【豆知識】酒造りの技を伝承する杜氏とは?日本三大杜氏についても知っておきたい!
日本各地には長年の技術を受け継ぐ杜氏集団があり、なかでも三大杜氏はよく知られた存在です。日本酒造りのスペシャリストである杜氏について唎酒師の藤田えり子さんが解説します。
杜氏は酒造りの総責任者
酒蔵で酒造りにかかわる蔵人を指揮する、最高責任者が杜氏です。杜氏制度が始まったのは江戸時代。これまでは夏を除いて通年行われていた酒造が、幕府によって冬場だけに制限され、寒造りが主流となりました。それにともない普段は畑や田んぼで働き、秋から冬にかけての農閑期に、杜氏と蔵人が集団で出稼ぎする形で酒造りに携わるようになったのです。
北は青森県から南は長崎県まで、主だったもので20以上の杜氏集団があり、それぞれに独自の技術と様式を伝承しています。そのうちの代表格は岩手県の南部杜氏、新潟県の越後杜氏、兵庫県の丹波杜氏で、これらは「三大杜氏」と呼ばれます。さらに石川県の能登杜氏、または兵庫県の但馬杜氏を加えて「四大杜氏」とする場合もありますね。
南部杜氏
岩手県花巻市石鳥谷町で発祥。南部杜氏協会は全国最大の規模を誇ります。江戸時代以前から藩内では酒造りをしていましたが、慶長5年(1600年)に伊丹から伝わった製法をもとに本格化し、多くの造り酒屋が栄えます。その後、技術を身につけた者たちが杜氏として各地の酒蔵へ出向くようになりました。
南部流の主な酒蔵:西田酒造(青森県「田酒」)、一ノ蔵(宮城県)、磯自慢酒造(静岡県)など
越後杜氏
新潟県発祥の越後杜氏は、地域によって、頸城(くびき)杜氏、刈羽杜氏、三島越路杜氏、三島野積杜氏に分かれます。冬の間は雪に閉ざされる新潟は出稼ぎに行く農家が多く、造り酒屋で働いて技術を身につけた者が杜氏となったようです。
越後流の主な酒蔵:八海醸造(新潟県「八海山」)、朝日酒造(新潟県 「久保田」)、石本酒造(新潟県 「越乃寒梅」)など
丹波杜氏
兵庫県篠山市で発祥。宝歴5年(1755)に庄部右衛門が池田の大和屋本店で杜氏を務めたことが起源といわれます。灘や伊丹の銘酒を造り、地方へ渡り指導をして酒造技術を高めました。
丹波流の主な酒蔵:大関(西宮市)、剣菱酒造(神戸市)、小西酒造(伊丹市)、富久錦(加西市)など
杜氏の減少と様変わりする酒造り
江戸時代から続いた杜氏制度ですが、後継者不足が問題になっています。日本酒造杜氏組合連合会所属の杜氏は昭和40年に3,683名だったのが、令和4年に712名まで減少しました。杜氏の技に頼るしかなかった昔に比べ、発酵について科学的に分析が進んだ現代では、大学などで醸造を学んだ若手が酒造りを担うケースや、蔵元自身が行う蔵元杜氏も増えています。
ただ、杜氏には酒造の技術や知識だけでなく蔵人たちを統率する能力も求められ、ベテランの杜氏は慕われる人柄であることが多いようです。「和醸良酒」という言葉があり、これは「みんなで心を一つにすれば良い酒が生まれる」という意味。チームワークが大切な酒造りの現場では、まだまだ杜氏の「人間力」がカギを握っているといえそうです。
ライター・唎酒師 藤田えり子
大阪の日本酒専門店に世界を広げていただき、さまざまな日本酒や酒蔵に出合う。好きな日本酒は秋鹿、王祿ほか
お酒以外の趣味は鉱物集めとアゲハ蝶飼育。
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