楽の世 山廃純米無濾過生原酒
丸井合名会社 | 愛知県
丸井合名会社
江戸中期創業、かつては「剣菱」への桶売りもしていた愛知県[丸井合名会社]。一度は消えかけた自社銘柄「楽の世」を返り咲かせ、唯一無二の個性を放つ。
愛知県江南市布袋町。戦国期に織田信長が整備し、江戸時代には酒屋をはじめ味噌、醤油などの醸造業や紺屋が立ち並んだ岩倉街道(現・柳街道)沿いに、寛政2年(1790年)に創業したのが[丸井合名会社]である。
当初は「阿ら玉」、昭和期からは「楽の世」という銘柄の酒を醸していく中、令和元年度まで「剣菱」への桶売りを行っていた。桶売りとは、大手メーカーへの直接受注生産のようなシステムであり、予め売り先が決まっていることでロスもなく、安定した環境での酒作りが可能だった。しかし、その反面で自社銘柄の「楽の世」の生産量が減っていき、さらにその桶売りもじわじわと契約量が減少していく。それに危機感を覚えたのが、現・蔵元兼杜氏の村瀬幹男氏である。
桶売りに依存する状況が長くは続かないと悟ると、廃業か、自社ブランドの強化かという選択を迫られた。蔵元が選んだのは、眠れる「楽の世」を再び蘇らせること。かといって、一時の瞬間風速的な酒を後発で世に送り出しても意味はない。長年の剣菱への桶売りから、流行に流されない酒造りが定着していたのも幸いし、「自分が美味しいと思える酒」を造るという舵切りへ心を決められた。
こうして復活した「楽の世」は芳醇で濃厚。旨口があり、甘味や酸味が強く、キャラクター際立つ唯一無二の酒だ。仕込みには地下40mの井戸から引いた木曽川水系の伏流水を使用し、酒米は基本的に兵庫県産山田錦を精米歩合70%に揃えている。
造りは山廃造りに統一し、「熱掛四段仕込み」が最大の特徴。通常の日本酒は、雑菌の繁殖を防ぐため「三段仕込み」といって水・米麹・蒸米を3回に小分けにしてタンクに投入するが、「楽の世」はそれを4回に分け、蒸したての熱した状態の米を投入している。この方法により、デンプンを分解する麹の酵素がより働き、甘味の強く重厚な酒が生まれる。さらに四段目だけは使用米を変えて、個性の違いを生み出しているという。それを濾過せず、本来の味わいをそのまま残すのが「楽の世」である。
令和に返り咲いた「楽の世」は、その個性に魅せられたファンを着々と増やし続けている。やみくもにラインナップを増やさず、ずっと飲んでもらえる酒を造りたいというのが蔵元の思い。「楽の世」のリスタートはこれから続く未来への発展のほんの序章だ。