編集部が行く!

日本酒を通して企業戦略を学ぶ!関西学院大学内ゼミが取り組む「日本酒振興プロジェクト」とは?

兵庫県西宮市にある関西学院大学には、日本酒を通して経営戦略やビジネスを学ぶゼミがある。2024年現在、「関学・日本酒振興プロジェクト」と称されるフィールドワークは11期に渡り続いており、多くのゼミ生が日本酒を通じた学びを身に着けてきた。

関西学院 メイン画像
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日本でも有数の酒どころ「灘五郷」がある兵庫県西宮市。毎年シーズンになると、街を上げた日本酒イベントが開催される。
その中のひとつが毎年10月最初の土日に、西宮神社をメイン会場とした「酒ぐらルネサンス」だ。
灘を代表する酒蔵が銘酒を振る舞う中で、「関西学院大学」もまたブースを出店し酒を提供。会場内でもひと際異彩を放つ若人たちに興味を持った編集部は、会場内で学生たちと交流。さらに活動のねらいを問うべく、西宮にあるキャンパスに足を運んだ。

境内には「関西学院」の名も。

▲「酒ぐらルネサンス」関西学院大学出展ブース

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♯兵庫

関西学院大学国際学部の木本圭一ゼミにて学べる「関学・日本酒振興プロジェクト」。研究演習の基本方針には「会計をツールとして実践的に使いこなせるよう楽しく学ぶ」を掲げ、経営学と同時に経営戦略、マーケティングの学びを目標にしている。
ゼミの受講対象は関西学院大学に在籍する3回生。現役生ならば前年に20歳を迎え、飲酒が法的に認められるタイミングだ。若者の日本酒離れが叫ばれる昨今、当事者であるゼミ生たちは日本酒をどう捉えているのか。外国語能力の習得と、国際的なカリキュラム編成を中心にする国際学部が日本酒とどう関わっているのか。ゼミを取りまとめる木本教授、そしてゼミ13期生を取材した。

この方に話を聞きました


関西学院 木本教授

関西学院大学 国際学部 国際学科 木本圭一教授
プロフィール
関西学院大学大学院商学研究科博士課程後期課程修了。専門は会計学。これまでの研究テーマは財務会計基礎概念論、アジア会計論、国際会計論。現在は企業分析や財務諸表分析、会計教育をメインテーマにしている。

10年以上の歴史を持つ「関学・日本酒振興プロジェクト」

―ゼミの教材として日本酒を選定した理由を教えてください。

木本教授「国際学部は2回生での留学が必須になっています。留学先で『日本食』について尋ねられることが多いのですが、未成年ということもあり日本酒に対する質問に答えられません。『日本食文化』の一つとして、ゼミを通して日本酒を知ってもらうことがきっかけでした。
また、本プロジェクトを開始する前の2期生2013年の時、ビジネスアイデアコンテストで日本酒をテーマに応募し、準優勝したことももう一つの理由です。内容はカクテルで日本酒を広げるというものでした。
当時の審査員の中に白鷹、辰馬本家酒造の方がいて評価をしていただいたのですが、まだ実践で試した訳じゃない。そこで両社と大関、日本盛へも協力を依頼して翌年3期生で『酒ぐらルネサンスと食フェア』に日本酒カクテルブースを出店しました」

関学 木本教授

―「日本酒カクテル」はどういったものでしょうか

木本教授「西宮のバーテンダーが考案した『宮モヒート』です。
このカクテルは今でもゼミの中心となっており、灘の男酒の力強い酒質だからこそできたカクテルだとバーテンダーの方は話していますね。モヒートのベースであるラムを日本酒にしたものであり、今では日本酒カクテルの定番になっています。『宮モヒート』が生まれたお店『Bar The Time(バー・ザ・タイム)』にもともと私が通っていたことも、本プロジェクト推進に大きな影響を与えました」

宮モヒート

13期生が提供した宮モヒート

―やはり灘五郷が近いことも大きいでしょうか?

木本教授「当然、灘五郷に近く、京都伏見も近いという地理的メリットもあります。酒造メーカーへの連携、協力を申し入れる際にもこうした点が優位に働くことも考えました」

―プロジェクトの代表的な事例について教えてください

木本教授「まずは前述した日本酒カクテルです。
メーカー側が直接提案しにくい形態で提供することで、普段日本酒を飲まない層へもリーチできる。そこでアンケート調査を実施し、カクテルを通して日本酒へどれだけ興味をもってきてくれたかなどを調査しています。そのため、兵庫県内のイベントで日本酒カクテルのブース出店を行ってきました。
海外ではアメリカ、シンガポール、オーストラリアでのブース出店歴があります。また、酒蔵や酒米生産地の見学といった基礎知識を養う勉強、酒造メーカーとの意見交換会や大阪国税局との連携プロジェクトといった活動も行ってきました」

日本酒を全く知らない状態でプロジェクトを開始

―ゼミ生の多くは日本酒を好きで参加されているのでしょうか?

木本教授「本プロジェクトはあくまで企業分析ゼミの一環として実施しているので、ゼミ生が必ずしも日本酒好きとは限りません。
実際、今期のゼミ長はお酒にあまり強くありませんし、わたしもそこまで強くない(笑)しかし、日本酒を飲めない層、日本酒需要が落ち込んでいることに対するプロジェクトなので、全員がお酒好きだったらターゲットの気持ちが分かりません。また、『飲めなくてもいい』という前提があれば次の期もゼミを希望しやすい。あくまでも日本酒を通した企業戦略の分析が主軸になっています」

関学 木本ゼミ

―(13期生へ向けて)本ゼミに入った理由を教えてもらえますか?

