地域の酒

海外SAKE事情 ポルトガル編

日本の國酒「日本酒」は海外ではどのように取り扱われているのか。Sake World海外特派員が「JapaneseSake事情」を報告する。今回は欧州最西端ポルトガルの現地最新レポート。

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欧州西端に位置する「ポルトガル」。
戦国時代だった1543年に、種子島に漂着した商人によって鉄砲が伝来され、フランシスコザビエルがキリスト教を布教するなど、世界の中でもとりわけ長い対日関係を持つ国家だ。

それから500年近い時間が経過した現在では、逆に日本から伝来されるものも多くなってきている。その中で「日本酒」はどうなのか、現地最新レポートをお届けする。

大西洋とアフリカに面する欧州最西端国家

ポルトガル共和国は南ヨーロッパのイベリア半島にある人口約1000万人の国。面積は日本の本州の0.4倍ほど。隣国スペインと太平洋に囲まれて、ヨーロッパ諸国の中で最も西側にある。
人々のほとんどがカトリック教徒で、街のあちらこちらに古い教会があるのが印象的だ。

大航海時代からはじまった食文化革命

ポルトガルの食文化は実に素晴らしいものがある。
この国の食に起きた革命的変化の発端は1498年、かの有名な冒険家バスコ・ダ・ガマが喜望峰回りで西洋と東洋を結ぶ航路を発見したことによる「大航海時代」が始まりだ。

当時のポルトガルでは、アフリカ、アジア、南米との交易を通じて、多くの食材や調理技法を取り入れた。
スパイス(胡椒、シナモン、パプリカ、コリアンダー)やトウガラシはインドや南米から、さらにトマトやジャガイモも。これらが、現在のポルトガル料理を作り上げる素となっている。

この国の食文化は、その大航海時代の影響を受けながら、大西洋に面した海洋性気候で温暖な気候、そして一年を通じて取れる豊かな海の恵みが融合。

市場に足を運んでみると様々な魚介が。ポルトガルではイワシ、タコ、アサリ、エビなどが全国的に有名だが、中でもタラ(バカリャウ)は干物として保存され、国民的食材として広く親しまれているほど。毎日食べても飽きないように、なんと365種類のレシピがあると言われている。

▲魚市場には、鯵、さば、太刀魚、鰈、エイやあんこうなど、様々な新鮮な魚がズラリ。

▲バカリャウ(干しタラ)の切り身。ポルトガルではあちこちで売られている。

地理的には、北部ではミネラル豊富な土壌を活かした農業が発展し、オリーブオイルやワインの生産が盛んで、南部では柑橘類やアーモンドが特産品だ。
国内を南北に移動する列車の車窓にも、ブドウ畑やオリーブの林がなだらかな起伏に広がっている。

ポルトガル料理とSAKE

そろそろ話をお酒に移そう。
日本酒が和食に合うように、地元の国民酒(ポルトガル産ワイン)はポルトガル料理との相性が抜群だ。なぜそうなのか、その理由を3つの例をあげて分析。

1. 酸味と塩味のバランス
ポルトガルのワインの特徴として、比較的酸味が強いものが多い。これが塩気のある料理とよく合う。
バカリャウ(干しダラ料理)は塩気が強いので、ヴィーニョ・ヴェルデ(緑ワイン)と呼ばれる酸味のあるフレッシュな白ワインと組み合わせてみると、白身のタラの淡白な旨味を引き立ち味わいもぐっと引き締まる。

▲「バカリャウ・ア・ブラシュ(塩抜きした干しタラを細かくほぐして、玉ねぎ、細切りポテト、卵と炒めた国民的定番食)」とポルトガルワイン。

2. 脂肪分とタンニンの関係
肉料理に赤ワインがよく合うのは、赤ワインに含まれるタンニンで肉の脂肪分が分解し、口の中がさっぱりするため。
ポルトガルでは豚肉が良く食べられますが、牛肉も旨みがたっぷり。伝統的な味付けのポルトガル風ビーフステーキやポルト名物のフランセジーニャは、しっかりしたタンニンを持つ同国のドウロ地方の赤ワインがしっくりくる。

▲「フランセジーニャ(ハム、生ソーセージ、牛ステーキをパンではさんでメルトチーズを載せ、トマトとビールベースのとろみのあるスパイシーソースをかけた料理)」

3. 甘味とアルコールのバランス
世界的に有名な[ポートワイン]は、発酵中にブランデーを加えることでブドウ果汁の甘みが残るので糖度が高くアルコールも強いが、長期間樽熟成されたビンテージものは、ブルーチーズやチョコレートと絶妙にマッチし、甘味とアルコールのバランスが、発酵食品の強い風味を引き立てる。
オリーブオイルを使った創作デザートのプディングを、白ブドウが原料のホワイトポートと合わせてみると上質なあまみがしっとりと広がる。

