【京都府/東和酒造】
女性杜氏による復活蔵物語!今川純さんが醸す福知山唯一の地酒の魅力
京都府福知山市に蔵を構える[東和酒造]一時期は廃業寸前の状況にまで追い込まれましたが、現在は地元米にこだわった個性豊かな銘柄を製造しています。 本記事では女性初の丹波杜氏として家業の復活を果たした、11代目蔵元今川純さんに蔵の復活までの経緯、そして地元福知山への想いを聞きました。
戦国武将の明智光秀が福知山城を築いた京都府福知山市。
京街道生野宿近辺に蔵を構える東和酒造の11代目となる今川純さんは、女性初の丹波杜氏として小規模ながらも地元米、水にこだわった酒造りを行っています。
一時期の厳しい状況から自家醸造を復活させた今川さんは、福知山市の市民参加型プロモーション企画「福知山の変」の6人目にも選定され、市内外へその取り組みをアピール。酒蔵復活までの経緯、そしてお酒造りへの想いを今川さんへインタビューしました。
この方に話を聞きました
- 東和酒造11代目杜氏 今川純さん
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プロフィール女性初の丹波杜氏として六人部の酒米を積極的に使い、地元産にこだわった銘柄を製造する。
京街道沿いの醸造業として発展する
現在の東和酒造の創業は1717年(享保2年)にまで遡る。
「桶狭間の合戦で負けた残党の一部が、この近辺に定着したことが元々のルーツと聞いています。わたしは今川姓ですが(今川義元の)直系でははなく、その一族という立ち位置になるのですが」
こう話すのは現在東和酒造11代目蔵元、そして杜氏として活躍する今川純さん。
「京街道の生野宿から流れてくる人向けにお茶屋さんを始めると同時に、味噌や醤油、お酒などの醸造業をやっていたようです。長年、今川酒造場という名称だったのですが、戦時中に周辺2つの酒蔵が合併して現在の東和酒造となりました」
「東和」という名称には「福知山の東部で」という意味があり、その後合併した酒蔵は撤退したため、再び今川家の家業として東和酒造という名称を残して戻ってきたという。
「廃業手続き」から自家醸造の再開へ
「昭和の後半には蔵の井戸枯れなどの問題が重なり、30年間くらい伏見の酒蔵からお酒を買って自社銘柄として販売していました」
しかし、時代が下るにつれ純米酒や吟醸酒ブームなど「質」にこだわる消費者が増加。誰が、どんな酒を造っているのかが問われるようになってきたのだ。
「『東和酒造ではお酒を造ってないらしいよ』と瞬く間に噂が広がり、色々な所から冷たい扱いを受けることになったんです」
今川さんが実家である東和酒造に呼び戻されたのはそんなタイミングだった。厳しい状況が続く家業の「廃業手続き」のため、法学部を卒業後、法律系資格の勉強を続けていた娘の力を借りたい意図があったという。当時の状況を今川さんはこう振り返る。
「蓋を開けてみると本当に破産しかないような状態。苦労しながらもある程度の方は付けたのですが、まだまだ金銭的なやり繰りの目処が見えませんでした。廃業すると新たに家も探さないといけませんし、お先真っ暗じゃないかみたいな」
そうした状況から、今川さんは酒造業の再開という決意をする。
「廃業するにもお金がかかる。だったら今の家や蔵があるうちにまたお酒を造って商売したほうが良いんじゃないかとパッと思いついて。そこから一気に突き進んでいったんです」
そうして東和酒造33年ぶりとなる自家醸造、さらに今川さんの初めてとなる酒造りがはじまったのだ。
藁にもすがる気持ちで修行先を探す
「酒造りを学ぶために1年目は姫路の灘菊酒造へお邪魔しました。全然面識もなかったのですが藁にもすがる気持ちでお願いしますと言って」
女性杜氏として活躍していた灘菊酒造の川石杜氏の元で酒造を学んだ今川さん。1年間平日は酒造の勉強、週末は東和酒造の業務や資金繰りに追われていたという。
「翌年は別の蔵に依頼したのですが、『女性は気を使うから』と断られてしまったんです。だから酒類総合研究所のコースに入り、新たに学びだしました。本当は5年くらい修行したかったのですが、そんな余裕も無くなってきたので復活したのが2011年になります」
酒類総合研究所で今川さんが得たものは酒造知識だけではない。当時、長野県の酒蔵の跡継ぎ候補として研究所に出入りしていた飯田玄さんと出会い、結婚するに至ったのだ。
