失活させることによって、酒質の劣化を防ぎ、香味の安定を図り、長期保存を可能にすることも前述いたしました。其の三では、死滅させられた菌のお話をいたしましょう。
前回:【今さら聞けない教えて!?シリーズ18】火入れ 其の二 ~方法~
この方が解説します

- 杜氏屋主人・プロデューサー中野恵利さん
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プロフィール1995年、大阪・天神橋筋に日本酒バー「Janapese Refined Sake Bar 杜氏屋」を開店。日本酒評論家、セミナー講師、作詞家としてさまざまな分野で活躍。
●火落ち菌 ~ 火落ち菌は日本酒がお好き!
火落ちと呼ばれる日本酒特有の腐敗現象は、醸造界の重大な災害とされてきました。
明治14年(1881)、東京開成学校で教鞭をとっていた化学者・ロバート ウィリアム アトキンソンは、火落ちがある種の細菌に基づくことを発見しました。
その後、農学博士・高橋偵造によって、この菌は極めて強いアルコール耐性を持つラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸菌の一種で、清酒においてのみ繁殖可能であることが証明されました。発酵形式は以下のように分けられます。
●ホモ型発酵菌
糖を分解して乳酸のみを生成(ヨーグルト製造に使われる乳酸菌の、ブルガリクス菌、ガセリ菌、サーモフィルス菌はこの発酵形式)。
●ヘテロ型発酵菌
糖を分解して、乳酸以外に、エタノールや強い抗真菌性を持つ酸(酢酸やプロピオン酸)、二酸化炭素を生成(ヒトの腸内に存在するビフィズス菌はこの発酵形式)。
●真性火落ち菌・火落ち性乳酸菌
生育時に麹菌由来のメバロン酸を要求するものを真性火落ち菌、要求性がないものを火落ち性乳酸菌に分類します。最もアルコール耐性が強いものは、25%を越えるアルコール濃度下でも増殖可能なホモ型真性火落ち菌、次いで、ヘテロ型真性火落ち菌です。対して火落ち性乳酸菌は、ホモ型・ヘテロ型ともに21%~22%のアルコール濃度で菌数の減少が観察されています。
真性火落ち菌は高濃度のアルコール環境でも生き延びることが出来ますが、最適な成育環境はアルコール度数7%前後と考えられています。アルコール度数7%程度のお部屋で、好物のメバロン酸を食べると真性火落ち菌はどんどん殖えていくってことですね。
●火落ち酸=メバロン酸 ~お酒にとっては迷惑だけど…
火落ちの原因菌を麹菌が産生していることを突き止めた東京大学教員・田村 學造氏によって昭和31年(1956)に命名された火落ち酸(hiochic acid) 。同じ年、アメリカの製薬会社メルク アンド カンパニー(Merck & Co,) の研究者が、ウイスキーの蒸留廃液中に火落ち酸と同様の物質を発見し、これを “ メバロン酸(mevalonic acid)” と命名。そして昭和33年(1958)、これらは同じものであることが確認されました。
メバロン酸は光の偏光面を回転させる性質を持つ光学活性物質です。目標とする化合物になるまでの途中で現れ、いくつかの物質の生合成における中間体となるメバロン酸は、意外にも肌の保湿や高コレステロール対策に有効で、医薬品、化粧品、農薬や液晶材料など、様々な分野で研究対象とされる利用価値の高い有機化合物です。日本酒にとっては迷惑でも、人にとっては有難い物質なんですね。
●白く、酸っぱく、臭い
火落ち菌が増殖すると、日本酒は白濁し、酸っぱい味や不快な臭いが発生することがあります。
今回は、日本酒にとって厄介な乳酸菌についてのお話しでした。
前回:【今さら聞けない教えて!?シリーズ18】火入れ 其の二 ~方法~
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