▲「オリーブオイル漬けプディング」と、熟成の効いたホワイトポートワイン

天ぷらのふるさと

▲リスボン最大のリベイラ市場内の寿司スタンド。右奥の棚にならぶ金色の酒びんは「松竹梅」

それでは、ポルトガル料理と日本酒の相性はどうだろうか。
こちらの写真は、リスボン最大のリベイラ市場で見つけた寿司スタンドだ。

メニュー看板の筆頭にTEMPURA(天ぷら)があるが、実は「天ぷら」の語源はポルトガル語の「テンポーラ(temporas)」で、カトリックの四季の斎戒の期間のことをさす。
斎戒では、人々は数日間食べ物を控えめにしたり肉食をせずに、代わりに野菜や魚に小麦粉で衣をつけて揚げて食べる。
それが16世紀に宣教師によって日本に伝わったといわれている。
からっと揚がった天ぷらには、きりっとした味わいの日本酒は相性抜群だが、その背景を考えれば、ポルトガル料理と日本酒の相性も非常に良いはず。着目したポイントはやはり素材の「うま味」や「塩味」になる。

▲日本でもお馴染み本場の「天ぷら」

また、下記の料理も日本酒との相性ピッタリな間違いない組み合わせだ。

1.「バカリャウ・ア・ブラシュ」 × 純米吟醸酒
先述したポルトガルの代表的な家庭料理。干しダラと玉ねぎ、ポテト、卵を炒めてつくられる。
塩味とうま味が強いので、日本酒なら純米吟醸のややフルーティーな香りと柔らかな酸味が、塩気とバランスを取り、素材の味を引き立てつつ調和するだろう。卵にはワインよりは日本酒が断然合うので、卵のうまみもふっくらと仕上げてくれるはず。現地のレストランに日本酒があれば、、、と、つくづく思う。

2.「サルディーニャス・アサーダス(鰯の炭火焼)」× 山廃仕込みの日本酒
日本の食卓の定番(鰯の塩焼き)のポルトガル版。筆者は昔、まだポルトガル領だったマカオの料理屋でこれを食べて虜になった。
本場ポルトガルでは春から秋の定番で、魚市場のレストランで鮮度抜群の鰯はパリッと焼きあがり香ばしく中身はふっくら、脂の旨味たっぷりだ。
山廃仕込みは乳酸由来のコクと深みがあるので、脂っぽさを抑えつつ鰯の繊細な旨味を引き立ててくれること間違いなしだろう。

▲丸々育った鰯を焼き上げ。香ばしく、繊細な旨味がたっぷりだ。

日本酒普及状況

日本酒が買える場所や飲食店の普及状況はどうだろうか。
率直に言うと、他の欧米諸国やアジアの世界都市と比べるとまだまだこれからという印象だ。日本人経営の和食屋がごく少数ある以外は、街で見かけるのは現地人経営の小規模なSUSHIショップ程度。本格的な居酒屋の展開もまだない。

そうした中で、現地で人気の日本アニメのキャラクターで目を引く若者向けのラーメン屋がちらほら存在。そこではキリンをはじめとする日本のビールに加えて、メニューに日本酒がある。ただ、それらも名前こそ日本風だが、日本では見かけない中国原産ブランドが目立つ。
ラーメンと日本酒の相性の良し悪しはともかくとして、現地の人が日本酒に触れる場は少ない。日常での飲用習慣の無い酒は飲食店で初めて体験して、それが習慣になってから小売店で買われるのが通常なので、置かれている小売店も限られてくる。

▲中国の高粱酒(蒸留酒)の横に、中国ブランド清酒「ふるさけ 古今」

大手のスーパーや酒専門店の棚では、ワイン、ビール、洋酒類のみが陳列され日本酒は見当たらない。一方で中華系の食材小売店やスーパーでは、日本の醤油やビールがあり日本酒も複数銘柄が棚に置かれている。
ただし、陳列棚に品種や香味の説明表示もないまま、日本ブランドの日本酒も中国ブランド品と一緒に並んでいたりする状況。これでは、消費者は選びにくくなかなか手を出しにくい。物流や倉庫での在庫の保管状況も気になるところだ。
言うは易しだが、日本酒メーカー各社による現地の流通を巻き込んだ地道な活動が今後求められそうだ。

▲中国ブランド「本醸造 葵天下」と、「藍鶴」

▲日本でもお馴染みの酒の姿も。正面の顔の部分に値札が貼られるのは可哀そう・・・

夜明けはそう遠くない?

ポルトガルの食文化は、大航海時代の影響を受けながら、温暖な気候と海の恵みを活かした料理が特徴。ポルトガルの料理と地元ワインの相性は、酸味、タンニン、甘味のバランスによって明快に説明できるが、興味深いことに、日本酒とも相性が良い。
特にバカリャウやイワシのグリル、アサリを始めとした貝料理といった豊富な種類の魚介系の料理は、日本酒の繊細で洗練された旨味や上品なあまみとマッチしやすいことがわかります。

現在は、首都リスボンや第2の都市ポルトでも日本酒の浸透はまだこれからといったところだが、現地の人々がこの日本酒の潜在価値にひとたび気が付くと人気に火が付くのではないか。日本酒の夜明けはそう遠くはなさそうだ。

次回のレポートは、ポルトガルの隣国スペインからです。どうぞお楽しみに!

ライター:岸原文顕
「旅するソムリエ」。旅をつづけ、日本が誇る酒文化を世界に発信。酒類業界経験32年。通訳ガイドとしても活躍。

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