「当時は結婚したけどまだ別居していました。私が長野の蔵へ行く可能性もあったかもしれませんが、旦那がこちらへ『来る』と言って」と今川さんは笑う。
飯田さんも「当時は米洗いの時間が真夜中だったりするし、何言ってるの?と驚きました」と振り返る。
まるで夫婦漫才のように話す二人は、今の東和酒造が持つ魅力の一つといえるだろう。
インスピレーションによる酒造りを行う
現在、東和酒造には「六歓」という主力銘柄がある。
「今もあるのですが『福知三万二千石』という銘柄名が長いなと思って。次は2文字で読みやすいものという条件がありました」と今川さんは話す。
「六歓」という名称には「六人部(※)の歓び」に加えて、第六感である「心」を歓ばせたいという2つの意味が込められているという。
※六人部:東和酒造が位置する地域、福知山市六人部地区を指す
また、小規模ながらも多数の酵母、酒米を使用しながら個性豊かな銘柄を展開する東和酒造。その理由について「色々やりたくなるから」と話す今川さん。
酒造りの設計についても今川さんのインスピレーションから広がっていくことが多いという。「『えすえふ』は『そろそろ普通の純米吟醸を』と思ったからSFなんですよ。SFなので宇宙、未知との遭遇ということで新しい酵母を使った挑戦といった風に広がっていったんです」
他にも「つきねこ」は陶芸家の家で出会った「ツキ」という名前の猫を見ている時、「燗酒が飲みたい」と思ったところから始まったという。このような今川さん独特の感性による商品を毎年楽しみにしている人は少なくない。
また、印象的なカラフルなラベルは型染め染織家である今川さんの従姉妹に依頼している。
「わたしと似たような性格なので意思疎通がスムーズなんです。『冬になりかけの湖の底のあの色』みたいな曖昧なイメージでも分かってくれるんですよ」と笑う。
・六歓 はな 特別純米 無濾過生貯蔵酒
上六人部地区で栽培された山田錦を55%精米。穏やかな香りと優しいアタック山田錦特有の柔らかい旨味が特徴。スッキリとした淡麗な味わいと心地よいキレのある後味が楽しめる人気の一本。
・六歓 えすえふ 純米吟醸
今川さんが「未知との出会い」をコンセプトに設計。リンゴ酸を多く生成する京都府オリジナル酵母である「京の恋」を東和酒造の造りで初使用。まろやかかつジューシーな味わい、ほんのりと甘酸っぱい酸味でスッキリ爽やかに感じられる。
・六歓 あお 山廃純米吟醸酒
「六歓」シリーズ唯一となる山廃仕込み。酵母無添加で醸されており、まろやかな酸味としっとりした旨味が力強く広がる。「山廃=飲みにくい」といったイメージを覆す、軽快かつ爽やかな一本だ。
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福知山市唯一の酒蔵を全国へアピールする
今川さんは2024年3月より、福知山市のプロモーション企画に選定された。
「すでに5人の方がポスターに採用されており、六人部だから6人目に選ばれたのかと思ったのですが偶然だったようです。7、8人目だったら受けなかったと思います」と笑う今川さん。
福知山に酒蔵があることを周知させるために、すでに9年連続で酒蔵祭りを実施している東和酒造。今回のプロモーション企画への採用によって、さらに広い範囲へ東和酒造の存在をアピールできるはずだ。
また、Sake World NFTへの出品については「福知山は寒暖差が激しいので荒々しい熟成になりやすいんです。低温で穏やかに熟成するとどうなるのかと、今後の楽しみとして気になっています」と話す今川さん。加えて、ジャケ買い需要の多いラベルもNFTとしての収集に向いていると期待を寄せる。
福知山唯一の酒蔵として小規模ながらも個性豊かな銘柄を展開する東和酒造。小ロットによるオリジナル日本酒製造も受注するなど、様々な取り組みも精力的に行っている。年々存在感を増す「六歓」銘柄を通じて、これからも全国各地へ福知山市の魅力を発信し続けるはずだ。
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ライター :新井勇貴
滋賀県出身/SAKE DIPLOMA・日本酒・焼酎唎酒師
酒屋、食品メーカー勤務を経てフリーライターに転身。好みの日本酒は米の旨味が味わえるふくよかなタイプ。趣味は飲み歩き、料理、旅行など