13期生(女性)「このゼミでは経営戦略分析、財務諸表分析といった新しい知識を身につけることで将来の選択肢を広げられます。また、活発なプロジェクトをしていることから仲間と一つのことを成し遂げる体験ができると思い決めました」

木本教授「日本酒は年々厳しい市況に立たされており、特に若者需要が落ち込んでいる。日本酒業界の厳しい現状に向き合えることも、研究テーマとしての価値を高めています。また、酒造メーカーに訪問すると、上層部に限りなく近い担当者が対応してくれることも多い。場合によっては代表者が直接来てくださるので、戦略や訴求などの深い話が生まれやすいんです」

―日本酒を題材にする中で、手応えや楽しかったことはありましたか?

13期生(女性)「日本酒の知識がないので、最初はどんな味わいがどの年齢層に受けるのか分かりません。それでもアンケート結果を分析する中で情報を吸収し、ターゲットに合ったカクテルに近づけられた。その結果、『酒ぐらルネサンス』で目標にしていた1000杯を達成できたことは嬉しかったです」

13期生(女性)「同イベントで提供した日本酒カクテルを留学生が飲んで、美味しいと笑顔になってくれたことが印象に残っています。海外の方に日本文化を通して喜んでもらえたことで、グローバルな経験を得られたと実感しました」

―取り組みに対し、難しいと感じることはありますか?

13期生(男性)「人気の高いデザイン、味わいを調査して報告しても、それが酒蔵の持ち味を活かしたものになるとは限りません。わたし達が行う調査内容を、酒蔵の意向に沿ったものにするための調整は難しく感じています。一方で、とある日本酒の商品開発に携わった際には、酒蔵から事前にヒアリングした内容を100人以上の海外観光客へ直接アンケートしました。学生ならではのフットワークで得た情報を提供することで、商品開発の現場を経験させてもらえることは大きなメリットだと思います」

酒モヒートは、惣花(日本盛)、黒松白鹿(辰馬本家酒造)、山田錦(大関)、金松(白鷹)の中から好きな酒を組み合わせてできる。

宮モヒートをベースにしつつ、甘辛の調整などを学生が行っている。

大学生が等身大で日本酒の魅力を後世に伝える

―これまで「関学・日本酒振興プロジェクト」を実施してきて感じることは?

木本教授「日本酒に触れて嫌いになるゼミ生はこれまでいませんでした。お酒が飲めないとしても、日本酒に対していいイメージを持ってもらえることが多い。これはプロジェクトを通して蔵元や杜氏の矜持を聞き、触れられることが大きいと感じています」

―(13期生へ向けて)日本酒をどう捉えていますか?

「国境とか国籍を問わずに飲み終わったあとに仲良くなれる、奥深いお酒。留学先のドイツでも日本酒とお寿司を紹介した」
「人との対話を生むお酒だし、交際交流のトピックになる」
「後世に伝えていくべきもの。そのためにもわたし達の世代がどんどん魅力を発信できれば」
「キレイな味わいのためにお米を細かく削るなど、日本人らしさが出ているお酒」
「人を繋ぐお酒。教授と肩を並べて飲み、本音を言い合う機会を生み出してくれる。こうした文化を生んだ日本の素晴らしさを認識」

関学 木本ゼミ

「学生時代を彩ってくれる存在。プロジェクトを通して数々の経験を積むことができた」
「視野を広げてくれたもの。日本酒に対するイメージの変化はもちろん、年代を超えた交流、伝えられる日本の魅力が1つ増えた」
「ポテンシャルの高いお酒。同世代への伝え方を今後も勉強していきたい」
「自分自身を成長させてくれたもの。日本酒造りの想いを知る中でイメージが変わった」
「偏見を取っ払ってくれたもの。日本酒だけではなく何事にも偏見を持つことは良くないと気がついた」
「日本酒のプロジェクトをやっていると言うと驚かれる。日本酒には『わっ』という驚き、企業や仲間との『輪』、そして平和の『和』があると思う」
「日本とわたしを繋げてくれた存在。日本語で伝えられる日本文化の知識が増えた(韓国人留学生)」

ストーリーとして味わう日本酒

木下ゼミ 集合写真

―今後のプロジェクトの展望を教えてください。

木本教授「本ゼミは毎年2月、3月に蔵見学を行い、10月に『酒ぐらルネサンス』という流れだけは継続していますが、あとはその年のゼミ生主体となって進めておりました。
また、『ゼロスタートの方が学びが多いだろう』と、プロジェクトをあえて毎年リセットしていたのですが、今のゼミ生達は14期生との交流を生み出そうとしているので、少しやり方を変えようと検討しています。本プロジェクトに携わっている酒蔵なども、いろいろなものを引き継いでいると思われているので。
その分求められるハードルも高くなってしまいますが、より良いものを生み出せればと考えています」

本プロジェクトは2回生の2月スタートとなるため、早生まれのゼミ生は蔵見学時にお酒が飲めないこともあるという。そのため、人生で初めて飲むお酒が日本酒ということも珍しくないそうだ。
こうした中でも10年以上に渡りプロジェクトが続き、多くのゼミ生が日本酒を好きになり社会に羽ばたいている。これについて、木本教授は業界全体としての酒質向上だけでなく、日本酒を「ストーリー」として味わえるゼミの環境にあると分析する。

国際交流、企業分析、マーケティングを学ぶ学生たちが、本プロジェクトを通して日本酒に触れ、その魅力を文化として深く捉える姿が印象的だった。酒造技術が飛躍的に向上している今、造り手の想いと歴史を広く周知することが、日本酒の未来を拓く鍵になるだろう。


ライター:新井勇貴
滋賀県出身・京都市在住/酒匠・SAKE DIPLOMA・SAKE検定講師・ワインエキスパート
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。

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