京都伏見[玉乃光酒造]350年の伝統蔵が考える“ブレンド日本酒”の活用法を羽場社長に聞く!
複数の酒蔵の日本酒をブレンドするという考えから生まれた、新感覚の日本酒[Assemblage Club(アッサンブラージュ クラブ)]と自分だけのオリジナルブレンド日本酒が作れるスポット[My Sake World]。蔵の垣根を超えた日本酒ブレンドという新しいチャレンジをサポートしてくれる人たちに、今の想いを聞いた。

京都の3つの酒蔵の協力のもとに実現した日本酒[Assemblage Club(アッサンブラージュ クラブ)]や、個人や飲食店、企業がオリジナルブレンド日本酒を作ることができるスポット [My Sake World]
“日本酒のブレンド”という新たな企画に協力、応援してくれる酒蔵や人物に、参加を決めた理由やその後の影響などについて[玉乃光酒造]羽場社長にインタビュー。
この方に話を聞きました

- 玉乃光酒造株式会社 代表取締役社長 羽場洋介さん
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プロフィール1979年12月12日生まれ。大学院を卒業後に会計士として働いた後、飲食業界へと転身。妻の家業である酒蔵経営に顧問として携わり、2023年9月に社長へ就任する。
幻の酒米「雄町」の復活に尽力した[玉乃光]
1673年(延宝元年)、中屋六左衛門が、和歌山市寄合町にて紀州藩第二代藩主「徳川光貞」の時代に酒造免許を得て創業した[玉乃光]。徳川家が認めた御用蔵は20軒ほどあったとされるが、現存する酒蔵は同社のみとなっている。
銘柄である[玉乃光]は、創業家が代々帰依する「速玉神社」に由来しており、「イザナギノミコト、イザナミノミコトの御魂が映える」との意味を込めて命名されたという。
戦災によって創業地での酒造りができなくなった同社は、戦後京都伏見に移転。1964年(昭和39年)に業界でもいち早く純米清酒の復活に注力し、現在では純米吟醸以上しか醸さない「純米吟醸蔵」として広く知られている。
―玉乃光の主力銘柄を教えてください。
羽場さん「純米吟醸の『酒魂(しゅこん)』が定番として人気ですが、看板商品は備前雄町を100%使用した純米大吟醸です」
山田錦の先祖にあたる雄町は1859年(安政6年)、現在の岡山県岡山市にて発見された。稲の背が高いなど、栽培面での困難さから一時期絶滅の危機に瀕していたが、玉乃光は岡山県の農家と共に復活に尽力。
2022年(令和4年)にはオーガニック雄町を使用した銘柄「有機純米吟醸 GREEN 雄町/山田錦」をリリースし、日本初の有機JAS認証の有機酒類となった。
ブレンドするからこそ、自分の好みが明確になる
―会計士、飲食から日本酒業界へ転身して感じたことはありますか?
羽場さん「保守的なイメージを持たれがちですが、全然そんなことはないと感じました。ラベルデザインや価格、お酒の品質など考えられることはほとんどどこかの酒蔵がチャレンジしている。色々な取り組みは既に行われているが、なかなか好転につなげるのが難しいと思っています」
―そんな中、「My Sake World 御池別邸」での新しい日本酒のブレンド体験についてはいかがでしたか?
羽場さん「楽しかったです。ブレンドして新しい日本酒を造ることが前提ですので、普段以上に香りや味わいをキャッチしようと思いますね。これは本当に良い体験でした。決めた目標へ向かうために日本酒を味わうからこそ、自分の中の好みも明確になりますよね」
―体験時はどういった日本酒を造られましたか?
羽場さん「普段から玉乃光を飲んでいるからか、個人的には熟成系など穏やかな日本酒が好みです。そのため、華やかなタイプではなく、落ち着きのある味わいを意識してブレンドしました」
―「My Sake World 御池別邸」ではTAMAを使用させていただいていますが、反響はいかがでしょうか?
羽場さん「『TAMA』が人気ですよ!と聞くと、ありがたいですね。Instagramなどを拝見していても、『TAMA』が写っていることが多いので選んでいただけているのだと実感します」
―アンテナショップの「純米酒粕 玉乃光」でも、2025年3月末のリニューアルに合わせてブレンド体験を提供したとか。
羽場さん「これまでレストランとして営業していた1階スペースを、日本酒を中心に楽しめるバーとしてリニューアルしました。その中での企画として、自社の日本酒をブレンドできる体験を提供しています。前述した通り、ブレンドするからこそ一つ一つをしっかり味わおうと思う。その点に魅力を感じますね」
AIでも再現不可能な無形の資産を活かす
―社長就任から丸2年を迎えようとしていますが、実際に携わってきた実感はいかがでしょうか。
羽場さん「最初の1年は試行錯誤でしたが、現在は、自分が向かうべき方向が見つかっています。今はその目標を達成するために淡々と取り組んでいる状況ですね。
今の日本酒市場は縮小傾向にあります。これは主にパック酒を中心とした「普通酒」の減少による影響が大きく、我々が造る純米吟醸酒など「特定名称酒」についてはそこまで下がっていないんです。
これに対しては需要喚起といった考えもありますが、私としては需要を過去の水準に戻すのではなく、価値ある日本の伝統文化を活かしていくことが大切だと思っています。今からどれだけお金を積んでも、AIのように賢くても再現不可能な無形の資産が日本酒業界には数多くあります。この点を武器に訴求していくべきだと考えています。
我々は現在、『東蔵再生プロジェクト』と称して築100年を超える酒蔵の再生事業を進めています。伏見という立地も活かし、歴史ある「場」で食事と日本酒が楽しめるなど、様々な体験を提供したいんです。
そのために、全国のクリエイターとつながる『350×(カケル)プロジェクト』や、プレミアムブランドの展開も進めています。高価格での販売を目的とするのではなく、高級レストランやホテルといった場を通じて接点を広げ、歴史ある酒蔵そのものに足を運んでもらうことを目指しています。
その時提供するコンテンツとしてはブレンド体験や、玉乃光が毎年行っている『蔵開き』のようなイベントなど、たくさんあればあるほどいいですよね」
玉乃光が行う酒造りは、麹造りなど基本的な工程を機械に頼らず、手作業で行っている。羽場社長はこの点について「手造りでの製造量という点では、日本一を自負しています」と話す。資産価値の高い酒蔵で、伝統的な酒造りを行っている事実は強力な訴求ポイントになるだろう。
時代が変わっても、“本物”は時代に合わせて変化し続ける。玉乃光酒造の挑戦とその背景には、日本酒文化が未来へ紡がれていくためのヒントが詰まっている。
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♯京都
ライター:新井勇貴
滋賀県出身・京都市在住/酒匠・SAKE DIPLOMA・SAKE・ワイン検定講師・ワインエキスパート
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。

玉乃光酒造株式会社
- 創業
- 延宝元年(1673)
- 代表銘柄
- 玉乃光
- 住所
- 京都市伏見区東堺町545-2Googlemapで開く
- TEL
- 075-611-5000
- 営業時間
- 8:00~16:30
- 定休日
- 土・日曜、祝日休