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日本の酒造りを未来に継承!「ユネスコ無形文化遺産登録記念」 シリーズその①

12月5日、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録決定。地域の風土と暮らしに根ざした日本酒の醸造文化は、これからさらに新たな価値の創造へと歩みを進めようとしている。

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無形文化遺産は生きた文化を未来へ継承する仕組み

「伝統的酒造り」が、ユネスコ無形文化遺産への登録が2024年12月5日に決定した。
無形文化遺産とは、[法隆寺]や[厳島神社]といった建造物として残る文化遺産とは異なり、人々の営みの中で継承されてきた無形の文化財である。祭礼行事や伝統芸能、匠の技、そして食文化など、地域の暮らしの中で育まれ、時代とともに少しずつ形を変えながら、今なお発展を続ける生きた文化遺産である。

ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は2003年、無形文化遺産を守り次世代に伝えていくため、無形文化遺産保護国際条約を定めた。この条約もとづき、各国の代表的な文化をリストに登録するなど、無形文化遺産に対する認知を高め、文化の相互理解を深める取り組みが行われている。

登録に関する評価基準があり、地域社会にとってのその文化の重要性、文化の多様性と持続可能な社会への貢献、その保護・継承に向けた措置の有無などが審査される。登録は単なる伝統の保存ではなく、現代社会の中で生きた文化として守り育てる責任を伴うのである。

日本の無形文化遺産登録の歩み

日本の無形文化遺産登録の歴史は、2008年の能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎の登録に始まり、伝統的酒造りを含めて2024年現在では23件が登録されている。

なかでも2013年に登録された『和食:日本人の伝統的な食文化』はとくに注目された。これは、日本人の『自然を尊重する』という精神が食文化全体に表れていることが評価されたもので、社会的慣習も含めて、日本の食文化が無形文化遺産として認定されたのは画期的なことだった。

和食の無形文化遺産への登録により、和食の特徴である多様で新鮮な食材の尊重、健康的な食生活を支える栄養バランス、自然の美しさや季節の移ろいの表現、正月などの年中行事との密接な関わりが、世界的な評価を受けることとなった。

それが追い風となり、海外での日本食レストランの数や農林水産物・食品の輸出額が増加し、訪日外国人旅行者数や旅行消費額も伸びた。さらに、国内においても和食の価値を再認識し、保護・継承に向けた取り組みが進められるようになったのだ。​

このように、無形文化遺産の登録が増えていくことは、日本の文化的価値を世界に発信するとともに、国内でも保護や継承の取り組みが進むきっかけにもなる。日本の豊かな文化を次の世代に引き継ぐためにも、無形文化遺産の登録は重要な役割を果たすと言える。

参考:文化遺産オンライン「和食;日本人の伝統的な食文化
参考:農林水産省「「和食」のユネスコ無形文化遺産登録5周年!

「伝統的な酒造り」の無形文化遺産への登録を目指す理由

日本の伝統的な酒造り(清酒、焼酎・泡盛、みりんなど)は、もの作りを超えた文化である。
500年以上の歴史の中で、各地の杜氏や蔵人たちは土地の気候風土に寄り添い、麹を使う技を磨き、受け継いできた。そうして醸された個性豊かな味わいの酒は、祭礼や神事、冠婚葬祭など日常の暮らしの節目や交流の場で、地域の人々の絆を強める役割も担ってきた。

京都・伏見清酒まつりの様子

また、酒造りは地域の米作りを支え良質な水源を守るなど、自然環境との調和を大切にする持続可能な産業として、地域の社会と文化を豊かにしてきた。

この伝統が無形文化遺産に加わることは、地域社会が育んできた「つながり」の価値を世界に伝える機会となる。さらに、世界各地の醸造文化との交流を通じて、人類共通の文化遺産の価値を見つめ直し、未来へと受け継いでいく意識を育むきっかけにもなるだろう。

無形文化遺産登録で広がる伝統と革新の未来

伝統的酒造りがユネスコ無形文化遺産に登録される意義は、この技術を保護・継承することが国際的な責務として認められる点にある。

このような国際的な認知は、さらなる波及効果を生み出す。国内では、日本酒への新しい関心が広がり、これまで親しみのなかった世代も日本酒の魅力に触れる機会が増えるはずだ。興味深いことに酒造りの現場ではすでに、伝統を大切にしながらも革新的な挑戦を続ける若手醸造家が増えており、登録を機に彼らの情熱的な取り組みがさらに加速することだろう。

また、酒蔵の見学や体験プログラムをはじめとしたツーリズムの広がりは、地域の活性化に寄与するに違いない。これは単なる観光の賑わいにとどまらず、酒造りを軸とした地域創生へと発展していく。

海外に目を向けると、日本食ブームと相まって日本酒の魅力は確実に広がりを見せている。今回の登録により、その文化的価値がさらに広く発信されることで、ブランド価値の向上や新たな市場の開拓、さらにはプレミアム商品としての競争力強化も予想される。

こうした国内外での相乗効果により、日本の伝統的な酒造りは新時代への歩みを確かなものとしていく。無形文化遺産登録は、日本の酒造り文化のさらなる発展への大きな一歩となるのである。

次回シリーズその②「伝統的な酒造り」に続く


文/ 石川葉子
フリーランスライター/Japanese Sake Adviser (SSI)/WSETLevel1/東京出身/アメリカ・ラスベガス在住。
この地でおいしいお酒に出会ってから日本酒に目覚める。最近は飲むはもちろん、自宅でのSake造りも楽しんでいます。
SNS:Instagram @lvsakegirl note @lvsakegirl

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